第27回:元リーフタクシー運転手、最新型リーフに仰天する(最終回)
俺、感動しちゃったよ(小さな旅編)
2016.04.14
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
一夜城公園にて思う
リーフタクシー運転手時代の思い出である。
最新型「リーフ」とはまるで関係ない話だけれど、『大沢悠里のゆうゆうワイド』(TBSラジオ)を聴かないことには朝の仕事が始まらないとか言ってたタクシー運転手とは、私だ。
金曜日のお色気大賞。これを聴くわずかな時間を逃したくなくて回送板を掲げたことしばしば。番組の水曜日のパートナー、見城美枝子さんを客として乗せたときは、黙って胸のうちで「ゆうゆうワイド、聴いてます」とつぶやいた私だった。
ところが、なのだ。
30年間続いたその番組が今年2016年4月8日で終了だって。
ニュースを耳にした瞬間、嘘だろッ、と顔が引きつった。
そもそもラジオの仕事など数えるほどしか経験がない私だけれど、リーフタクシーで都心を流しながら、実は、ひそかに、こう願っていたからだ。
いつかゲストとして番組に出演したい!!
マイクに向かってゲストが歌う、お決まりの「おおさ~わゆうりのッ、ゆうゆ~うワァアイドッ」。私も、あれ、やってみたかった。
さて、小さな旅の続き、である。
河津桜が満開だった。
凪(な)いで光る相模湾を一望する笠懸山(=石垣山)、河津桜がまさに満開を迎えた一夜城歴史公園の駐車場である。小田原漁港で刺し身定食をいただき、食後のコーヒーは一夜城跡でと定め、石垣山農道の急勾配を登ってきた最新型リーフ。さすがに大河ドラマの影響は絶大とみえて、平日だというのに山の上の駐車場は混雑ぎみだった。
海と空の境界あたりに浮かべた真っ白いリーフを眺めながら、腕組みをして、私は考えるわけである。
忍城の戦いは映画『のぼうの城』(注)で観た。
八王子城の戦いは、その跡地を歩いた(第10回:八王子城跡と城山トレッキング・その1参照)。そして今、秀吉の小田原征伐の、あの一夜城歴史公園にやってきた。
こうして並べてみると、そんなつもりは毛頭ないのに、俺、すっかり大河ドラマ『真田丸』にはまってる人みたいじゃないか。
春を待つ2月のある日、真っ白いリーフで小さな旅にでた私。ここまで無充電で走った96.4kmとバッテリー残量を示す目盛りの横に標示された「116km」(=この状態であと116km走れるの意味)の表示を確認し、あらためて感心していた。
すごいな、最新型リーフの電費。
そして次の瞬間、いや、ちょっと待てよ、となった。
リーフとの決して浅くはない因縁を結んでいた私の目には、最新型リーフの航続距離は「すごい」と映る。だから、すごい、すごいと褒めまくったけれど、果たして、誰もがすごいと思うのだろうか。
ん、なわけないか。
航続距離200kmを「すごい」と感嘆する?
それとも「たった?」と嘆く?
小さな旅の折り返し地点で、“確実に走れる200km前後”の評価に思いを巡らせる私だった。
もっともっと遠くまで
カーナビに、こんな表示がでた。
「目的地まで70kmです。現在のバッテリー残量では到着できない可能性があります。充電スポットを経由地に追加しますか?」
設定した目的地は日産自動車グローバル本社(=横浜市西区)で、先の表示がでた時点でバッテリー残量は約半分、航続可能距離は94km。直行なら充電なしでもたどり着く自信はあるけれど、その前にwebCG編集部に立ち寄るとなると、やっぱり充電は必要だろう。
さて、どこで充電しようか。
たとえばファミレスの駐車場に急速充電があればいいのに。そこでコーヒーでも飲みながら充電待ちというのはどうだ?
例の、謎のお姉さん(第24回参照)に聞いてみる。
カーナビの画面に表示された『オペレーター』に触れると、妙に野太い声で「お待たせしました」とでたからびっくりしたら、謎のお姉さんではなく、登場したのは謎のお兄さんだった。
ファミレスで急速充電できる場所を探しています。
謎のお兄さんは「しばらくお待ちください」と私に告げ、本当にしばらく待たせてから、こう言った。
「ファミリーマートに急速充電施設が2カ所ございます」
おしいッ!!
ファミレスとファミマ。ちょっと頭が混乱ぎみの謎のお兄さんに丁寧に礼を述べ、よし、充電は適宜、と心に決めて走りだした。
往路と同じく遠回り遠回りを重ね、結局、東名高速道路の下り線、港北PAで充電休憩。この時点での走行距離は163.6km、バッテリー残量を示す12個の目盛りは3個で、航続可能距離は41kmと表示されていた。まさに充電どきだった。
リーフで旅をしてみると、全国に整備された急速充電施設、6000基(第24回参照)という数字のすごさをあらためて実感することになる。とにかく、いともたやすく急速充電施設を探すことができるし、高速道路に入ればSAにもPAにもそれがあるからだ。
小さな旅をして、わかった。
最新型リーフなら、もっともっと遠くまでだって旅ができる。
何しろ、無充電で200km、さらに、6000基の急速充電施設、だもの。
俺、感動しちゃったよ。
と、この日の旅を総括している30分のうちに充電完了。
バッテリー残量を示す目盛りは3個が10個に、航続可能距離は41kmが184kmに、それぞれ戻っている。
私は、旅の終わりに向かってまた走りだす。
真っ白いリーフと私の小さな旅は、往復246.3kmを走って終わった。
(文=矢貫 隆)
(注)小田原征伐では北条の多くの支城も攻められいる。八王子城は上杉景勝、前田利家の軍勢に攻略され落城。忍城は石田三成、直江兼続の軍勢によって攻められる。映画『のぼうの城』は、忍城に攻めくる2万の軍勢を500人の手勢で迎え撃ったという史実をもとにした和田竜の痛快な歴史小説が原案。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
-
第31回:「制限速度120km/h へ引き上げ」の背景にあるもの(最終回)
絶対の自信あり 2016.8.11 交通事故が多発し「スピードは悪」とされた時代には考えられなかった制限速度の見直し。時代は変わり、今回警察庁は高速道路の制限速度引き上げを決定した。その理由は? 背景には何があるのか? シリーズ最終回。矢貫 隆が解説する。 -
第30回:「制限速度120km/hへ引き上げ」の背景にあるもの(その3)
「なぜ120km/hなのか」のわけ 2016.8.4 賛否両論ある高速道路の制限速度引き上げ問題。制限速度を引き上げるにしても、なぜ120km/hなのか? それには「自動車専用道路の設計速度」が関係しているという。矢貫 隆が詳しく解説する。 -
第29回:「制限速度120km/hへ引き上げ」の背景にあるもの(その2)
印象と現実は違う、かも 2016.7.28 高速道路の制限速度引き上げについては、自動車の性能や実勢速度を考えれば当然という声もあれば、速度差が大きくなって危険が増えるのでは、という意見も。他車との速度差があると何が起きるのか? 速度引き上げ想定道路のひとつ、新東名を走ってみた。 -
第28回:「制限速度120km/hへ引き上げ」の背景にあるもの(その1)
プロローグは「昔の思い出」 2016.7.21 警察庁の発表直後こそメディアは120km/h時代の到来を報じたが、それから3カ月、なぜ今、なのか、なぜ120km/hなのか、なぜ限定的な区間だけなのか等についての続報がいっこうに伝わってこない。だから矢貫 隆が、今、それを語る。 -
第26回:元リーフタクシー運転手、最新型リーフに仰天する(その4)
小田原丼(小さな旅編) 2016.4.7 最新「リーフ」に試乗し、その電費向上を実感した元リーフタクシー運転手の矢貫 隆。これならちょっとした旅にもでられるかも!? 横浜から足を伸ばして小田原の漁港へとリーフを走らせた。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。