トヨタ・サクシードUL(FF/CVT)/プロボックスGL(FF/CVT)
本気のトヨタ 2014.09.29 試乗記 顧客から高い支持を集めるビジネスバン「プロボックス/サクシード」が、デビューから12年にして初の大幅なマイナーチェンジ。徹底的な利便性の追求と、進化した走りに、トヨタの底力を見た。「タフネス」だけが魅力ではない
主に環境性能の向上を目指した細かな仕様変更は重ねられたものの、目に見えるかたちでのマイナーチェンジはこれが初めて。2002年の登場以来、実に12年もの間、見た目が変わらなかったことになる。われわれの生活の中ではさほど意識されないものにして、それを必要とする方々にとっては代わりの利かない存在。客の要求は明快で、かつ何より求められるのは耐久性や信頼性。こういうクルマを作らせると彼らがゾッとするほど強いのは、何より市場を席巻する「ハイエース」が物語っている。
モデル末期もへったくれもなく、月5000台前後の販売ペースを淡々と守ってきた「プロボックス/サクシード」は、そんなトヨタのトヨタたるゆえんを知るに、最も廉価なクルマである。が、一個人が装備を吟味しながら選ぶような類いのクルマではない。その顧客の9割以上は法人、そしてその大半はリースだ。恐らくディーラーのセールスマンに購入の意思を示したら、若干値段は高くとも見た目品質は比べ物にならないほど立派な「カローラフィールダー」を薦められるだろう。が、僕の周囲にもあえてこのクルマを所有する人が何人かいる。彼らが求めているのは、耐久性や信頼性だけではない。長距離を淡々とであったり、山道を軽快にであったりという、走りにまつわるコストパフォーマンスの高さだ。そこが初のマイナーチェンジでどのように変わったか。僕の興味も多くはそこに割かれていた。
時代に即したマイナーチェンジ
内容面におけるマイナーチェンジの最大のトピックは、新たなパワートレイン&ドライブトレインの搭載、そして歩行者障害保護要件に対応するプラットフォームの変更にある。
エンジンは1.5リッターモデルには従来の1NZ-FE型をリファインしたもの、そして1.3リッターには現行「ヴィッツ」などに搭載される1NR-FE型を新たに採用し、トランスミッションはその両方にCVTを組み合わせる。CVTのハードウエアは乗用車用とまったく同じで、これについてエンジニアは、相応の高負荷耐久テストを繰り返しても問題はなかったとしている。これらの狙いはともあれ燃費の向上にあって、FFモデルはいずれも平成27年度の燃費基準を前倒しで達成したかたちだ。
そのNRエンジンとCVTユニットを積むために、新型のプラットフォームはフロント~フロアまわりまでを初代ヴィッツ系のそれから現行ヴィッツ系のものへと変更。これに対してリアセクションは現行のものをキャリーオーバーという混成型となった。現行ヴィッツのプラットフォームは全幅の関係でそのまま用いることができないため、60mm幅を縮めるなどプロボックス用に改修されている。フロントサスペンションも、型式こそストラットだがジオメトリーは別物。従来型から継承したリアのラテラルロッド付きトーションビームサスと調律して走りを再設定したという。その方向性はこれまでのものに対して、追加されたリンクによって支持されるスタビライザーの径をあげてロール耐性を強め、そのぶんスプリングレートは若干落とすことで乗り心地と積載力の折衷を図ったということだった。
変更のすべてに根拠がある
ここでCVTの件とあわせて思い浮かぶのは「そんなヤワっちい方向で大丈夫なわけ?」という疑問だ。が、そこは他の追随を許さないトヨタの商用車部門。徹底的なリサーチの結果、現状のプロボックスの平均積載量は400kgの上限に対して150kg程度と、半分以下に収まっていることを見い出したそうだ。つまり、輸送手段の多様化から、ライトバンの用途は以前のような積載力命の近距離移動から小口輸送&中長距離移動へと移行していると。もちろん法定積載量での安定性は担保しなければならないが、万一の著しい過積載まで織り込むよりも、長い時間を疲れず快適に走れる乗り心地を勘案したほうが結果的にユーザーフレンドリーだろうという考えに至ったわけだ。
一事が万事で、今回のマイナーチェンジには理由の曖昧な変更は一切見当たらない。全てに裏取りされた根拠がある。文字通り、プロの仕事がサクセスへの道なのだろう……とお手盛りにつないでみたところで、今回サクシードが専用ボディーではなくプロボックスと統合された理由にしても、「カローラバン/カリーナバン」の統合を行った際に見せた、顧客への車格的配慮の必要がなくなったからだという。つまり積載力的にはプロボックスで十分事足りる上、ワゴンを求める向きにはカローラフィールダーが充当できるという判断があったそうだ。
顧客の要求に対してはひたすら滅私奉公という姿勢は、全面変更されたダッシュボードまわりに一目瞭然にみてとれる。センターコンソール部の引き出し式テーブルは、コンビニ弁当も置けるサイズとなっただけでなく、作業がしやすいよう高い位置に据えられ、その下にはA4ファイルをすっぽり飲み込むトレーが追加された。また、エアコンの操作ダイヤルを横一列から三角形のレイアウトとして作り出したスペースには、1リッターの紙パックもホールドできる大型のマルチポケットが設けられている。空調の吹き出し口付近には、充電コードの接続に配慮してスマートフォン用のホルダーをDCアウトレットに近接させて配置。ホールド性の確保と共に運転中の凝視を防ぐべく、その画面をふさぐような設計となっているところはいかにもメーカー謹製らしい。
ほかにも、センターコンソール下部に鍵付きのポケットを継続採用したり、足踏み式サイドブレーキの採用によって空いたセンタートンネル部を、手提げカバンをざっくり置けるようフラット化したりと、まるでニトリの家具コーナーでもみているような工夫の数々は、長時間を車中で過ごす営業マンなどからのフィードバックをカタチにしたものだという。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「商用車だから」と我慢する必要はなし
グレードに応じて2種類用意されるシートは、いずれも骨格から新たに設計されたもの。前型のシートは特に廉価なヘッドレスト一体型の出来が抜群で、東京~大阪間の往復でも全く疲れがたまらなかった覚えがあるが、新型もホールド感と乗降性のバランスに並々ならぬ気配が感じられる。
今回の試乗は都内の一般道や首都高を走る短距離のものだったため、シートの真価ははかりかねたが、長距離を走るにふさわしい音振環境は前型より確実に洗練された印象だった。細かなことをいえば1.5リッターモデルよりも1.3リッターモデルの方がエンジンまわりから発せられるノイズや振動がひと回りクリーンであるものの、トルクに勝る1.5リッターはCVTとの組み合わせにおいて音圧の低い低回転域を粘り強く使えるなど、甲乙はつけがたい印象だ。
試乗車は実際の使用状況を鑑みて100kgのバラストを荷室に積んでいたが、乗り心地は総じて洗練されている。特に路面の荒れや大きなうねりなどに対しても、そう簡単に接地感を失うことはなく、クルマの動きは非常に滑らかだ。反面、細かな凹凸の連続や首都高の目地段差などでは若干跳ねるような突き上げもみられるが、その量は小さく、衝撃も我慢できる程度に角が丸められているなど、4ナンバー丸出しのホッピング的な挙動は最小限にとどめられている。
乗用車に爪のあかを煎じて飲ませたい
シビアコンディション向けに強化された電動パワステと、スロー側に調整されたギア比も相まってか、操舵(そうだ)に対する応答性は穏やかで、狙った通りのラインをトレースできる。つまりいたずらにゲインを強だしせず、荷物や乗員にやさしいセットアップとなっているわけだが、この辺りは前型でもおおむね達成されていたことだ。が、新型ではサスの動きがしなやかなぶん、上屋の動きもやや穏やかになっているように感じられた。もちろんロールは基本的に抑制する方向なので、荷崩れするような傾きはおきないが、ゲインとロールの関係ができるだけシンクロするように仕向けられているようだ。シフト操作によるエンジンブレーキの利かせ方も非常に適切で、運転のリズムにピタリと寄り添ってくれる。この点、CVT化の弊害は全くないどころか、むしろ前型より改善されているようにもうかがえる。容量の増したブレーキとVSCの標準採用は、いざという時の備えとしてありがたいものだ。
正直な話、同門の同級の乗用車よりも全然普通に運転しやすいんですけど……という感想は、思えば前型でも抱いたものだった。使われ方の見切りによるコスト配分や、わかりやすいゲインの演出、燃費重視のセッティングはユーザーをおもんぱかってのことかもしれないが、それがゆえにユーザーが気遣わずとも意のままに走らせることが難しいクルマになってしまうのでは元も子もない。プロボックス/サクシードに罪はないが、商用車が本気を出せば出すほど乗用車のネガが際立ってくる。トヨタにとっては痛しかゆしな話である。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸)
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・サクシードUL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4245×1690×1525mm
ホイールベース:2550mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:109ps(80kW)/6000rpm
最大トルク:13.9kgm(136Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)155/80R14 88/86N LT/(後)155/80R14 88/86N LT(トーヨーH11)
燃費:18.2km/リッター(JC08モード)
価格:147万3709円/テスト車=169万5757円
オプション装備:インナーミラー<バックガイドモニター内蔵、自動防眩(ぼうげん)>(4万3200円)/アクセサリーコンセント(1万1880円) ※以下、販売店装着オプション スタンダードナビ(14万9580円)/ETC車載器(1万7388円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:796km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
![]() |
トヨタ・プロボックスGL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4245×1690×1525mm
ホイールベース:2550mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:95ps(70kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)155/80R14 88/86N LT/(後)155/80R14 88/86N LT(トーヨーH11)
燃費:17.6km/リッター(JC08モード)
価格:142万5600円/テスト車=166万3848円
オプション装備:カラードバンパー(1万6200円)/インナーミラー<バックガイドモニター内蔵、自動防眩>(4万3200円)/アクセサリーコンセント(1万1880円) ※以下、販売店装着オプション スタンダードナビ(14万9580円)/ETC車載器(1万7388円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:784km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。