第7回:圏央道開通!! ただし7割(その6)
真下から見上げていた道を走る
2014.10.06
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
見上げていた八王子JCT
おお、ここが、あの八王子JCT か。
圏央道は進むにつれ(=開通の時期が新しい区間になるにつれ)、道路構造が立派になっているように見えるのが不思議だった。
八王子JCTも同様に立派で、さすが新品の「第1種(=高速道路)3級(設計速度80km/h)」だけのことはあると感じると同時に、視点が変わると、こうも見え方が違うものかと感慨にふけりながらその場を通過する私だった。
実は私は、この八王子JCTの建設が始まった頃から、工事の状況を、ジャンクション直下の裏高尾町、摺指(するさし)地区から見上げるようにして何度も眺めていた。頭上高くで徐々にループ状の道ができあがっていくさまは、真下の町からは何とも暴力的な建造物に見えたものだ。
けれど、なのである。
開通した圏央道を走るドライバーの目に映るのは、きれいで立派な構造のジャンクションでしかない。その真下に裏高尾という集落があって、そこに住む人たちは、徐々にできあがっていくジャンクションを見上げながら、高尾山にトンネルを掘っちゃだめだ、と声を上げていた。そんな事実があったなんて、八王子JCTを通過していくドライバーは、ほとんど誰も知らないのだ。
おお、これが、あのとき真下から見上げて「暴力的な構造だ」と恐怖感さえ覚えた八王子JCTか。
実に感慨深いドライブだった。
八王子JCTを通過すると
そして、いよいよ問題の高尾山トンネル、である。
八王子JCTを過ぎると、道の両サイドには高い遮音壁が設けられている。
これが、あれか、と理解した。
あれ、とは、つまり、裏高尾町から、「トンネル掘るな」とつぶやきながら見上げていた工事中の道である。飽きるほど見た下からの光景だったけれど、この日、私は、イエローキャブを運転し、初めて「下から」じゃない、あの道を目にしたわけである。
トンネルに入ると、側壁は、まだ、排ガスに汚されてはいなかった。
全長1350mの高尾山トンネル。
その、ちょうど中間地点の真上は、高尾山のリフト降り場のあたりになる。
う~ん、森が心配でしょうがない。
その昔、雁坂(かりさか)峠の登山道を歩いたことがある。山梨県山梨市と埼玉県秩父市を結ぶ国道140号線の、雁坂トンネルの真上にある峠道である。
異変は山の奥深くで起きていた。登山地図にある水場の水が濁っていて、とうてい飲める代物ではなくなっていた。山小屋のおやじさんは、山全体に異変が起きていて、「動物たちの行動形態も変わってしまった」とも言っていた。それらはどれも、雁坂トンネルの工事が始まってから現れた異変だった。
という現場をこの目で見てきた大の高尾山好きとしては、不安を募らせてしまうわけなのである。そして、高尾山を見守るいくつかの自然保護団体が、「トンネル工事が始まってから湧き水の水枯れを確認した」との報告(注)をだしたと耳にしたとたん、目まいで倒れそうになってしまうわけなのである。
大丈夫、じゃないんじゃないの?
(つづく)
(文=矢貫 隆)
(注)高尾山の6号路沿いにある稲荷祠(いなりほこら)の湧き水と、妙音谷の沢の水が枯れたのを自然保護団体が確認。しかし相武国道事務所は「降雨量の減少が原因」としている。

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。