第393回:ピニンファリーナにインド資本? デ・トマゾの困難……気になるイタリア名門の行方
2015.04.10 マッキナ あらモーダ!“戦後イタリアの象徴”が中国系に
2015年3月22日、中国国有の化学メーカー・中国化工集団(ケムチャイナ)は、タイヤ製造で有名なイタリア企業「ピレリ」を買収すると発表した。このニュースはイタリアでも大きく報道された。
ピレリはタイヤのほかにも、各種ケーブルや化学製品を手がけ、第2次大戦後を象徴する企業のひとつである。ミラノ中央駅前のロンバルディア州庁舎は、もともと「ピレリタワー」として1958年に建てられたものだ。今見てもモダンなその設計は、名建築家ジオ・ポンティによるものである。
ちなみに、デザインファニチャーで知られる「アルフレックス」は、ピレリ出身の技術者たちが、同社で開発された化学素材を活用した家具づくりを目指したのが始まりだった。
そのようなイタリア史と切り離せない歴史をもつピレリだけに、メディアは、イタリア文化のひとつでもあったピレリが外国企業の手に渡ってしまったといったニュアンスで大きく伝えた。
マヒンドラの次の関心はピニンファリーナ
数日後、今度はピニンファリーナに関してのニュースが伝えられた。インド企業のマヒンドラが関心を示しているというものだ。
イタリアのメディアによると、ピニンファリーナの持ち株会社であるピンカーは、「マヒンドラから打診があったことは確かだが、合意に至るものではない」と発表している。
マヒンドラは傘下に自動車メーカー、マヒンドラ&マヒンドラを擁していて、同社の造るオフロード四駆は、イタリア市場で知名度を得ている。また、マヒンドラ&マヒンドラは2010年、かつて中国の上海汽車が所有していた韓国のサンヨン自動車を傘下に収めている。
ピニンファリーナはボディーの受託製造からの撤退後、高層マンションのデザイン計画や自動車以外のプロダクトデザインなど、さまざまな分野に積極的なトライを続けている。しかしコアビジネスである自動車に関しては、歴史的なパートナーであったフェラーリが自社のデザイン部門を充実させるなど、先の見えない要素がいくつかある。そうしたなか、躍進するインド資本が差し伸べる手にピニンファリーナが応えることは、容易に想像できる。
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デ・トマゾは波乱万丈
いっぽう、近ごろもうひとつ行方が話題になっているのは、デ・トマゾだった。往年のスポーツカーブランドである旧デ・トマゾは2004年に会社を清算して、その歴史に幕を閉じた。2009年、競売に掛けられた商標を購入したトリノの実業家ジャンマリオ・ロシニョーロは、新生デ・トマゾのプロジェクトを立ち上げる。工場用地として、ピエモンテ州から借り受けたのは、前述のピニンファリーナが手放したグルリアスコの自動車生産工場だった。
しかし、元工場従業員の雇用も保証するとしたロシニョーロ氏の当初の計画は頓挫し、新生デ・トマゾは1台の本格的生産車もないまま2012年に倒産してしまう。
2015年3月、トリノ破産裁判所の競売で、デ・トマゾの商標は、スイス、ルクセンブルクのL3ホールディングという企業によって競り落とされた。ここで一件落着、と思えたものの、まだ先があった。実はこのL3ホールディングは落札した代金を期限までに支払わなかったのだ。そのため仕切り直しの競売が、来たる4月28日に再度開かれることになった。
参考までに、L3ホールディングが支払わなかった落札代金は、250万ユーロ(約3億2700万円)。新興国の企業なら決して高くないであろう。それだけに、伝説のブランドが意外なところに落ち着くかもしれない。
イタリアでは2015年4月に入り、香港の企業家が前イタリア首相のシルヴィオ・ベルルスコーニが所有するサッカー1部リーグ(セリエA)チーム「ACミラン」の買収に向けて交渉中であることが明らかになった。この企業家は、香港において長年フェラーリ/マセラティのインポーターを務めている人物であり、元フェラーリ会長のモンテゼーモロの親友でイタリア友好家と伝えられている。
最後にピレリの話に戻すと、数日後ふたたび同車の名前がニュースのヘッドラインに上がった。今度は同社に何が? と身構えたら、「撮影快調。恒例のピレリ美女カレンダーは来年も存続」というものだった。世界の紳士に最も人気のあるイタリア文化は、とりあえず消滅を免れたようだ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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