第6戦モナコGP「チャンピオンチームの驕り」【F1 2015 続報】
2015.05.25 自動車ニュース ![]() |
【F1 2015 続報】第6戦モナコGP「チャンピオンチームの驕り」
2015年5月24日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第6戦モナコGP。メルセデスの判断ミスにより、トップ独走中のルイス・ハミルトンは勝利を奪われ、チームは1-2フィニッシュの機会を逸した。
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■変わろうとするF1、変わらないモンテカルロ
前戦スペインGP後、「F1ストラテジーグループ」から、「より速く、スリリングなレース」を目標に掲げた2017年のレギュレーション改善案が出された。同グループはF1のルールメイキングで重要な役割を果たす機関で、F1のコマーシャル面のトップであるバーニー・エクレストン、統括団体FIA(国際自動車連盟)の会長ジャン・トッド、それに6チームの代表(フェラーリ、メルセデス、マクラーレン、レッドブル、ウィリアムズ、フォースインディア)らで構成される。
2014年からコンパクトな1.6リッターターボ&複雑なハイブリッド機構にシフトし新世代に突入したF1。しかし近年は観客数やテレビ視聴率の下降という課題に直面しており、変革を叫ぶ声が大きくなってきている。
今年に入り「1000psのV8エンジン」という大胆なアイデアも聞こえてきていたが、それに比べて今回の改善案はトーンこそおとなしめだったものの、物議を醸すに十分な内容だった。なおこれらはあくまで提案レベルであり、決定までにはF1委員会や世界モータースポーツ評議会での議論を経なければならない。
<2017年からの変更案>
・現行型より5~6秒速いラップタイムで走れるよう、空力改善や幅広タイヤ導入、車両の軽量化を図る
・2010年から禁止されてきたレース中の給油を復活させる
・エンジンを高回転化させ、エキゾーストノートを大きくする
・よりアグレッシブなルックスとする
<2016年からの変更案>
・各チームが4つのドライタイヤの中から2つを自由に選べるようにする
確かに今期型マシンはコースによって数秒ラップタイムが遅くなっており、最高峰をうたうF1がその速さを取り戻したいとする考えは理解できるのだが、その方法については意見が分かれるところだ。
レース中に給油できるようになれば少ない燃料で周回でき、マシンのスピードアップを果たせ、また作戦にも幅が出てくるかもしれない。ただコストを抑えるために禁止したルールをわずか数年で再登場させるということは、禁止が拙策だったということにならないだろうか。また給油が合法だった時代にも「予選のようなラップの繰り返しでコース上で抜きつ抜かれつがなく、レースがつまらない」といった声も多く聞かれたことを忘れてはならないだろう。
タイヤの自由選択については、ピレリのモータースポーツ責任者であるポール・ヘンベリーが否定的な立場を取っている。第一に、特に優勝を争うようなトップチームなら自(おの)ずと同じ選択になるだろうということ、第二に、例えば超高速コースで、速いがヤワなスーパーソフトタイヤを履くなど無謀なギャンブルに出るチームがあれば、安全性にも問題が生じる可能性があるということである。
さらにモナコGPの週末になると「カスタマーカー」の話題で“F1格差問題”が再燃。昨年末に顕在化した財政難チームへの対応策のひとつで、トップチームの既存マシンを購入して戦う“Bチーム”のようなものを認めるプランであるが、こちらもカスタマーカー導入でメリットがあるトップチームと、コンストラクターとしての地位を失う弱小チームとの間で意見が対立しているという。
移ろう時代の中でさまざまな思惑が渦巻いているF1が、長い歴史の中で孤高のポジションを守り続けているモンテカルロにやってきた。変わるものと変わらないもの、変えていいことと変えてはならぬこと。是々非々主義と魑魅魍魎(ちみもうりょう)がはびこるモータースポーツの最高峰カテゴリーは、難題を抱えながら自問自答を繰り返している。
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■ハミルトン、モナコで初ポールポジション
チャンピオンシップに目を移せば、これまで5戦して3勝、20点差でポイントリーダーの座を堅持するルイス・ハミルトンと、前戦スペインでようやく今季初勝利したニコ・ロズベルグのメルセデス対決が白熱。ここで2年連続ポール・トゥ・ウィンを飾るロズベルグは、何としても連勝してチームメイトの勢いを止めたいところだったが、予選では最大のライバルに先行を許してしまった。
流れは予選Q1、Q2とトップタイムをマークしたロズベルグにあったかに見えたが、Q3に入りハミルトンが逆転、チャンピオンはキャリア9年目にしてモナコ初、今季5回目、自身通算43回目のポールポジションを獲得した。
敗れたロズベルグは2番手。タイヤをロックアップするなどリズムをつかみきれず0.342秒の遅れをとった。
予選3位はフェラーリのセバスチャン・ベッテル。1周3kmちょっとのシーズン最短コースでハミルトンに0.751秒の差をつけられた。
今季これまで絶不調だったレッドブルがツイスティーなモンテカルロで息を吹き返し、ダニエル・リカルド4位、ダニール・クビアト5位。フェラーリのキミ・ライコネンは6番グリッド、続いてフォースインディアのセルジオ・ペレス7位、トロロッソのルーキー、カルロス・サインツJr.8位、ロータスのパストール・マルドナドが9位が並び、トップ10最後尾にはトロロッソの新人マックス・フェルスタッペンが入った。
しかし8位サインツJr.はセッション中車検を無視してしまい、ペナルティーとしてピットレーンスタートとなってしまったため、後ろのマルドナド、フェルスタッペンらが繰り上がった。
マクラーレンは、フェルナンド・アロンソがQ2アタック中にメカニカルトラブルでストップし15位。ジェンソン・バトンは同じくQ2でのフライングラップを、ロズベルグのコースオフで出たイエローフラッグに邪魔されるかっこうで諦めざるを得ず12位。だがサインツJr.と11位ロメ・グロジャンの降格ペナルティーで、バトンは10位、アロンソ13位からスタートすることとなった。
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■首位独走のハミルトンが優勝まっしぐら、しかし……
73回目のモナコGPは、2つの局面をもって後世に語り継がれるだろう。
ひとつはレースの大半を占めたハミルトン独走劇。そしてもうひとつの局面は、チャンピオンチームの慢心が生んだ作戦ミスによる茶番劇である。
快晴の空の下、78周レースのスタートが切られると、クビアトがリカルドを抜き4位に上がった以外、トップ集団はグリッドと変わらない順位でオープニングラップを終えた。1位ハミルトンは早くも3周目に1.8秒、4周目には2.3秒とマージンを築き、早速2位ロズベルグの出ばなをくじいた。一方ロズベルグは後方の3位ベッテルとの攻防に持ち込まれ、ハミルトンは悠々と先頭をひた走るのだった。
今回ピレリが持ち込んだのは、今季初お目見えとなる最も柔らかいスーパーソフトと、ソフトの2種類。ソフトではなくスーパーソフトを採用した場合でも長持ちするため、多くのマシンが1ストップでレースを走り切るだろうと見られていた。そして実際、上位集団はレース半ばまでスーパーソフトを履き続けた。
36周で3位ベッテル、翌周に2位ロズベルグ、続いて1位ハミルトンと立て続けにピットに入りソフトタイヤに交換。一連のピットストップで成功したのはライコネンで、リカルドを抜き5位に上がった。
この時点でハミルトンのリードは7秒、ロズベルグとベッテルは2秒差、遠く離れて12秒後方に4位クビアト。首位ハミルトンは46周で10秒差の壁を超え、いよいよかなたへと消えていった。
ここまでは、先行してペースをコントロールするハミルトンの勝ちパターンだったのだが、ここはモナコ、何が起こるか分からない。レース終盤に思わぬ展開が待ち受けていた。
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■2度目のピットストップは必要だったのか?
63周目、入賞圏の最後のポジションを争っていた11位フェルスタッペンが、ターン1前の飛び込みで10位グロジャンに接触。トロロッソのマシンは勢いよくウォールにめり込んで止まった。幸いフェルスタッペンは無傷だったが、これでモナコではおなじみのセーフティーカーが入ることになった。
このセーフティーカーを機にピットに飛び込むドライバーがおり、その中には1位ハミルトンも含まれていた。メルセデスは、十分なリードタイムを築いていたハミルトンなら、安全策をとってニュータイヤに変えてもトップのままコースに復帰できるだろう、そう読んでいたに違いない。
だがハミルトンがピットレーンからコースに戻る途中、ザウバーのフェリッペ・ナッサーが前に入り込み、ハミルトンは一瞬ペースを抑えざるを得なかった。そしてコースインすると、ハミルトンの前にはストップを行わなかったロズベルグとベッテルが……。
71周でレース再開。棚からぼたもちでトップに立ったロズベルグは1周で2.2秒ものリードを築いた。2位ベッテルはといえば、タイヤの温まりが悪いフェラーリゆえにペースが上げられず、背後から猛追を仕掛ける3位ハミルトンへの防戦一方。とはいえ、そもそもここはモンテカルロ。遅いマシンであっても速い後続マシンを抑えることができる場所だった。
期せずしてモナコ3連勝を飾ったロズベルグ。ここで3連覇(以上)を達成したのは、彼のほかにグラハム・ヒル、アラン・プロスト、アイルトン・セナしかいない。歴史に名を残したことのみならず、チャンピオンシップでハミルトンに10点差まで詰め寄ることができ、ロズベルグにとっては大きな前進となった。
しかしメルセデスは大きな代償を払うことにもなった。ハミルトンから勝利を奪い、1-2フィニッシュの機会すら逃し、そして後味の悪さが残るレースにしてしまった。同じタイヤを履き、同じ作戦をとったロズベルグやベッテルは1ストップで走り切ったという事実を前に、ハミルトンの2度目のピットストップは必要だったのか? という疑念は拭えない。
「チームはシーズンを通して素晴らしい仕事をしている。われわれは勝つ時も一緒、負ける時も一緒」とレース後に哲学的な言葉を残したハミルトン。その表情は、怒りを抑えているとも、ぼうぜん自失ともとれる硬いものだった。次は彼が得意とするカナダGP。自身初勝利の地、モントリオールで再起を図ることになる。決勝は6月7日に行われる。
(文=bg)