第2回:今年イチバンのオススメはこれだ!
輸入バイク チョイ乗りリポート(後編)
2016.05.25
JAIA輸入二輪車試乗会2016
2016年4月に開催されたJAIAの輸入二輪車試乗会。いよいよ後編です。心配された雨はとうとう降りませんでした。ラッキーです。では気分も晴れやかに、5台のオートバイを紹介しましょう。
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ロードホッパー・タイプ5 ショベル オープンプライマリー……383万4000円
その線ではライフスタイル商品
「なんじゃこれは?」とお思いの方に向け、順繰りにお話ししていきます。
その源泉はハーレーダビッドソン(以下HD)のカスタムモデル。世界中のカスタムファンをうならせてきたゼロエンジニアリングというショップは、HDエンジンの美しさを強調したフレームをはじめとする幾多のオリジナルパーツを開発し、「日本の風景に溶け込むハーレー」という独自の世界観、別名“ゼロスタイル”を提示してきました。
そのゼロエンジニアリングが次のステージとして選んだのが、ゼロスタイルの量産化、すなわちメーカーになること。2001年、2車種を引っ提げてデビューしたのがロードホッパー。今回の試乗会でわれわれに提供されたのが、2016年モデルの「タイプ5 ショベル」、ということなのであります。
ロードホッパー全体の特徴は、リアにサスペンションを持たないリジッドフレームの乗り心地。どんな路面でも滑らかとは言いにくいものの、常にお尻が弾むほどには固くなく、いい感じのしなりを体感できる点は唯一無二。タイプ5に限った特徴は、EFI技術を駆使したキャブ仕様のショベルヘッドエンジンの搭載。ロッカーアームカバーがショベルに似ていることから命名されたこのエンジンは、HDが1950年代後半から80年代半ばまで採用していたユニットで、力強さを感じる形状に人気があるものの、機構的には完全な旧式。さぞや扱いにくいと思いきや、さにあらん。たぶん新品のショベル以上にするっと回るのではないでしょうか。チョークレバーが付いているんですよ。泣かせますよ。
安心してカスタムモデルに乗りたい方にオススメ。特異なスタイルに合わせたファッションも楽しめそうだし、その線ではライフスタイル商品と呼んでよい気がします。「でも、縄文体形の僕はチェンジペダルに足が届きませんでした」とホッタ青年は嘆いたらしい。となると弥生以降の日本人に合うのか? いや、ホッタ青年のスタイルが特異と言うべきか?
トライアンフ・スピードトリプルR……161万5000円
うかつに近寄らないほうがいい
その名称に関して、個人的にはどうかなあと思っている。ロード系ほぼ最強スペックを有していながらフルカウルを持たない、つまりはレーサーレプリカではないモデルを“ストリートファイター”という。何か怖いでしょ。街のけんか屋ですよ。まぁ日本人にすればカタカタ表記でそれとなく納得しちゃいそうだが、向こうの方々はどう感じているんだろう。
いずれにせよこの「スピードトリプル」は、そのストリートファイターというジャンルで3気筒という特別な武器で果敢に戦っておられる。トライアンフの「サンダーバード スポーツ」を愛してやまないホッタ青年によれば、「トラの大排気量3気筒が今もご存命というだけで十分」らしい。確かに、2気筒よりは抑え気味だが4気筒では感じられないビートが3気筒にはある。ほかに誰も持っていないアイテムを駆使して街に出たい方には、これほど特別なエンジンはないのだろう。
そしてまた、名称に関してもそうだけど自分の時代遅れ感にうんざりするのは、オールドネーム的存在のトライアンフにしても、最新の電子デバイスを搭載していた事実だ。「レイン」「ロード」「スポーツ」「トラック」そして乗り手が任意で設定できる「ライダー」の、5つの乗り味が選べるライディングモード。電子制御ライド・バイ・ワイヤを用いたRBWスロットル等々、武器の先進化にはただただ驚くばかり。これだけのナウでエレクトリックな装備があれば抑止力だけで周囲を圧倒できるのかもしれない。どうなんだろう。まぁとにかく、スイッチ一つで走りがガラッと変わる「スピードトリプルR」にはうかつに近寄らないほうがいい。そのカマキリみたいな顔にかみつかれると、かなり痛そうではある。
トライアンフ・ボンネビルT120……145万円
トライアンフ・ストリートツイン……99万9500円
「うまいすみ分けをやった」
トライアンフの本流と言うべき直立2気筒“バーチカルツイン”モデル。これに関しては、偏愛トラキチの関 顕也編集部員がたくさんの意見をくれましたので、そちらをご紹介します。
「『ボンネビル』は、フルモデルチェンジで水冷の1197ccになりました。これまでの空冷865ccに比べて排気量は38%増し。最大トルクは55%アップ(6.9kgm→10.7kgm)です」。いきなり詳しい。ちなみにラジエーターはブラックフィニッシュで、目立ちにくい仕上がりとなっております。
「2001年型オーナーとしては、どれだけスゴいバイクになったんだ!? と興味津々だったのですが、“速さ”(加速力)については、ちょっと肩透かし。ただ、印象的だったのは低速のピックアップ。よく見ると最大トルクの発生回転数は、先代(空冷)の5800rpmから3100rpmに下がり、加えてクランク角が360度から不等間隔の270度に変更され……」。詳しくなり過ぎなので割愛します。要は「ボンネビルはまったく別物」になり「このモデルチェンジで鼓動感豊かな往年の“味”を出したかったんだなぁと理解」したとか。ふむふむ。
さて、もう一台の「ストリートツイン」はいかがでしょう?
「当初、単に装備を省いて排気量を小さくしたボンネビルの廉価版だろ? などとタカをくくっていましたが、身のこなし方や軽快さはまるで別物。エンジンは、ボアが『ボンネビルT120』比で13mm小さくなっており(ストロークは80mmで共通)、圧縮比(10.55:1)はボンネビルT120(10.0:1)よりも高くなっていて、そのあたりがストリートツインの決め手なのかもしれません」。やっぱりスペックに意識が向くのはwebCG編集部員らしいです。結論は、「トライアンフはうまいすみ分けをやった。近所の買い物からツーリングまで、何でもバイクでしたい人にはストリートツインを」だそうです。肩肘張らずにバーチカルツインを楽しめる、という点で同意見であります。
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ドゥカティ・ムルティストラーダ1200S……253万9000円
ベッラ! ベッラ! ベッラ!
好きなものは最初に食べますか? それとも最後まで取っておきますか? ワタクシは後者のタイプです。
「ムルティストラーダ」。ちょっと特別な思い出がある。今から十数年前、イタリアのサルデーニャ島で行われたワールドローンチに招待され、そこからフェリーでローマに入り、ボローニャのドゥカティ本社までツーリングするという、夢のような旅をさせてもらった。
初めて乗ったアップライトなドゥカティは、スロットルを開ければざわざわ盛り上がってくる当時の空冷2バルブエンジンのパワーを感じながら、パーシャルで流せばトスカーナのおだやかな風景を楽しむこともできた。もはや年齢や気分的にスーパースポーツの類いは求めない。かと言ってどっしり落ち着いたバイクに乗るのも時期尚早。という微妙な年ごろで、このムルティストラーダは、何というかすべてが最良だった。
そして再会した今のソイツは、経験値を増し素晴らしく洗練されていた。回転数ではなく走行状況に応じてバルブタイミングを切り替える「DVT」、さまざまな電子装置の効果を高める加速度測定ユニット「IMU」の導入など、年を重ねた分だけ正しく大人になったというか、つまりは以前よりずっと乗りやすくなったわけだけど、走りたくなる気持ちの誘い方は以前より上手になり、今もやはりすべてが最良だった。
ムルティストラーダとの旅の話に戻るけれど、高速道路を外れた田園地帯で止めたら、農家とおぼしきおじいさんに声をかけられた。もちろんイタリア語など話せなかったが、覚えたての単語を繰り出し、そのおじいさんを深くうなずかせることができた。それがベッラ。新しいムルティストラーダは、ベッラ3連呼。あくまで個人的な感覚だけど、これほど今乗りたいオートバイはほかにないです。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明)