トライアンフ・タイガー1200デザートエディション(6MT)/トライアンフ・ボンネビルT100(5MT)/ベネリ・レオンチーノ250(6MT)/ハスクバーナ・スヴァルトピレン125(6MT)
乗ったもん勝ち! 2021.05.13 試乗記 小さいのや大きいの、スポーツタイプからクラシックまで……。輸入バイクの試乗イベントで触れた“最旬モデル”はどれも、個性豊かで乗り手に優しい、魅力あふれるオートバイだった。前門のトラ 後門のタイガー
トライアンフ・タイガー1200デザートエディション
「前門の虎 後門の狼(おおかみ)」は、立て続けに災難に見舞われることを意味する中国由来のことわざ。かつては奥地に分け入ると、昨日は虎、今日は狼に襲われるような目に遭うことが少なからずあったのだろう。翻ってパリダカ発の大型オフロードモデルで荒野を駆け巡れば、前虎後狼的な困難に直面し続けるかもしれない。それゆえ大型オフロードモデルすなわちアドベンチャー系、そこに属するトライアンフの「タイガー1200」は、あらゆる危険から乗り手を守るため、車格も装備もゴツさを必要とするのだろうか。
正直なところ、近寄り難(がた)さがある。鍛え抜いた大胸筋を思わせるマッチョな上半身は、力強い代わりにいかにも重そうだし、なによりシートは乗り手を厳選するかのような高さだ。そして顔。LEDの登場がデザインの自由度を高めたとはいえ、細いつり目の顔面でにらまれたら100m先からでも道を譲りたくなってしまう。
けれどコイツ、周囲を威圧するくせして、驚くほど乗り手に優しい。
トライアンフの「タイガー1200デザートエディション」は、同ブランドのアドベンチャーシリーズのトップモデルであるタイガー1200の特別仕様車だ。カラーリングやロゴの変更、TSA(トライアンフシフトアシスト)やArrow製サイレンサーの装備がスペシャルな部分だが、中身は「タイガー1200 XCA」と同一スペック。つまり、おっかない見た目とは裏腹のジェントルな心根もシリーズ共通である。
いかに優しいのか? まずは、トライアンフが得意とするライディングモードの完備。それから電動調整式ツーリングスクリーン。さらにはヒーテッドグリップ&ヒーテッドシート。あんなにゴツイ顔しているのにこの気配り。ちょっと泣けてくる。
忘れちゃならないのは乗り心地だ。重心位置が最適なのか、これだけの巨体なのにヒラヒラと軽快に走る。スキーのモーグル選手が腰下だけで巧みにスラロームしていく、あの身のこなしができるように感じたのは、ボディーの大きさに反する身軽さが強烈だったからかもしれない。
そんな扱いやすさを醸す背景には、個性的な3気筒エンジンの類いまれなピックアップのよさが控えているのだろう。トライアンフがこのユニットを使い続ける理由が、最大排気量でそれとなく理解できた気がする。
トドメは、特別仕様車でありながら1200シリーズで最も安い265万円の価格設定。お財布にだって優しい。
前門のトラ、後門のタイガー。その間で両者の存在を感じ取れる乗り手は、荒野でピンチに遭遇しても安心していられそうだということを全力でお伝えしたく、恐縮ながらダジャレを使った。ぜひ一度ご試乗を。二輪も見た目で決めちゃいけないことがよくわかるはず。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
技術あっての味わい
トライアンフ・ボンネビルT100
うっかり「男らしい」などと口にするとたちまち言葉狩りに遭ってしまいそうな今日このごろだが、それでもシートにまたがるたび、この古くさい表現を引っ張り出したくなるのが「トライアンフ・ボンネビルT100」だ。
メーカー自ら「モダンクラシック」と分類するように、何の変哲もない丸型ヘッドランプ、長いシートクッション、リアのツインショックアブソーバーと、いかにもわかりやすいスタイルを採る。絵に描いたようなダブルクレードルのフレームに載せられる900ccバーチカルツインは、いまやフューエルインジェクションを用いる水冷ユニットだが、いまだに残る冷却フィンやキャブレターを模したスロットルボディーがマニア心をくすぐる。
シングルカムで4枚のバルブを開け閉めする並列2気筒は、古典的なルックスに最新技術を詰め込んだ……というか、クラシックを表現するために最新技術を駆使したというべきかもしれない。270度のクランク角を採用して強拍が偏る特徴あるビートを打ちながら、T100を運んでいく。キャブトン調マフラーが奏でるサウンドが、またよく似合う。
エンジンに手が入れられた2021年モデルは、欧州の厳しい排ガス規制たるEURO5をパスしたのみならず、最高出力を10PSもアップしてみせた。各部の軽量化を果たし、65PSのピークパワー発生回転数は従来型より1500rpm高い7400rpm、8.2kgf・mの最大トルクは520rpm高い3750rpmで発生する。
若干、高回転に振られたバーチカルツインだが、それでもスロットルの開け始めからトルキーで、あまり回さずとも街なかでは十分なアウトプットを供給する。新しいT100のウェイトは、これまでより4kg軽い229kgになったが、それでも一定の重量感を持つバイクをトルクで走らせるさまが、うーん、男らしい。
フロント18インチ、リア17インチを履いたネオクラシックは、基本的にはあまり曲がりたがらないけれど、それをねじ伏せて曲がらせるのがまた……。苦情がきそうなので表現を差し控えます。
トライアンフ・ボンネビルT100のシート高は790mm。見た目の迫力のわりに、足の短いライダー(含む自分)に優しいブリティッシュモーターサイクルだ。あまり体格に恵まれない女性ライダーの方がさりげなくT100を操るのもまた、とてもステキだと思う。ピース。
(文=青木禎之/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
小さなライオンのなかなかいい話
ベネリ・レオンチーノ250
水冷4ストロークDOHC単気筒の249㏄エンジン。これがストレスなくよく回る。カタログ上の最高出力は19kw(25PS)なので、パワー感は排気量にふさわしい扱いやすいものだけど、コツコツしたトルクが感じられるから、街なかをするする走り回るには気持ちいいんじゃないかと思った。
これまたカタログでは「スクランブラー」と呼んでいるボディースタイルは、今どきのロードスポーツモデルがまとう、タイトかつコンパクトなデザイントレンドから外れることなく、エンジンの特徴に鑑みても、やはりタウンユースに的を絞ったモーターサイクルと評していいだろう。もう少し個性を押し出すというか、同型他車との差別化を図る気概を感じたいのが本音だが、だからといってこのモデルに感じた小気味よさや快適といった評価を取り下げるのはアンフェアだ。
それよりも、フロントフェンダーの先端にちょこんと乗ったライオンとおぼしきオブジェと、ベネリという名前。それって何だっけ? と試乗後に何度繰り返したことか……。
ブランド名には聞き覚えがある。それは紛(まご)うことなきイタリアンネーム。調べたところによると創業が1911年で、戦前・戦後は他の二輪メーカーと同じようにレースで活躍した実績を持っていた。そんなウィキペディアの記述ではなく、実車に触れた自分の記憶を探ってみて、「そういえば!」と膝を打ったのが、2000年以降に発売された「ベネリ900RS」だった。
フルカウリングをまとったスーパースポーツで、エンジンは3気筒。最もユニークだったのは、シート下に配したラジエーターの熱を強制排気するファンがシートカウル最後端に備えられていたことだ。だから、「おもしろいこと考えるなあ」というのが個人的なベネリの印象だった。
ベネリはその後、中国企業の傘下に入り、新体制でニューモデルを開発することになったという。その幕開けを飾るかたちで日本に導入されたのが「レオンチーノ250」。フューエルタンクの側面にDESIGNED BY ITALYと記してあるのは、中伊の関係性を示したものと思われる。
一方のライオン。自分が触れた900RSにそんなマスコットは付いていなかったと思うし、口さがないwebCGスタッフは「マーライオンか?」と揶揄(やゆ)もする。これも後に判明した。
出自はおそらく、ベネリのマークの中にいるライオン。さらに1951年に発売した98㏄と125㏄のラインナップをベネリは、小さなライオンを意味するレオンチーノと呼んでいたのである。それらすべてを新生ベネリが継承した。最大限のリスペクトを表するかたちで。なかなかいい話じゃないか。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
異型にして異色
ハスクバーナ・スヴァルトピレン125
普段は素朴なサウンドを発しながら走り、いざ右手のグリップをひねると少々粗いフィールを伴いながら回転を上げていく……。そんな単気筒バイクの印象を鮮やかに塗り変えるのが、KTM/ハスクバーナのシングルスポーツだ。
いや、トコトコのどかに行くのも味があっていいものですが、それはともかく、スロットルを開けたとたん、「シュイィィーン!」と鋭く素早くエンジンが吹け上がるさまは、まさに胸がすく爽快さ。「これはスゴい!」とばかりに全力加速を繰り返しても、非現実的な速度(!?)に達しないのが125ccモデルのいいところ。申し遅れました。JAIA輸入二輪車試乗会で、「ハスクバーナ・スヴァルトピレン125」に乗っています。
スヴァルトピレンが日本で発売されたのは2018年。ゴツめのブロックタイヤを履き、アップマウントされたバーハンドルがオフロードテイストを醸す同車と併せて、超モダンなカフェレーサースタイルを採る、セパレートハンドルの「ヴィットピレン」も導入された。ご存じのように、同じ企業グループに属するKTMの、いわゆる“スモール”「デューク」シリーズのコンポーネンツを活用して開発された2車だが、まるでそれを感じさせない、見ても乗ってもみごとに別モデルに仕上がっている。
まず692.7cc単気筒を積む「スヴァルトピレン701」が、それに続いて「ヴィットピレン701」も用意されたが、2021年モデルではいずれもカタログから落ち、スヴァルトピレンが「125」「250」「401」、ヴィットピレンは「401」のみのラインナップとなった。先鋭的なスタイルが魅力のヴィットピレンだが、やはり実際に愛車とするには、使いやすいポジションのスヴァルトピレンを選ぶ人が多いようだ。
注目は、新たに追加されたスヴァルトピレン125。ピンクナンバーを付ける原ニバイクにして、お値段59万9000円。そう聞くと、「ムムッ!」と腰が引ける感じだが、そのぶん、装備はぜいたく。上位モデルと同じトレリスフレームのボディーに、フロントが倒立フォークの前後WP製サスペンションがおごられ、ブレンボ由来のバイブレ製ブレーキキャリパーと大径のドリルドディスクで制動力を確保する。もちろんボッシュのABS付き。
ホイールは、スヴァルトピレン250はキャストホイールだが、125と401はスポークタイプ。前110/70R17、後150/60R17のタイヤサイズは3車共通……となると、圧倒的にシャシーが勝った、場合によっては「退屈」寄りのライドフィールを想像するかもしれないが、さにあらず。存在感では、圧倒的にエンジンが勝っている。
58×47.2mmのボア×ストロークを持つシングルユニットの最高出力は、15PS/9500rpm。ちょっと油断するとアッという間にピークパワーの発生ポイントを超えて1万rpm超に飛び込みたがる高回転型で、円形メーター頂部の、シフトアップを促す警告灯はだてではない。
絶対的なパワーは限られるけれど、低回転域からトルクを得やすい単気筒のよさで、発進時にもことさら気を使わずクラッチを合わせ、突風のように吹き抜けるエンジンを楽しめる。ローギアからフルスロットルでギアを上げていっても、35km/h、45km/h、55km/hと、シャカリキに回して走っている気持ちとは裏腹に、実際の速度が常識の範囲におさまるのがありがたい。
ぜいたくなシャシー、余裕あるストッピングパワーは、いわばツインカム4バルブの単気筒を存分に堪能するためのベースメント。ハスクバーナ・スヴァルトピレン125は、街乗りで楽しめる、異型にして異色のシングルスポーツだ。さらにウデに自信があるライダーなら、豊かなサスペンションストローク、146kgの軽量ボディーを生かして、次のステージにもいけるはず!?
(文=青木禎之/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トライアンフ・タイガー1200デザートエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×830×1470mm(ミラーを除く)
ホイールベース:1520mm
シート高:835-855mm
重量:273kg
エンジン:1215cc 水冷4ストローク 直列3気筒DOHC 4バルブ
最高出力:141PS(104kW)/9350rpm
最大トルク:122N・m(12.4kgf・m)/7600rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:265万円
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トライアンフ・ボンネビルT100
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×780×1125mm
ホイールベース:1450mm
シート高:790mm
重量:229kg
エンジン:900cc 水冷4ストローク 直列2気筒SOHC 2バルブ
最高出力:65PS(48kW)/7400rpm
最大トルク:80N・m(8.2kgf・m)/3750rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:128万円
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ベネリ・レオンチーノ250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2030×840×1115mm
ホイールベース:1380mm
シート高:800mm
重量:162kg
エンジン:249cc 水冷4ストローク 単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:26PS(19kW)/9250rpm
最大トルク:21N・m(2.1kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:30.3km/リッター(WMTCモード)
価格:54万8900円
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ハスクバーナ・スヴァルトピレン125
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
シート高:835mm
重量:146kg
エンジン:125cc 水冷4ストローク 単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:15PS(11kW)/9500rpm
最大トルク:12N・m(1.2kgf・m)/7500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:53万9000円

田村 十七男
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