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キャデラックATS-Vセダン スペックB(FR/8AT)

男前なキャデラック 2016.07.13 試乗記 下野 康史 470psの3.6リッターV6ツインターボエンジンを搭載するコンパクトキャデラック、「ATS-V」に試乗。キャディとてSUVが人気のこの時代、ど真ん中のセダンで勝負するこのコンパクトモンスターは、とびきり男前な一台といえるかもしれない。

キャデラックのM3

最もコンパクトなキャデラックに加わった高性能モデルが、ATS-Vである。
おさらいすると、2012年に登場したFRのコンパクトセダンが「ATS」だ。あとから2ドアクーペも加わった。キャデラックブランドの裾野を広げ、ドイツ車と日本車にやられ放題の国内マーケットに斬り込むために開発された最小キャデラックで、ベンチマークは「BMW 320i」と公言してはばからなかった。

日本仕様は276psの2リッター4気筒ターボだが、本国には以前から2.5リッター4気筒や3.6リッターV6が存在した。その直噴3.6リッターユニットにチタン製ブレードのターボチャージャー2基を組み込んだのがVの心臓だ。470psのスーパーパワーを誇る。ひとことでいえば、キャデラックの「M3」である。

しかし、白のボディーカラーのせいか、試乗車の第一印象はむしろ控えめに見えた。18インチのアルミ鍛造ホイールからのぞく赤いブレンボ製ブレーキキャリパーや、カーボンの整流板や、4本出しマフラーなど、細部にすごみは漏れ出すものの、「コルベットZ51」よりパワフルな超ド級セダンには見えない。真横からリアドアのあたりを眺めていると、「クラウンアスリート」かなと思う。ちなみに、ボディー全長はクラウンより20cmも短い。コンパクトさはATS-Vの魅力のひとつである。

「ATS-V」には標準的な「スペックA」(990万円)と、カーボンのエアロパーツなどがおごられた「スペックB」(1090万円)がある。試乗したのは後者。
「ATS-V」には標準的な「スペックA」(990万円)と、カーボンのエアロパーツなどがおごられた「スペックB」(1090万円)がある。試乗したのは後者。 拡大
3.6リッターV6ツインターボユニットは470ps/5800rpmと61.5kgm(603Nm)/3500rpmを発する。
3.6リッターV6ツインターボユニットは470ps/5800rpmと61.5kgm(603Nm)/3500rpmを発する。 拡大
黒で統一されたインテリア。カーボンのインテリアトリムがスポーティーさを強調する。
黒で統一されたインテリア。カーボンのインテリアトリムがスポーティーさを強調する。 拡大
ボディーのスリーサイズは4700×1835×1415mm。試乗車のボディーカラーはクリスタルホワイトトゥリコート。
ボディーのスリーサイズは4700×1835×1415mm。試乗車のボディーカラーはクリスタルホワイトトゥリコート。 拡大
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わかりやすさが持ち味

計器は電子メーター。スタートボタンを押してエンジンをかけると、赤い針だけがあったブラックパネルに液晶のメーター類が現れる。試乗車の「スペックB」には、標準でヘッドアップディスプレイが付く。
37cm径のステアリングホイールは、スエード巻きだ。ATのセレクターも、シフトブーツからノブまで、同じグレーのスエードである。クルマのスエードは好きですか? ぼくはそれほどでもないです。

走りだすと、当然のことながら、2リッターターボのノーマルATSとは別物である。エンジンの地声が大きく、低い。エンジンノイズを打ち消すボーズのノイズキャンセレーションが装備されているが、4000rpmを超すと、たたきつけるような排気音が高まる。

マグネティックライドコントロールを40%強化したという足まわりは、いかにも締め上げられた印象だ。8段ATも変速レスポンスをミニマムに詰めてあるとみえ、iPhoneの裏みたいに鏡面加工されたマグネシウム製シフトパドルをカチカチやっていると、ときにシフトショックが出る。3リッター直6ツインターボの現行M3は羊の皮を着た狼だから、こうしたわかりやすい味つけはATS-Vの持ち味かもしれない。

前席シートはレザーとスエード混成のレカロ製。運転席は16ウェイの調整機能を持つ。車庫入れ時などに障害物が接近すると、座面を振動させるセーフティーアラートシート機構も入っている。危険が高まるにつれ、振動も強くなる。家の車庫で試してみたが、こういうものの常で、ちょっと大げさだ。まだまだ大丈夫なのに、ブルブルした震えが強まって、ジェット戦闘機のシートみたいに、射出されるんじゃないかと思った。

メーターは、中央に速度計、左にエンジン回転計、その下にカラー液晶のインフォメーションセンターという配置。
メーターは、中央に速度計、左にエンジン回転計、その下にカラー液晶のインフォメーションセンターという配置。 拡大
革とスエード混成のレカロ16ウェイパフォーマンスシートが標準で装備される。
革とスエード混成のレカロ16ウェイパフォーマンスシートが標準で装備される。 拡大
トランスミッションは8段AT。シフトセレクターはステアリングホイールとともにスエード巻き。
トランスミッションは8段AT。シフトセレクターはステアリングホイールとともにスエード巻き。 拡大
ステアリングの背後には、鏡面加工されたマグネシウム製のシフトパドルが備わる。
ステアリングの背後には、鏡面加工されたマグネシウム製のシフトパドルが備わる。 拡大

M3よりレーシングライク

0-60mph(0-97km/h)のカタログ値は3.8秒。ATS-Vはスピードセダンのトップカテゴリーである。
3.6リッターV6ツインターボは61.5kgm/3500rpmという最大トルクを発する。試乗当日はウエット。スタートダッシュすると、トラクションコントロールに制圧されるまでは275サンゴーのミシュランが路面をかきむしった。
BMWをみならって、ノーマルATSは見事に50対50に仕立てられていたが、試乗車の前後軸重は920/830kg。カーボンボンネットを採用していてもフロントのほうが100kg近く重い。

だが、ノーズの重さは感じない。ぬれたワインディングロードをおっかなびっくり走っていても、それなりに楽しめる。パワーユニットも足まわりも、入力に対する反応がすべて詰め詰めにスポーティーで、肩を怒らせた感じはM3よりずっと強い。よりレーシングライクともいえる。そういう有言実行なところは、いかにもアメリカンハイパフォーマンスカーらしい。

V専用のサスペンションは、大入力を受けるステージだと、フロアが1枚の硬い板になったような印象をもたらす。ただ、乗り心地はフラットではなく、けっこう揺すられる。乗り心地まで手が回らなかった感じも、アメリカンハイパフォーマンスカーらしい。

メーカー発表(米国仕様)の動力性能は、0-60mph(97km/h)が3.8秒、最高速は189mph(304km/h)。
メーカー発表(米国仕様)の動力性能は、0-60mph(97km/h)が3.8秒、最高速は189mph(304km/h)。 拡大
タイヤは18インチのミシュラン・パイロットスーパースポーツ。ブレーキキャリパーは前が6ピストン(写真)、後ろが4ピストン。
タイヤは18インチのミシュラン・パイロットスーパースポーツ。ブレーキキャリパーは前が6ピストン(写真)、後ろが4ピストン。 拡大
トランクリッドにはコンポジット材製の大型スポイラーが備わる。
トランクリッドにはコンポジット材製の大型スポイラーが備わる。 拡大

手を伸ばすあなたも男前

2リッター4気筒ターボのノーマルATSはBMW 320iよりファン・トゥ・ドライブだと個人的には思うが、アメリカ国内でのATSセールスは、残念ながら「BMW 3シリーズ」の後塵を拝している。
では、ATSよりデッカいキャデラックセダンが日独勢を敵に回して健闘しているかといえば、そんなこともない。アメリカでいまいちばん売れているキャデラックは、ミドルサイズSUVの「SRX」なのである。

5月の広島で一躍有名になった大統領専用セダン、「キャデラック・ワン」も、車名とエンブレムだけで、中身はキャデラックではない。そう考えると、このコンパクトモンスターは、とびきり個性的で男前なキャデラックといえるかもしれない。

431psと56.1kgmのM3をエンジンのパフォーマンスでは上回るが、価格も高い。グレードは2種類で、「スペックA」は990万円だが、レーンキープアシストなどの安全装備、カーボンファイバー製エアロパッケージ、セーフティーアラートシートなどを標準装備するこのスペックBは1090万円する。M3のAT(1068万円)より高い。手を伸ばす人も、間違いなく男前だ。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)

サスペンションのロール剛性は標準型「ATS」より高く、フロントは50%強化されている。
サスペンションのロール剛性は標準型「ATS」より高く、フロントは50%強化されている。 拡大
エンジンフードはカーボンファイバー製。中央部には標準型にはない排気ベントが設けられている。
エンジンフードはカーボンファイバー製。中央部には標準型にはない排気ベントが設けられている。 拡大
リアバンパーの下部には4本のテールパイプと、カーボン製のディフューザーがのぞく。
リアバンパーの下部には4本のテールパイプと、カーボン製のディフューザーがのぞく。 拡大

テスト車のデータ

キャデラックATS-Vセダン スペックB

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1835×1415mm
ホイールベース:2775mm
車重:1750kg
駆動方式:FR
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:470ps(346kW)/5800rpm
最大トルク:61.5kgm(603Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR18 94Y/(後)275/35ZR18 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:1090万円/テスト車=1107万7600円
オプション装備:有償ペイント(クリスタルホワイトトゥリコート)(12万9000円)/フロアマット(4万8600円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3691km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:375.2km
使用燃料:50.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.5km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)
 

キャデラックATS-Vセダン スペックB
キャデラックATS-Vセダン スペックB 拡大
 
キャデラックATS-Vセダン スペックB(FR/8AT)【試乗記】の画像 拡大
下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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