キャデラックATSセダン プレミアム(FR/8AT)/CTSプレミアム(4WD/8AT)/CT6プラチナム(4WD/8AT)/ATS-Vセダン スペックB(FR/8AT)/CTS-Vセダン スペックB(FR/8AT)
今はまだ蕾でも 2017.04.17 試乗記 キャデラックのセダンを乗り継いで、都内と群馬県を往復するツアーに参加。オールラインナップに一気乗りしたことでわかった、今のキャデラックセダンの実力とは? そしていまだ三分咲きの桜を眺め、リポーターは何を思う?日本の伝統的行事をアメリカの伝統的ブランドで
「キャデラックに乗って桜を見にいこう!」というツアーに参加した。GMジャパンがメディアを対象に企画した、5車種のセダンを乗り継いで桜の名所を目指すというもので、花見という日本の伝統的行事を、アメリカの伝統的ブランドで行おうというわけだ。何はともあれ東京都心から、目的地の群馬県へ向かう。キャデラックにセダンが5種類もあるの? と思った人がいるかもしれない。僕も思った。でもあるのだ。追って紹介していこう。
朝イチで割り当てられたのは「ATSセダン」。メルセデスでいう「Cクラス」、BMWでいう「3シリーズ」に相当するサイズのFRセダンだ。キャデラックは一時期セダンのFWD(前輪駆動)化を推し進めたが、やがて間違いに気づいて全車RWD(後輪駆動)かRWDベースの4WDに戻した。高級車を好む層はキャデラックが一時期考えていたよりも保守的で、FWD車を高く評価しなかった。
日本仕様のATSのパワートレインは2リッター直4ターボエンジンと8段ATの組み合わせ。年配の方はキャデラックが4気筒? と意外に感じたかもしれない。キャデラックはダウンサイジングコンセプトを積極的に採用するブランドで、かつてのV6を直4ターボに、V8をV6ターボに置き換えている。ATSのエンジンは最高出力276ps/5500rpm、最大トルク400Nm/3000-4600rpmという立派なスペックを誇り、看板に偽りはなく、非常に力強い。特定の回転域でドッカーンとくるような特性ではなく、発進から高速域まで均等に力強い。回転フィーリングはメルセデスやBMWの4気筒よりも滑らか。一切ザラついた感覚がないまま高回転までスムーズに吹け上がる。静粛性が高いので余計に滑らかに感じる。2、3年前に乗った時よりも明らかに好印象だ。
サスペンションの感触にうなる
スイッチひとつでエンジンを始動できるセルモーターを1912年に実用化したのをはじめ、GMが初めて自動車に採用した装備や機能は数知れない。技術的な必要性がなくても定期的にモデルチェンジすることで消費者の購買意欲を喚起するマーケティング手法(計画的陳腐化)もGMが最初。最近のGMの発明で最も素晴らしいのは、なんといってもマグネティック・ライド・コントロールだろう。これはダンパー内のオイルに磁性をもたせ、必要に応じて磁気を発生させることによって、瞬時にダンパーを硬くも柔らかくもできるシロモノで、今ではフェラーリやアウディなど、他社も広く採用している。
今回乗ったATSはマグネティック・ライド・コントロール機能付きのサスペンションシステムが装備される上級グレードの「プレミアム」だったため、乗り心地は一般道も高速道も至極快適。普段はソフトで、必要な瞬間だけハードになるという趣旨のフレーズを、さまざまなクルマが足まわりの売り文句としてカタログに載せるが、ステアリングを素早く切った時のぐらつきを抑えたり、路面の不整をいなしたり、本当に必要な瞬間“だけ”ハードになるのはマグネティック・ライド・コントロールだけだ。安い方の「ラグジュアリー」だとオプションでもこのサスを選べないので、ATSを買うならプレミアムを強くオススメしたい。
コンパクトなATSは、交通量が多く、狭い道路の多い都心でも運転しやすい。ただし左ハンドル車の運転に慣れていればの話だ。現在、キャデラックには右ハンドル車の設定がない。かつて輸入車が“ガイシャ”と呼ばれていた頃は左ハンドルが珍重された。現在でも「ポルシェ911」やフェラーリなど一部のスポーツカーでは、左ハンドルがありがたがられる。けれどセダンで右ハンドルを選べないのは、販売台数を増やすうえで不利だ。
身をもってCTSの快適性を証明
関越道・高坂SAで「CTSプレミアム」に乗り換える。ATSがCクラス、3シリーズのライバルなら、CTSは「Eクラス」や「5シリーズ」のライバルだ。そしてEクラス、5シリーズが4気筒エンジンを搭載するように、CTSもダウンサイジングコンセプトにのっとってATSと同じ4気筒ターボエンジンを搭載する。変速機は8段AT。ただしATSがRWDなのに対し、CTSは4WD。本国にはATS、CTSそれぞれにRWD、4WDの設定があるのだろうが、全部入れるわけにいかない日本仕様はこう差別化したということだろう。新しい世代のCTSにはついにアイドリングストップ機能が備わるようになった。この試乗セクションは助手席に陣取ることにした。CTSはATSよりも220万円高いだけあって静粛性はさらに高い。ただしインテリアの質感は変わらない。ATSでも十分に豪華だ。そしてもちろん、ダンパーはマグネティック・ライド・コントロールありだ。
キャデラック各モデルには、彼らが「CUE(キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス)」と呼ぶインフォテインメントシステムが備わる。8インチのタッチパネル式ディスプレイを操作することで、カーナビ、オーディオ、ハンズフリー通話などを操作することができる。Apple CarPlayにもAndroid Autoにも対応し、スマホのナビソフトをディスプレイに表示することができるが、日本仕様にはもともとカーナビが備わっている。インフォテインメント系機能の充実ぶりでは日独のライバルに肩を並べているが、その操作性は、例えばダイヤルを使って操作するドイツ勢にくらべ、一歩劣る。ともあれ、助手席でうとうとしてしまったということは、結果的にCTSの快適性が高いことの何よりの証明になるのではないだろうか。
関越道から上信越道へ分岐した後、群馬県甘楽町(かんらまち)の楽山園で昼食。織田信長の次男、信雄(のぶかつ)が徳川家康から拝領した小幡藩に整備した庭園で、専門的に見ると、戦国時代の武将の庭園から、平和な江戸時代の、大名の庭園へと移行する過渡期の特徴が表れた庭園だそうだ。キャデラックを5台も連ねて日本庭園を訪れると、周囲に『アウトレイジ』的な雰囲気が漂った。特別に許可をいただき、「CTS-Vセダン スペックB」を庭内に入れて撮影する。純和風の庭とアメリカン・ラグジュアリー・スポーツサルーンは不思議とよく似合っていた。
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市販車最速クラスなのに快適
午後イチはそのCTS-Vに乗り換える。CTSに「シボレー・コルベット」にも積まれるスーパーチャージャー付き6.2リッターV8 OHVエンジンを搭載したスペシャルモデルで、最高出力649ps/6400rpm、最大トルク855Nm/3600rpmという冗談みたいなスペックを誇る。変速機は8段AT。どっちかというと逆にすべきでは? と思わないでもないが、CTSが4WDなのに対し、なぜかこっちはRWDだ。レカロ製バケットシート、ブレンボ製ブレーキ、各種エアロパーツなど、パワーアップに合わせてさまざまな部分が専用パーツとなる。ボンネットはカーボン製。
どれくらい速いかというと、市販車最速の部類に入るくらい速い。4ドアセダンに限ればホントに最速かも。その実力のほんのひとかけらだけでも公道で味わうべく、高速道路へ合流した。周囲をよく確認して床まで踏んだ。さほどエンジン音が高まるわけでもなく、低くゴーッとうなるような音を立てて加速する。すぐ100km/hに達する。クルマはすでに本線にいるのに意識はまだ加速車線にあった。これ以上はもはやうれしくないレベルの加速だ。
CTS-Vの真価は、そのような動力性能を持ち合わせながら、普通のCTSと変わらぬ快適性が備わっている点にある。フロント265/35ZR19、リア295/30ZR19という極太タイヤを装着しながらも、轍(わだち)に影響されやすいということがないし、16ウェイ電動コントロール付きのレカロシートはサポート性が高く、かつクッション性もよいので快適に長時間座っていられる。高速巡航中、ACCを作動させて先行車を追従させておけば楽チンそのもの。後側方からクルマが接近している時に車線変更しようとすると、シート座面が振動して警告してくれる。ハイチューンのV8エンジンは狭い路地をノロノロと走らせてもまったく気難しさを見せない。そればかりか低負荷時には気筒休止で燃費を稼ぐ。こんな600ps超のエンジンを他に知らない。まぁ600ps超のエンジン自体をほとんど知らないのだが。
CTS-Vで次に向かったのは富岡製糸場。1872年に日本初の本格的な器械製糸工場として開業した。キャデラックが生まれる約30年前のことだ。産業によって近代化を目指した殖産興業を象徴する遺産として、2016年にユネスコの世界遺産に認定された。キャデラックが積むV8エンジンも、アメリカ車のある時期を象徴するテクノロジーとして、いつの日か遺産として認定されるだろうか。
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世間のキャデラックのイメージとは!?
帰路の最初に乗ったのはキャデラックのフラッグシップサルーン「CT6プラチナム」。2016年秋に日本導入を果たした。例によってドイツ車でいえば、「メルセデス・ベンツSクラス」「BMW 7シリーズ」に相当する存在だ。サイズもこれら3モデルはほぼ一緒。998万円という価格はSクラスで最も安い「S300h」とまったく同じ。少なくともキャデラックの方は相手を意識しているということがわかる。他のキャデラック同様、左ハンドルのみの設定。CTSと同じく日本仕様は4WDだ。さすがにフラッグシップを直4で動かすのは気が引けたのか、CT6は3.6リッターV6自然吸気エンジンを搭載する(S300hは2.2リッター直4ディーゼルターボ+ハイブリッドだが)。
ATS、CTSを上回る静粛性の高さが確保されていて、ぶっ飛ばしていても車内は平和そのものだ。11の素材をさまざまな方法で接合したという複合素材ボディーの剛性が高いのだろう、かつてのアメリカ車の鷹揚(おうよう)な動きとは無縁で、細かなステアリング操作が正確に挙動となってあらわれる。例によってマグネティック・ライド・コントロールがしっかり仕事をしており、普段はソフトで、必要な瞬間だけダンピングレートが上がって入力を素早く収束させてくれる。
この日立ち寄ったカフェの店頭をお借りしてクルマを撮影していると、常連らしき男性客から「ほう、キャデラックかい。排気量は何シーシー?」と、明らかに6リッターとか7リッターという答えを期待して尋ねられた。こちらが申し訳なさそうに「3.6リッターです」と答えた時の男性の顔が想像通り拍子抜けしていておかしかった。キャデラックは、市場でライバルブランドと販売競争すると同時に、こうした根強い世間のイメージとも戦っているのだ。もう何年も前から、大排気量のガスガズラーでもなければ、非常識に大きなサイズでもない。メルセデス、BMW、レクサスあたりと真っ向勝負ができるモダンラグジュアリーなのだが、そのことを世間一般に広く浸透させるには、まだ時間が必要だ。
いっぽうで、国際的なプロダクトになればなるほど、他のラグジュアリーブランドとの差別化が難しくなるというジレンマもある。大排気量のV8で冗談のようなサイズを動かすことこそがアメリカ車の魅力というのもまた事実だ。けれど、この日5台のキャデラックに乗り、デザイン、動力性能、乗り心地、安全装備、快適装備など、各要素をチェックした結果、どれも他ブランドの同クラス、同価格帯のモデルに比肩する出来であることがわかった。とりわけ乗り心地のよさは多くのライバルを上回る。このためだけに左ハンドルなのを我慢してキャデラックを選ぶ人がいても全然おかしくない。
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右ハンドル導入に脈あり
そういえば、「ATS-Vセダン スペックB」の報告を忘れていた。3.6リッターV6ターボを搭載していて非常に速い。それでいて普通のATSと同じように気軽に使うことができる。CTS-VとCTSの関係とまったく同じだ。
ところで、インポーターによれば、本社に右ハンドル車導入の必要性を訴えていないわけではなく、本社も聞く耳をもたないというわけではないという。その口ぶりからして来年か再来年に……という段階ではなさそうだが、数年後には実現するかもしれない。先日、オペルを売却した資金がそれに充てられるかどうかはわからないが、そうなればうれしい。その時までに、現在全国19店舗の正規ディーラーの数を増やしておくべきだ。販売体制が整えば販売台数で欧州勢を脅かす存在になり得ると思う。だから日本のキャデラックはブレイク夜明け前なのだ。この日、群馬の桜はまだ蕾(つぼみ)でがっかりさせられたが、あの蕾はキャデラックの前途なのだと思うことにした。
(文=塩見 智/写真=GMジャパン/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
キャデラックATSセダン プレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×1805×1415mm
ホイールベース:2775mm
車重:1600kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:276ps(203kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3000-4600rpm
タイヤ:(前)225/40RF18 88W/(後)255/35RF18 90W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:シティー=22mpg(約9.4km/リッター)、ハイウェイ=31mpg(約13.2km/リッター)(米国EPA値)
価格:570万円/テスト車=587万7600万円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトトゥリコート>(12万9000円)/フロアマット(4万8600円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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キャデラックCTSプレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4970×1840×1465mm
ホイールベース:2910mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:276ps(203kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3000-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93V/(後)245/40R18 93V(ピレリPゼロ ネロ)
燃費:シティー=21mpg(約8.9km/リッター)、ハイウェイ=29mpg(約12.3km/リッター)(米国EPA値)
価格:790万円/テスト車=808万8400円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトトゥリコート>(12万9000円)/フロアマット(5万9400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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キャデラックCT6プラチナム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5190×1885×1495mm
ホイールベース:3110mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6900rpm
最大トルク:386Nm(39.4kgm)/5300rpm
タイヤ:(前)245/40R20 95W M+S/(後)245/40R20 95W M+S(グッドイヤー・イーグルツーリング)
燃費:シティー=18mpg(約7.7km/リッター)、ハイウェイ=27mpg(約11.5km/リッター)(米国EPA値)
価格:998万円/テスト車=1016万8400円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトトゥリコート>(12万9000円)/フロアマット(5万9400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--/リッター
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キャデラックATS-Vセダン スペックB
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1835×1415mm
ホイールベース:2775mm
車重:1750kg
駆動方式:FR
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:470ps(346kW)/5800rpm
最大トルク:603Nm(61.5kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR18 94Y/(後)275/35ZR18 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:シティー:17mpg(約7.2km/リッター)、ハイウェイ=25mpg(約10.6km/リッター)(米国EPA値)
価格:1090万円/テスト車=1107万7600円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトトゥリコート>(12万9000円)/フロアマット(4万8600円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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キャデラックCTS-Vセダン スペックB
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5040×1870×1465mm
ホイールベース:2910mm
車重:1910kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:649ps(477kW)/6400rpm
最大トルク:855Nm(87.2kgm)/3600rpm
タイヤ:(前)265/35ZR19 98Y/(後)295/30ZR19 100Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:シティー=14mpg(約6.0km/リッター)、ハイウェイ=21mpg(約8.9km/リッター)(米国EPA値)
価格:1470万円/テスト車=1475万9400円
オプション装備:フロアマット(5万9400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
