メルセデス・ベンツE400 4MATICエクスクルーシブ(4WD/9AT)
未完の実力派 2016.12.02 試乗記 3.5リッターV6ターボエンジンに4WDシステムを組み合わせる、新型「メルセデス・ベンツEクラス」の上級モデルに試乗。先行して発売された2リッター直4ターボ車とは異なる、その走りの質を報告する。パワフルな中核モデル
1985年にローンチされた、W124型と呼ばれた初代Eクラス。それから30年以上がたち、数えて5代目となる現行型のEクラスは、2016年初頭のデトロイトモーターショーで正式に発表された。日本には、ターボ付きの2リッター4気筒エンジンを搭載する「E200アバンギャルド/E200アバンギャルド スポーツ」から導入が開始された。
すでに世界で1200万台以上の累計販売数を誇るEクラスは、数あるメルセデスのラインナップの中にあって、「Cクラス」と並ぶ中核的存在。それゆえ、シリーズ中に多数のバリエーションを用意するのも、歴代Eクラスに共通する特徴である。今回紹介するモデルも、早くも拡充が始められている最新バリエーションの中の一台だ。
グレード名からも4WDシステムの持ち主であることが分かるこの「E400 4MATICエクスクルーシブ」には、2基のターボチャージャーが備わる3.5リッターV型6気筒エンジンが搭載され、9段ATが組み合わされる。昨今メルセデスのグレード名に用いられている3桁の数字は、パフォーマンスの違いを象徴的に表したもので、このモデルが発生する333psという最高出力や48.9kgmの最大トルクは、E200のそれよりもはるかに強力だ。
ちなみに同名の先代E400は、ハイブリッドシステムの持ち主だった。モーターが発するパワーを上乗せしたトータル出力は337ps。ピュアなガソリンエンジン車ながら、新型が発する最高出力も近似したもので、このモデルがあらためて“400”を名乗るのも「なるほど」というわけだ。
唯一の“マスコット付き”
現時点で発表されている新型Eクラスの中で、“エクスクルーシブ仕様”は、このE400のみ。E200シリーズのアバンギャルドやアバンギャルド スポーツがダイナミックでスポーティーな装いを強調するのに対して、エクスクルーシブでは、より正統派メルセデスらしい雰囲気がアピールされている。かつてメルセデスの象徴的なアイテムだったスリーポインテッドスターのマスコットが、フードの先端に与えられるのもこの仕様のみ。それゆえ、新型Eクラスでこのディテールにこだわると、自動的にE400になってしまうことになる。
それにしても、新型Eクラスのエクステリアデザインはやはり、「Sクラス」とCクラスの間に割って入ったという印象が強い。全長が45cm、全幅も10cm以上異なるSとCとを間違える人は少ないだろうが、サイズがその中間にあるEの場合、うっかりすると、SとCのいずれとも見間違えてしまいそう。ダッシュボードには、2つの大型ディスプレイを1枚の横長ガラスで覆ったメーターパネルが備わっている。そんなインテリアも、同様のモチーフを先行採用したSクラスに酷似した雰囲気だ。
いずれにしても、「“真ん中”にあたるEには上下の兄弟と趣を異にするデザインを採用し、それをもって3車を識別しやすくするのではないか?」というデビュー前の個人的な予想は、見事に外れてしまった。
ところで、かつてメルセデスの4WDシステムについては、「縦置きトランスミッションの後端からトランスファーを介して分離した回転軸が、前輪を駆動するためトランスミッションケース右側を“Uターン”していくがゆえに、右ハンドル仕様の乗用車では成り立たない」などと説明されていたのだが、その問題は、最新世代では見事にクリア。左足の置き場所を含めたドライビングポジションは、そこそこ違和感のないものになっている。
快適なのはスポーツモード
実はこのモデルには、前述のパワーユニットと並んで、大きな見どころとなる新テクノロジーがある。「エアボディーコントロールサスペンション」と呼ばれる、マルチチャンバーを用いた新開発のエアサスペンションがそれだ。
フロントアクスル用に2つ、リアアクスル用には3つ、サイズの異なるエアチャンバーを採用するのが“マルチ”という名の由来。これにより、スプリングの特性を多彩に変化させ、メタルスプリングではまねのできない、はるかに自由度の高いチューニングが可能になったという。
そんな新しい脚を採用するこのE400で走り始めるや、予想だにしなかったフットワークのテイストに驚かされた。ドライブモードを、事実上のデフォルトと考えられる「C(コンフォート)」にセットして走り始めると、フワンフワンとボディーの動きが大きく、ダンピングも甘めの印象。それはまさに、かつてたびたび表現された「エアサス風の乗り心地」であり、ゆえに端的なところ「全くメルセデスらしくない」テイストでもあったのだ。恐らく、この状態で目隠しテストでもやらされたら、自分が乗っているのがメルセデスであるとは誰も言い当てられないはずだ。本当にこれを快適な乗り味と考えたのか、ぜひとも開発者にその真意を問いたいところである。
というわけで、個人的にはこのポジションではなく、取扱説明書上で「引き締まったサスペンション制御」と紹介されている「S(スポーツ)」モードの方がはるかに気に入った。新型Eクラスは、そもそもE200系でも静粛性に優れるものの、E400がさらにロードノイズの遮断性などの点で上回るように感じられるのは、エアサスペンションの働きによるのかもしれない。
信頼感あふれる乗り味
よりハイスペックな心臓の搭載に加えて4WDシャシーの持ち主ということもあり、E400の車両重量は1.9tをオーバーする。E200系のおよそ200kg増しである。しかし、そんな重さも何するものぞ、という勢いで軽快に、というよりも豪快に加速できるのは、わずか5.2秒の0-100km/h加速タイムも証明している通りだ。
E200系に対してより緻密でスムーズな加速フィールが得られるのは、エンジンの気筒数が増えたモデルの例に漏れない。アクセルペダルを深く踏み込んでも後輪の接地感に不安がないのは、もちろん4WDの成果……というよりも、500Nmに迫ろうという過給エンジンならではの大トルクを、FRレイアウトをベースとする実用セダンで無理なく使いこなすためには、もはや駆動力は4輪に分散して伝えることが不可欠。それが、このモデルに4WDシステムを採用した真の理由であるようにも思える。
ワインディングロードへと乗り入れると、ボディーサイズが実際より小さく感じられる。これは、正確性に富んだステアリングフィールや常に安定した4輪の接地感など、典型的なメルセデスらしい信頼感あふれる乗り味がもたらすものだろう。
一方、新型Eクラスのドライバーズシートへと乗り込んだ際に何とも解せないのは、まるで目隠しでもされたかのようにドライバー側ドアミラーの背後に生まれる、極めて大きな死角の存在だ。
メルセデス・ベンツというブランドは、自車の乗員のみならず、衝突相手の安全の確保まで計算に入れてボディーを開発したり、積極的に最先端安全デバイスを導入したりと、「安全」に関しては大いに配慮することで知られる。そのメルセデスが手がける最新のモデルに、「安全走行に必要な視界が確保できていない」という、他のモデルにない問題が存在するとは不思議なことだ。恐らく、今後のマイナーチェンジなどを機に、ドアミラー取り付け位置の変更や形状そのものの改良といった対策はなされるとは思う。本音を言えば、「それまでは、少なくとも知り合いには薦められない」というのが現時点での正直な思いでもある。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE400 4MATICエクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1850×1455mm
ホイールベース:2940mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:333ps(245kW)/5250-6000rpm
最大トルク:48.9kgm(480Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)245/45R18 100Y/(後)245/45R18 100Y(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:11.3km/リッター(JC08モード)
価格:952万円/テスト車=1032万円
オプション装備:メタリックペイント<イリジウムシルバー>(9万円)/エクスクルーシブパッケージ<Burmesterサラウンドサウンドシステム+エアバランスパッケージ[空気清浄機能、パフュームアトマイザー付き]+パノラミックスライディングルーフ[挟み込み防止機能付き]>(35万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4061km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:394.0km
使用燃料:38.4リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:10.3km/リッター(満タン法)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。