KTM125デューク/250デューク/390デューク/1290スーパーデュークGT
パンチがきいてる 2017.06.10 試乗記 普通二輪免許で乗れるKTMのネイキッドバイクが、3車種同時にフルモデルチェンジ。「野獣の卵」「ザ・コーナーロケット」など過激なニックネームを持つ新型の実力を、サーキットで確かめた。筋金入りのレース好き
「webCGじゃ珍しい二輪の記事だな」と目に留めてくれた方。さらにはその中に含まれるはずの「もう一度オートバイに乗ってみてもいいかな」というヤングなハートを秘めた方。ラッキーです。福音です。かなりナイスなブランドのニューモデル、ご紹介します。
オーストリア生まれのKTM。投資家(エルンスト・クローノライフ)と創業者(ハンス・トゥルンケンポルツ)と生誕地(マッティグホーフェン)の頭文字を取って社名としたこの二輪メーカーは、1953年に第1号車を発表して以来、ざっくり言えばオフロードレースに特化して製品づくりを行ってきました。世界各地のモトクロスはもちろん、ダカールラリーをはじめとするアドベンチャーラリーでも成績優秀。21世紀に入るとオンロードレースにも本格的に力を入れ始め、2017年にはMotoGP(ロードレース世界選手権)全クラスへの参戦も果たしております。
要するにレースが大好き。ゆえにコーポレートメッセージも「READY TO RACE」。そのブレなさ加減が、KTMの個性であり魅力です。
今回の試乗会「JAPAN MEDIA LAUNCH 2017」で用意されたのは、KTMの主要ロードモデルと位置付けられる“ネイキッドレンジ”の「DUKE(デューク)」シリーズ。デュークには「素手で殴り合おうぜ!」という意味があるそうです。いささか意訳気味ですが、「ガツンとした手応えを感じる商品群」とご理解ください。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
今年は二輪がおもしろい
デュークシリーズ2017年モデルは全6種ですが、何と、ハイパフォーマンスモデルの「1290スーパーデュークR」を含む4種がブランニュー。特に「125」「250」「390」といったリトルデューク君たちは一皮むけました。この新型攻勢、実は“裏”があります。手短に話すので聞いてください。
2016年に発売されるモデルから順次適用される新しい排ガス規制のユーロ4。世界各国がこの新基準を採用したいま、ユーロ4に適合できないモデルの生産終了ラッシュが起きています。
騒音規制の厳格化や排ガスに含まれる有害物質の半減化等々、規制強化は厳しさを増しておりますが、こと日本においては、ダブルスタンダード的な国内規制が取っ払われたおかげで、中速回転域が滑らかになり排気音までよくなったモデルがあるとか。グローバル基準の採用により、ややこしかった「輸入車の日本仕様」もなくなったという恩恵も生まれました。
……というような変革のタイミングを迎え、KTMもまた新型を多数投入してきたわけです。これまたざっくり言いますが、二輪業界にとって2017年は非常におもしろい年なんですね。ですから「もう一度オートバイに」とこの時期にお考えの方は、さぞやその素手の運命線がくっきり浮かび上がっているのではないかと想像します。
前説が長くなりました。いよいよ試乗します。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
車体のしっかり感に驚く
今回「JAPAN MEDIA LAUNCH 2017」が開催されたのは、千葉県にある袖ケ浦フォレストレースウェイ。「サーキットかいな? 革ツナギあらへんぞ」と慌てましたが、試乗に適した服装ならOKという了承を得てホッとしました。「READY TO RACE」だってこと、侮っていました。ごめんなさい。
試すべきは、3台のリトルデューク君たち。「って、見分けがつくんかい?」が第一印象です。そりゃそうです。単気筒エンジンを包み込むフレームのデザインや前後17インチホイール等々、車体の基本的な構成やサイズはほぼ同一。外観で見分けがつくのは、フューエルタンクやシートカウルに記されたモデル名のみ。こんなに似ている兄弟を乗り比べるなんて無理だろうという不安が、梅雨入り直前の空に浮かぶ入道雲のようにモクモクしてきました。「じゃ、時間ですから前から2列目のに乗ってください」と促したのは関編集部員。ここん家のスタッフはすがすがしいくらい常にきちきちしております。
で、いきなり感想。自分が最初に乗ったのは、最も排気量の小さな「125デューク」でしたが、そのことに気づいたのは、試乗の後。「え?」ってつぶやいてしまいました。確かに地の底からあふれるようなパワーはなかった。あえて言うなら「毎秒50回以上も羽ばたくハチドリのような軽やかなエンジンフィーリング」。最高出力15psを1万rpmで発生するそうなので、自分の感覚はまんざらじゃない。
なんて自慢話はさておき、何に驚いたかといえば、車体全体のしっかり感です。サーキットに不慣れな者でも安心して身を預けられるというか、少なくとも自分の試乗機会中には破綻の“破の字”も見せなかった。ブレンボのOEMのBYBRE(バイブレ)製4ピストンラジアルマウントブレーキ&ボッシュ製ABSのタッチは素晴らしいし、2017年モデルで改められた前後サスペンションの動きも自然。これほど安心感と包容力のある125ccモデルなんて、ほかに知りません。
単気筒らしからぬスムーズさ
ポイントは、その「え?」です。たぶんひどく間抜けな顔で発したと思いますが、あの「え?」は、まだ半年以上残っている2017年でも最上級の「え?」になるでしょう。
125に次いで乗ったのが390。その次が250。三つ子と言っても問題ない3種ですから、基本的な乗り味は同じです。違うのはもちろん排気量。390は最高出力44psを9000rpmで発生。特にコーナーの立ち上がりでは、125では得られなかった、強力に背中を押し上げてくれる頼もしさがあります。KTMではこの390に「THE CORNER ROCKET」というニックネームを与えていますが、なるほどなあと思いました。
そしてまた390には、リニアなスロットルワークを可能にするライドバイワイヤと、急激なシフトダウンでもリアホイールをスキッドさせないスリッパークラッチが装備されています。自分にはそうしたギミックを体感できる技量はありませんが、125の15psからいきなり乗り換えても不安がなかったということは、そうした機能が人知れず活躍してくれたのでしょう。
海外では200ccの「200デューク」がラインナップされているところを、それに代えて、主に日本の免許制度に合わせて開発したという250は、3兄弟の比較においてはまさしく中間に位置します。390と同じ9000rpmで発生する最高出力は30ps。実に手頃です。それにしても単気筒エンジンでこれほどスムーズに回るというのは驚異的。体に染みついた「シングル特有のボコボコ感」がまるでありません。
特別感が満ちている
参考試乗的に、“スポーツツアラー”というジャンルに属する「1290スーパーデュークGT」にも乗ってみました。デュークという名が付きますが、1301ccの75度V型2気筒エンジンや大柄な車格、あるいは213万2000円といった価格を含め、三つ子とは家系が異なります。とにかくデカいです。でも、車重(乾燥重量)212kgの体格ながらコーナーへのアプローチで従順な性格を見せるところや、総じて安定感が高い乗り味は、小柄な3兄弟との縁を感じます。言うまでもなく、長距離を走るならこのオジキの貫禄に圧倒されることでしょう。
総論を語るのもおこがましいので、率直かつ個人的な、「どれが買いか?」を発表します。
(ドラムロールをイメージしてください)
ずばり、125デューク! 正直なところ、自分でも予想外の結論になりました。試乗前は「いまさら125はないよねぇ」と思っていたのですから。そんな先入観を鮮やかにひっくり返した最大の理由は、やっぱり「え?」という意外性です。長兄たちにエンジンパワーで劣っても、骨格が同じということは、あるいは街乗りでフルパワーを楽しめるかもしれない。その期待感は非常に大きいです。
いわゆるリターンライダーが増えたとき、大人になったかつての少年たちはこぞって最高級モデルを選んだと聞きます。しかし、それと同じだけ、力を蓄えた巨大なモンスターを手なずけられずに手放した人も多かったそうな。大事なのは身の丈に合っているかどうかですね。でも、だから125が適当というわけではない。リトルデューク君たちは、どれも独創性に基づく特別感が満ちています。中でも125は、特に意外性が高かった、ということです。兄弟の見分けがつかないのも、ある意味でぜいたくです。
そう、125と250のデュークには、「SPAWN OF THE BEAST」というニックネームが与えられています。「野獣の卵」ですって。大事に温めたらどうなるんだろう。化けるのは乗り手のあなたってこと? おっと、きれいにまとまっちゃいましたね。
(文=田村十七男/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
KTM125デューク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1357mm
車重:137kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:124.7cc 水冷4ストローク 単気筒 DOHC 4バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:15ps(11kW)/1万rpm
最大トルク:12Nm(1.2kgm)/7500rpm
タイヤ:(前)110/70R17 54H/(後)150/60R17 66H(メッツラー・スポルテックM5)
燃費:--km/リッター
価格:51万円/テスト車=51万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:291km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
KTM250デューク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1357mm
車重:149kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:248.8cc 水冷4ストローク 単気筒 DOHC 4バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:30ps(22kW)/9000rpm
最大トルク:24Nm(2.4kgm)/7250rpm
タイヤ:(前)110/70R17 54H/(後)150/60R17 66H(メッツラー・スポルテックM5)
燃費:--km/リッター
価格:57万円/テスト車=57万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:107km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
KTM390デューク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1357mm
車重:149kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:373.2cc 水冷4ストローク 単気筒 DOHC 4バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:44ps(32kW)/9000rpm
最大トルク:37Nm(3.8kgm)/7000rpm
タイヤ:(前)110/70R17 54H/(後)150/60R17 66H(メッツラー・スポルテックM5)
燃費:--km/リッター
価格:62万円/テスト車=62万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:79km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
拡大 |
拡大 |
KTM1290スーパーデュークGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1482mm
車重:205kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:1301cc 水冷4ストローク V型2気筒 DOHC 8バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:173ps(127kW)/9500rpm
最大トルク:144Nm(14.7kgm)/6750rpm
タイヤ:(前)120/70ZR17 58W/(後)190/55ZR17 75W(ピレリ・グランツーリスモ)
燃費:--km/リッター
価格:213万2000円/テスト車=213万2000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1471km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

田村 十七男
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。






























