第50回:謎のメチャ軽ステアリング(その2)
2017.07.18 カーマニア人間国宝への道当たりのゴールドバッジ
赤い玉号は本当にスバラシイ。特にスバラシイのは、内外装の美しさと、エンジンの吹け上がりだ。
ボディーには、傷らしいものはほとんどない。年式が年式だけに、跳ね石の跡がいっぱいあってもおかしくないが、それもほんのわずか。まさに極上モノ!
内装レザーは白。正確には薄いベージュですが、それも新品のごとき美しさで、乗るのが申し訳なくなる。
エンジンは、購入時から装着されていたMSレーシング製マフラーの抜けの良さもあり、とろけるように豪快にさく裂する。もちろん古いクルマですからそんなに速くないですが、とっても速く感じます。この「速く感じる」という点が一番重要なんだよネ! 速く走んなくていいから。
エンジンのすばらしさを尾上メカに語ったところ、「ゴールドバッジだからかな~」。
私「ゴールドバッジって何?」
尾上「ほら、このクルマ、『GTS』のエンブレムが金色でしょ。これは当たりのエンジンの印っていううわさがあるんだよ。あくまでうわさだけど」
そんな話初めて聞きました!
実は赤い玉号を買う時、GTSのエンブレムが金色なのを見て、「過去のオーナーさんが塗ったのかな。趣味悪いな」と思ってしまっていたのです。
ネット上で検索したところ、「308」用エンブレムはゴールドにつき、それが本社に余っていて、前期型「328」に流用したのではないかとも書かれていましたが、「俺の赤い玉号は当たりのゴールドバッジ」と思うことにしよう! 占いもエンブレムもいいことだけ信じようじゃないかウフフ~!
パワステなしで驚愕の軽さ
このように超絶ウルトラ最高な赤い玉号で唯一気になるのが、想像を絶するほどメチャ軽いステアリングなのである。
その軽さは、通常の「軽い」のレベルをはるかに超えている。かの池沢早人師先生も、赤い玉号に試乗して「この軽さは何!?」と驚愕(きょうがく)したほどだ。
考えてみてください。328はパワステ付いてないんですから。まさかパワステのないクルマのハンドルがメチャ軽くて悩むなんて、そんなことが人生で起きるとは思いませんでした。ある意味、奇跡のような体験です。
で、その原因を考えているのだが、据え切りではハンドルはフツーにメチャ重いので、後付けパワステが付いている可能性はナイと判断すると、まず疑うべきはアライメントということになる。
ハンドルが軽くなるアライメントにはいくつかあるようですが、そのひとつがポジティブキャンバーだという話は前回書かせていただきました。
で、アライメント測定に出す前に、まず自分で簡単に確認してみようと思い立ち、角材をホイールの直径に切り、スマホに分度器ソフトをダウンロードしてキャンバーを測ってみた。スマホ用分度器ソフトは、鉛直方向に対する角度が出るヤツです。
車庫の地面が傾いているので、左右の角度を差し引いてキャンバー角を算出したところ、結果はポジティブどころかネガティブ方向。左右合計で1.8度ほどのネガキャンでした……。精度は超テキトーですが。
328の純正キャンバー角度は存じませんが、これはごくまっとうな範囲内にあると思われます。
謎は深まるばかり
私は再度尾上メカと話し合った。
尾上「そもそもさ、アライメントだけでこんなにハンドルが軽くなるって、考えられなくない?」
私「言われてみれば……」
尾上「アライメント調整に出して、ハンドルの重さが明らかに変わったことって、ある?」
私「全然ないよ!」
尾上「タイヤって可能性もあるけど、それだって、タイヤでこんなにハンドルが軽くなったことってある?」
私「それもないよ!」
例えばサマータイヤからスタッドレスタイヤに交換すると、トレッド面が柔らかい分ハンドルがかなり軽くなったものだが(過去形)、この軽さはそういうレベルでもない。なにせ、他の328に比べて手応えが3分の1くらいっきゃないのだ。
尾上「しかもこのクルマ、ポテンザ履いてるじゃない。タイヤでハンドルが軽くなってること自体、ちょっと考えられないよね?」
赤い玉号のフロントタイヤは、「ポテンザS001」。生産は7年前なので交換すべき時期ではあるが、タイヤを新しくすると、ハンドルが「軽快かつスムーズに動くようになる」のが通例だ……。
実のところこのハンドルの軽さ、特に困っているわけではありません。めったに乗ならいクルマだし、フェラーリの命は一にエンジン、二にカッコ。それが抜群ならば、ハンドルが軽すぎてコワイなんてのは些細(ささい)なことなのだ。
ただ、パワステのない328のハンドルが、赤い玉号に限ってメチャ軽いという「謎」が、カーマニアの探求心を刺激するのです。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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