【F1 2017 続報】第10戦イギリスGP「ハミルトン、最良の母国GP」
2017.07.17 自動車ニュース![]() |
2017年7月16日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第10戦イギリスGP。過去2戦、自分以外の要因で勝利から遠ざかっていたルイス・ハミルトンが、母国の大観衆の前でポール・トゥ・ウィンを達成。イギリス人によるイギリス人のためのイギリスGPとなった。
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モータースポーツの「聖地」の決断
イギリスGPが目前に迫った7月11日、同GPが行われるシルバーストーン・サーキットのオーナー、ブリティッシュ・レーシング・ドライバーズ・クラブ(BRDC)は、2026年までのGP開催契約の破棄条項を行使すると発表した。これにより現行契約での開催は2019年までとなるが、BRDCがF1と決別したいわけではない。毎年上がっていく開催権料に、BRDCが耐えられなくなったのだ。
BBCなどが伝えたところによると、2009年、当時のF1の商業面を牛耳っていたバーニー・エクレストンと締結した契約では、2010年の開催権料は1200万ポンド(約17億7000万円)。これが17年間にわたって毎年5%ずつ上昇するというものだった。BRDCのジョン・グラント会長は、2015年に280万ポンド(約4億1000万円)、2016年には480万ポンド(約7億円)の損失を出しており、今年も同じくらいの損失を計上する見込みであると同クラブの実情を語った。近年F1に加わった新しいGPが政府からの支援を受けていたため、開催権料は高騰を続けていた。しかし古くからのF1ホスト国ではそうした援助に頼れず、懐具合は悪化の一途をたどっていた。
財政破綻の危機に背中を押された、今回の破棄条項の行使だったが、BRDCは新たなF1のオーナーであるリバティ・メディアと、2020年以降の開催再契約に期待を寄せている。アメリカに本拠を置くリバティ・メディアは、F1の人気を支えるヨーロッパを重要視しており、中でもシルバーストーンでのイギリスGPは、F1黎明(れいめい)期から続く伝統の一戦としても、また観客動員数からも、欠かすことはできないと考えているからだ。
1950年5月13日、記念すべきF1世界選手権の「最初の1戦」が行われたシルバーストーン。初年度開催コースで今もカレンダーに残るのはモナコ、ベルギーのスパ・フランコルシャン、イタリアのモンツァ、そしてシルバーストーンの4つだけ。また初年度から毎年開催されているのは、イタリアとイギリスの2つのGPしかない。エイントリー、ブランズハッチで行われたこともあったが、1987年以降はシルバーストーンがイギリスのモータースポーツファンの「聖地」となっており、今年も多くの観客がサーキットに集結し、今季随一のにぎわいをみせていた。
人々に求められるからこそ、伝統は受け継がれていく。イギリスGPはF1の、そしてモータースポーツの聖地でもあるのだ。リバティ・メディアもBRDCも、イギリスはもちろん世界中のレースファンも、2019年以降の開催継続を願っているはずである。
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ハミルトン、大差をつけてポールポジション獲得
チャンピオンシップに話を移せば、前戦オーストリアGPでセバスチャン・ベッテルに20点の差をつけられ、またチームメイトのバルテリ・ボッタスには15点差まで詰め寄られたランキング2位のルイス・ハミルトンが、3連勝中の母国GPでどう反撃してくるかに注目が集まった。
すっきりしない天候で始まったレースウイークは、土曜日になると時折小雨に見舞われることに。予選最初のQ1セッションは浅溝のインターミディエイトタイヤでの出走となったが、コンディションはすぐに回復し、Q2からはドライタイヤ装着でのアタックとなった。
トップ10グリッドを決めるQ3で最速タイムをたたき出したのはハミルトン。今季6回目、イギリスで5回目、通算67回目のポールポジションを獲得し、歴代最多のミハエル・シューマッハーの記録にあと1つと迫った。予選2位のキミ・ライコネンは、ハミルトンに0.547秒も突き放され、3位ベッテルとともにフェラーリは一発の速さで完敗した。
4位に入ったのはメルセデスのボッタスだったが、前戦のハミルトン同様ギアボックス交換で9番グリッドに降格。その影響で、レッドブルのマックス・フェルスタッペン4番手、ルノーのニコ・ヒュルケンベルグ5番手、フォースインディアのセルジオ・ペレスとエステバン・オコンが6番手と7番手、そしてマクラーレンのストフェル・バンドールンが8番手にそれぞれ繰り上がった。トップ10の最後は、ハースを駆るロメ・グロジャンだった。
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ベッテル対フェルスタッペンの3位争い
フォーメーションラップ中にジョリオン・パーマーのルノーがコース脇にストップしたことで、もう1周のフォーメーションラップを経て、予定より1周少ない51周レースとして始まった。ポールシッターのハミルトンがトップでターン1へ進入。2位ライコネンの後ろでは、出だしが悪かったベッテルにフェルスタッペンが襲いかかり、レッドブルが3位を奪った。
程なくしてトロロッソ同士が接触し、カルロス・サインツJr.がはじき出されてリタイア。これで2周目から4周目までセーフティーカーが出た。5周目に再開すると、1位ハミルトン、2位ライコネン、3位フェルスタッペン、4位ベッテル、5位ヒュルケンベルグという順番に。9番手スタートのボッタスはスタートで7位、再スタート後はオコンを抜き6位、そしてヒュルケンベルグをかわし、早々に5位まで上がった。
10周を過ぎ、先頭のハミルトンは2位ライコネンを3秒以上リードしてレースをコントロールしていた。その後方、3位フェルスタッペンは前の2台についていけず、やがて4位ベッテルと交戦することになる。13周目になるとレッドブルとフェラーリは横並びとなりながら丁々発止とやりあったものの、しかし順位は変わらなかった。
フェルスタッペンを抜きあぐねていたベッテルは、18周してピットに飛び込み、スーパーソフトタイヤからソフトに履き替えコースに戻った。翌周にフェルスタッペンがソフトタイヤに交換するが、レッドブルはピット作業に若干手間取り、コースに復帰するとハイペースで飛ばしていたベッテルに先を越されてしまった。
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不運に見舞われたフェラーリ、完勝のハミルトン
25周目に2位ライコネンがようやくピットへ入り、続いてトップのハミルトンもソフトに換装。この時点で1位ハミルトン、2位ボッタスとメルセデスが1-2となるものの、まだピットストップを行っていないボッタスはスタートタイヤにソフトを選択しており、ファーストスティントを32周目まで引っ張ることになった。
ライバルより速いスーパーソフトを装着したボッタスのメルセデスは、2位ライコネン、3位ベッテルに次ぐ4位から表彰台を目指し猛追を開始。40周を過ぎてベッテルを射程内にとらえ、42周目にオーバーテイクを仕掛けたが、ここではベッテルがタイヤスモークをあげて行く手を阻んだ。しかし翌周になるとフェラーリのタイヤに力は残っておらず、ボッタスがやすやすと3位の座を奪った。
余勢を駆って2位ライコネンに照準を合わせたボッタスは、ファステストラップを更新し飛ばし続けた。49周目、目の前まで迫っていたライコネンの左フロントタイヤが突如壊れ、フェラーリは緊急ピットイン。ボッタスは労せずして2位の座を手にし、ライコネンは3位でゴールを迎えることになった。フェラーリの不運は続き、残り2周の時点でベッテルの左フロントタイヤも音を上げてパンク、4位から7位へと後退した。
このレース、ハミルトンは誰からも脅かされずに完勝を遂げた。そして9番手スタートのハンディをはねのけたボッタスは2位でゴールした。メルセデスの速さと強さが際立った一方で、フェラーリはそのいずれをも欠き、しまいには不運に足を引っ張られた。
そして開幕戦以来ポイントリーダーの座を守ってきたベッテルは、ハミルトンにわずか1点差まで迫られた。しかも、全20戦の2017年シーズンも半分を消化したところで、当初は互角の戦いを繰り広げていたメルセデスとフェラーリの間に、決して小さくはないギャップができつつある。
夏休み前の最後のレース、第11戦ハンガリーGPは、7月30日に決勝が行われる。
(文=bg)