「クラウン」がニュルで走行テスト!?
トヨタが東京ショーに出展する「クラウン コンセプト」とは?
2017.10.11
デイリーコラム
拡大 |
トヨタが2017年10月4日に配布したプレスリリース、その冒頭部分をまずはお読みいただきたい。これが何のクルマのものなのか、一読してお分かりになるだろうか? 「クラウン」に何が起こったのか。
拡大 |
その“特徴”はまるでスポーツカー
「Fun to Drive」を突き詰めた革新的な走行性能
将来のモビリティ社会においてもクルマを操る楽しさをお客様に提案するため、TNGAに基づきプラットフォームを一新するなどクルマをゼロから開発するとともに、ドイツのニュルブルクリンクでの走行テストを実施。意のままに操れるハンドリング性能に加え、低速域から高速域かつスムーズな路面から荒れた路面など、あらゆる状況において目線のぶれない圧倒的な走行安定性を実現し、ドライバーに“走る歓び”と“安心”を提供する
上記はあるニューモデルのプレスリリースの冒頭に記された“特徴”だが、これから想像する車種は? Fun to DriveやTNGAから、トヨタ/レクサスであるのは明らかだ。そしてニュルでの走行テストやハンドリング性能という言葉からは、走りに振ったスポーティーなモデルが連想される。だが、これは2017年10月25日に開幕する第45回東京モーターショー2017に出展される「クラウン コンセプト」のリリースに記された文章なのである。これを読んで、「美しい日本のクラウン」や「いつかはクラウン」といったキャッチコピーを掲げた、伝統を重んじる日本ならではの静的な高級車といったクラウンのイメージは、完全に過去のものとなったことを痛感させられた。
14代目となる現行クラウンが登場した際も、大胆な変貌ぶり、特に「アスリート」の顔つきに驚かされたが、その現行モデルの人気・評価が上々だったことから、トヨタは自らの方向性に自信を深め、一段と改革を進めたのだろう。現行「プリウス」や「カムリ」を筆頭として、近年のトヨタはアグレッシブな攻めの姿勢を見せているが、次期クラウンにもその勢いが及んだわけである。
公表されたクラウン コンセプトの姿は、フロントとサイドビューである。このうちサイドビューだけを見せられたら、筆者は即座にクラウンとはわからなかっただろう。よく見ればヘッドライトとフロントグリルの側面、そしてテールライトの形状に現行クラウンの面影が認められる。だが6ライトウィンドウを備えた4ドアクーペ風のプロポーションは、これまでのクラウンとは一線を画している。
「伝統は革新の連続」を地で行くその歴史
近々正式発表される新型「レクサスLS」も6ライトを採用しているが、クラウンからもセダン然とした太いCピラーが失われた衝撃は、個人的には非常に大きい。見ようによっては、テールゲートを備えたリフトバック(かつてのトヨタのテールゲート付きモデルの呼称)に思えるところも、驚きを増幅させる。さすがにそれはないだろうが。
フロントグリルにある“RS”のエンブレムも気になる。クラウンの“RS”といえば、1955年に誕生した初代の初期型(スタンダード)の型式名だが、こちらのRSは“レーシング・スポーツ”あるいはその類いを意味するグレード名であろう。これまでクラウンには存在しなかった名称であり、かつてないほど走りに振ったモデルであろうことが推測される。
そんなクラウン コンセプトだが、「やっぱりクラウンなんだなあ」と思わせたのは、全幅を現行モデルと同じ1800mmに抑えていること。現行モデルの発表会で「日本国内での使用環境を考慮して……」という説明を聞いた覚えがあるのだが、その点はブレていないのである。
ちなみに現行クラウンといえば、デビュー時のキャッチフレーズは“Re Born”。広報資料には「クラウンはどの時代にも常に『革新』へと挑戦してきたクルマ」と記されていた。言われてみればたしかにそのとおりで、そもそも他社が外国メーカーと技術提携を結ぶなか、純国産にこだわったトヨタが独力で初代クラウンを開発したのは、その後の日本の自動車産業の方向性を左右するほどのチャレンジだったのだ。
その後、歴代のクラウンが先陣を切って採用した技術や開拓したマーケットも、実は少なくない。クラウンの歴史は、「伝統は革新の連続」という言い回しを地で行ったともいえるのだ。そう考えると、クラウン コンセプトの変身も決して驚くべきことではなく、クラウン本来の姿勢ではないかとも思えてくるのである。
1955年の誕生以来、積み重ねてきた伝統に加え、将来のモビリティー社会において求められる革新性を融合し、「走行性能の追求」と「コネクティッド技術の進化」の両輪で開発した次世代のクラウン、とうたわれたクラウン コンセプト。「TOYOTAが、世の中を変えるためにつくったクルマです。」という主張は、果たして世間に受け入れられるだろうか。
(文=沼田 亨/編集=藤沢 勝)
拡大 |

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る 2025.12.11 マツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。
-
業界を揺るがした2025年のホットワード 「トランプ関税」で国産自動車メーカーはどうなった? 2025.12.10 2025年の自動車業界を震え上がらせたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領肝いりのいわゆる「トランプ関税」だ。年の瀬ということで、業界に与えた影響を清水草一が振り返ります。
-
あのステランティスもNACS規格を採用! 日本のBEV充電はこの先どうなる? 2025.12.8 ステランティスが「2027年から日本で販売する電気自動車の一部をNACS規格の急速充電器に対応できるようにする」と宣言。それでCHAdeMO規格の普及も進む国内の充電環境には、どんな変化が生じるだろうか。識者がリポートする。
-
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット― 2025.12.5 ハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。



