第63回:謎の快音マフラーふたたび(その2)
2017.10.17 カーマニア人間国宝への道東久留米のどくだみ工房へ
「清水さん何やってんですか! 東久留米駅の写真なんか撮って! そんなことしてる人、生まれて初めて見ましたよ!」
迎えに来てくれていた岡田ピーが私を責めた。私としては東久留米の発展に猛烈に驚愕(きょうがく)&感動しての行動だったが、地元民には奇異に見えたようだ。
駅から数分。岡田ピーの激安オペル(確か18万円)は、キダスペシャルのどくだみ工房に到着した。
シャッターを開けると、そこには、やけに前のめりになった赤い玉号が鎮座ましましていた。
そーか、岡田ピーよ、こうして赤い玉号をずっと室内に置いといてくれたんだね。これなら東久留米を大豪雨が襲った際も、心配する必要なかったなァ!
私「で、マフラーのデキはどうなの?」
岡田ピー「……それですが、実は自分ではいいのか悪いのか、訳わかんなくなっちゃいまして、先週尾上メカのところまで行って、聴いてもらいました」
私「尾上ちゃんは何て?」
岡田ピー「これならいいんじゃない、とお褒めいただきました!」
一流マフラー職人、岡田ピー
それは、確かに素晴らしいデキだった。
「ダラララララ~~~~」という、私好みのワイルドなビートを奏でながら、以前のMSレーシングより若干エレガントであり、かつ高回転域での「カアァァァァーン!」という高音の伸びは上。しかもバルブ切り替え付き! つまりサイレントモードにすれば、夜の住宅街でもまぁOKという社会性も持っている。
私「岡田ピー、これは素晴らしいよ!」
岡田ピー「ありがとうございます!」
私「これ、どうやって設計したの?」
岡田ピー「いや~、頭ン中で『こうこうこうして、こうやってみよーかな』って考えまして、エイヤで作って装着してみたら、こんな感じでした」
私「えっ! つまりテキトーに作ったら一発でコレだったわけ?」
岡田ピー「清水さんも人聞きが悪いな~。テキトーじゃないですよ! 一生懸命作ったんです!」
私「でもテキトーに作ったらいい音がしたんでしょ」
岡田ピー「ええ、まぁ」
私は感動した。まるで喜多師匠そのまんまじゃないか!
あの岡田ピーが、いつの間にか一流のマフラー職人になっていた……。
道具は喜多師匠から譲り受けた超年代物(推定40年経過)で、設計も師匠譲りの脳内妄想、それをマジックで手書きしてブッタ切って溶接するという、運慶・快慶並みの豪放磊落(らいらく)さ。そんなんでコレを一発でものにするとは!
キダスペシャルも安泰だ
正直言って、あのMSレーシング以上のマフラーは無理じゃないかと思っていた。というのも、マフラーサウンドには人それぞれ好みがあるからだ。
フェラーリのV8は、超絶滑らかな12気筒に比べると、もともとワイルドな回転フィールを持っているが、私はアクセルオンで多少バラついたり、アクセルオフで「パパパパパン!」とアフターファイアー音がするのが大好きで、その点MSのマフラーは100点だった。
が、「328」用の新型キダスペシャルは、そんな私の好みをしっかり実現した上で、高回転でのサウンドの伸び+サイレントモードでの社会性という、+αを実現していたのだ。
私「これは150点だよ、岡田ピー!」
岡田ピー「マジすか!? そんなに言っちゃって大丈夫ですか!? ありがとうございます!」
私はマフラーのデキもさることながら、岡田ピーが東久留米で独立後、初めて注文したブツが、こんなにもステキな仕上がりだったことがとってもうれしかった。自分にとって超絶思い入れ深い“キダスペシャル”というブランドは、しっかり次世代にバトンタッチされたのだ!
私「岡田ピーありがとう! じゃ帰るね!」
岡田ピー「お気をつけて!」
その時私の目に留まったは、エンジン下からボタボタと垂れている液体だった。
私「あれ? なんか漏れてる。結構な勢いで」
岡田ピー「あーーー!! どうしてこういうタイミングで~!? これはキダスペシャルとは関係ないですよーーー!」
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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