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メルセデス・ベンツE220d 4MATICオールテレイン(4WD/9AT)

驚きのフットワーク 2017.11.29 試乗記 佐野 弘宗 ステーションワゴンの実用性とSUVらしい姿かたちを特徴とする、「メルセデス・ベンツEクラス」の派生モデルに試乗。他ブランドにも見られるお手軽なクロスオーバーかと思いきや、その走りは、驚くほど素晴らしいものだった。

高価だけれどリーズナブル

あの「最善か無か」という社是に心酔する伝統的なファンには「メルセデスよ、お前もか?」といわれちゃいそうなメルセデスの登場である。

「オールテレイン」なる新商品名が与えられたクロスオーバーワゴンの成り立ちは、見たまんまだ。「スバル・レガシィグランドワゴン」や「ボルボXC70」、あるいは「アウディ・オールロードクワトロ」などが1990年代半ばに先べんをつけた“古くて新しい”手法を、最新の「Eクラス ステーションワゴン」に適用しただけである。あえて口悪くいえば「ステーションワゴンの車高をカサ上げしたナンチャッテSUV」ということだ。

その861万円という本体価格は1.95リッター4気筒ディーゼルを積む「E220d」のステーションワゴン系列ではもっとも高価となる。ただし、オールテレインはE220dでは唯一4WDのパワートレインをもたされて、電子制御エアスプリングと可変ダンパーを組み合わせた「エアボディーコントロール(ABC)サスペンション」も標準装備する。

オールテレイン以外のEクラスでABCサスペンションを備えるのはノーマル系最上級となる「E400」と、さらにその上の「AMG」しかない。さらにいえば、シートも電動式の本革で、前後のシートヒーターまで標準でつく。

たとえば、4WDでもなくABCサスペンションもつかない「E220dステーションワゴン アバンギャルド スポーツ(本革仕様車)」の839万円を妥当とするならば、これだけ凝ったハードウエアと専用SUV加飾をそこかしこにあしらいながらも、22万円高にすぎない(?)オールテレインの価格は十二分にリーズナブルといっていいと思う。

2016年9月のパリモーターショーでデビューした「メルセデス・ベンツE220d 4MATICオールテレイン」。日本では2017年9月に発売された。
2016年9月のパリモーターショーでデビューした「メルセデス・ベンツE220d 4MATICオールテレイン」。日本では2017年9月に発売された。拡大
本革仕立てのシート。表皮の色はブラック(写真)のほか、ナッツブラウンやマキアートベージュが選べる。
本革仕立てのシート。表皮の色はブラック(写真)のほか、ナッツブラウンやマキアートベージュが選べる。拡大
水平基調のデザインが特徴的な、コックピット周辺部。インストゥルメントパネルは、ブラッシュドアルミニウムで飾られる。
水平基調のデザインが特徴的な、コックピット周辺部。インストゥルメントパネルは、ブラッシュドアルミニウムで飾られる。拡大
リアバンパーの下部には、シルバークロームのアンダーガードを装備。タフなイメージが強調される。
リアバンパーの下部には、シルバークロームのアンダーガードを装備。タフなイメージが強調される。拡大
メルセデス・ベンツ Eクラス オールテレイン の中古車

足まわりの出来に感心

オールテレインの最低地上高は普通のステーションワゴンの25mm増しで、そのうち15mm分はSUV的なビジュアルのキモとなるタイヤ径拡大によるものだ。

パワートレインやサスペンション、パワステ、横滑り防止装置(ESP)などを統合した走行モード切り替えはデフォルトで4種類あるが、ほかのEクラスにある「スポーツ+」モードが省略されるかわりに「オールテレイン」モードが用意される。オールテレインモードは車速35km/h以下限定で、車高がさらに20mm上がる悪路&段差専用である。

さらに5つ目のモードとして個別のセッティングを自由に組み合わせられる「インディビジュアル」モードがあるのだが、パワートレインとESPの個別設定にはひそかに「スポーツ+」モードが残されており、それはこの個別設定モードで選ぶことができる。

今回は基本的にオンロードでの試乗しかできなかったが、乗り心地と操縦性はひと言でいって、素晴らしい。ハイトの高いタイヤと潤沢なサスストロークを生かしたライド感は、タイヤが転がりだした瞬間に、思わずホッコリする快適さだ。まあ、普通のEクラスと直接比較すれば、地上高が増大した分だけの腰高テイストがなくはない。しかし、一般公道を現実的なペースで走るかぎり、車高カサ上げのメリットをいろんな場面で実感したが、デメリットはほとんど感じなかった。

低速でもっとも快感なのはもちろんサスペンションを最柔の「コンフォート」にしたときだが、客観的に見れば、少しばかり上下動が大きめで、ステアリングに対する反応もちょっと遅れる。市街地ではタメ息が出るほど快適でも、つづら折りの道で先を急ぐようなケースでは、歯がゆく思うこともありそうだ。

ブラックのホイールアーチカバーが目を引く「E220d 4MATICオールテレイン」のサイドビュー。最低地上高は、ノーマルの「Eクラス」よりも25mm高くなっている。
ブラックのホイールアーチカバーが目を引く「E220d 4MATICオールテレイン」のサイドビュー。最低地上高は、ノーマルの「Eクラス」よりも25mm高くなっている。拡大
「オールテレインモード」を選択すると、車高が20mm上がり、ESPは悪路走行に適したセッティングに変化する。
「オールテレインモード」を選択すると、車高が20mm上がり、ESPは悪路走行に適したセッティングに変化する。拡大
後席の様子。背もたれ部分は40:20:40の分割可倒式となっている。
後席の様子。背もたれ部分は40:20:40の分割可倒式となっている。拡大
「E220d 4MATICオールテレイン」では、5つの走行モード(エコ/コンフォート/スポーツ/インディビジュアル/オールテレイン)が用意される。
「E220d 4MATICオールテレイン」では、5つの走行モード(エコ/コンフォート/スポーツ/インディビジュアル/オールテレイン)が用意される。拡大

インディビジュアルモードで走りを満喫

しかし、サスペンションを1段階引き締めた「スポーツ」モードにすると、オールテレインの足取りは、まさにドンピシャにして絶妙。文句のつけどころがなくなる。スポーツといっても競技車的なゴリゴリ味になるわけではなく、一般的乗用車としては、それでも比較的“柔らかい”といえるレベルである。

スポーツモードで走るオールテレインは、車高を生かした豊潤なストローク感をいかんなく披露しつつも、コンフォートモードにあったオツリめいた上下動がピタリと解消される。パワステの手応えもスムーズそのもので、絶えずクリアな接地感を伝えてくれる。

それでも普通のステーションワゴンと比較すれば、上屋の前後左右の動きをわずかに感じるものの、限界は低くない。なにせ足もとは完全なサマータイヤで、しかも高級スポーツ銘柄(試乗車は「ブリヂストン・ポテンザS001」)だから絶対的なグリップ性能は高い。さらに、フルタイム4WDゆえに、ディーゼルゆえの大トルクでも、とりあえずアクセルを踏んでいれば姿勢を大きく乱すこともない。

個別設定モードで個別のセッティングでいろいろイジくってみると、個人的になかなかオツな味わいと思ったのは、シャシーやパワステを「スポーツ」にしたうえで、パワートレインとESPを「スポーツ+」にしたときだった。

オールテレインは基本的に完全なシャシーファスターカーなので、ドライ舗装路ではなんの事件も起こらないタイプだが、パワートレインをスポーツ+にすると9ATの変速は明らかにキレを増して小気味よくなる。さらにESPはスポーツ+で介入が少し遅れるので、そこで積極的に踏んでいくと、前輪が引っ張る力より後輪の蹴りがわずかに上回る瞬間がある。そのときの素直な回頭性はちょっと気持ちいいのだ。

「E220d 4MATICオールテレイン」は、エアサスペンションと連続可変ダンパーを併用する「エアボディーコントロールサスペンション」を装備。快適性と俊敏性を高次元で実現している。
「E220d 4MATICオールテレイン」は、エアサスペンションと連続可変ダンパーを併用する「エアボディーコントロールサスペンション」を装備。快適性と俊敏性を高次元で実現している。拡大
センターコンソールに備わるインフォテインメントシステムの操作デバイス。周辺には、走行モードのセレクターがレイアウトされる。
センターコンソールに備わるインフォテインメントシステムの操作デバイス。周辺には、走行モードのセレクターがレイアウトされる。拡大
2リッター直4ディーゼルターボは、1600rpmの低回転域から400Nm(40.8kgm)の最大トルクを発生させる。
2リッター直4ディーゼルターボは、1600rpmの低回転域から400Nm(40.8kgm)の最大トルクを発生させる。拡大
19インチの10スポークアルミホイール。テスト車には、ブリヂストンの「ポテンザS001」タイヤが組み合わされていた。
19インチの10スポークアルミホイール。テスト車には、ブリヂストンの「ポテンザS001」タイヤが組み合わされていた。拡大

Eクラスの中でも優等生

それにしても、このオールテレインのステキすぎる乗り心地や操縦性には、ABCサスペンションの効能が絶大と思われる。同サスペンションは減衰力を連続可変する電子制御ダンパーに加えて、バネレートも可変式なのが最大のキモといっていい。

減衰力を変えるだけでも操縦性やロール特性、限界特性をかなりの振れ幅で変えられるのは、各社の電子制御可変ダンパー車を見れば理解できる。しかし、最終的なロール量や限界値を決定するのはあくまでバネであり、極論すれば、ひとつのバネについて最適な減衰力のポイントはひとつしかない。そして、重心が高いほど、路面や速度に応じたバネや減衰力のスイートスポットもせまくなる。複数のバネレートと減衰力を使い分けられるABCサスペンションでなければ、オールテレインもここまで素晴らしいフットワークにはならなかったと思う。

オールテレインの商品企画はハッキリいってお手軽そのものだ。言葉は悪いが、もはや「何番煎じだよ?」というツッコミすら、する気にもならないほどに手あかのついた手法である。

逆にいうと、オールテレインはそれだけ技術的なお手本も多い。さらには現行Eクラスのデキの良さや「GLE」のノウハウも考えれば、ABCサスペンションなどという凝ったメカニズムを使わずとも、もっといえば2WDでも、それなりに悪くないクルマができたと思われる。

まあ、将来的にそういう“廉価版オールテレイン”が出てくる可能性もなくはないが、こういうお手軽商品にも(というか、こういう商品だからこそ?)技術力をフル投入して、いきなり“ベストEクラス”とでもいえそうなモノにしちゃうところが、現代的な解釈でいうところの「最善か無か」なのだろうか。

(文=佐野弘宗/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)

今回は、高速道路が6割、市街地および山岳路は4割の比率で約630kmを走行。満タン法で14.7km/リッター、車載の燃費計で15.6km/リッターを記録した。JC08モードの燃費値は、16.8km/リッター。
今回は、高速道路が6割、市街地および山岳路は4割の比率で約630kmを走行。満タン法で14.7km/リッター、車載の燃費計で15.6km/リッターを記録した。JC08モードの燃費値は、16.8km/リッター。拡大
メーターパネルは液晶表示。イメージは「プログレッシブ」(写真)のほか、2眼タイプの「クラシック」や「スポーティー」が選べる。
メーターパネルは液晶表示。イメージは「プログレッシブ」(写真)のほか、2眼タイプの「クラシック」や「スポーティー」が選べる。拡大
ステアリングスイッチには、タッチ&スワイプ操作が可能な、センサー式の操作デバイスが採用されている。
ステアリングスイッチには、タッチ&スワイプ操作が可能な、センサー式の操作デバイスが採用されている。拡大
「E220d 4MATICオールテレイン」は、コーナリングライトやポジショニングライトが含まれる「マルチビームLEDヘッドライト」を装備する。
「E220d 4MATICオールテレイン」は、コーナリングライトやポジショニングライトが含まれる「マルチビームLEDヘッドライト」を装備する。拡大
荷室の容量は640リッター。後席を前方に倒すことで、最大1820リッターにまで拡大できる。
荷室の容量は640リッター。後席を前方に倒すことで、最大1820リッターにまで拡大できる。拡大

テスト車のデータ

メルセデス・ベンツE220d 4MATICオールテレイン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1860×1495mm
ホイールベース:2940mm
車重:1980kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:194ps(143kW)/3800rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y/(後)245/45R19 102Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:16.8km/リッター(JC08モード)
価格:861万円/テスト車=928万8800円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(19万3000円)/レザーエクスクルーシブパッケージ<パノラミックスライディングルーフ+前席シートベンチレーター+ヘッドアップディスプレイ>(39万4000円)/フロアマット プレミアム(9万1800円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1543km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:631.9km
使用燃料:43.0リッター(軽油)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/15.6km/リッター(車載燃費計計測値)
 

メルセデス・ベンツE220d 4MATICオールテレイン
メルセデス・ベンツE220d 4MATICオールテレイン拡大
ドライバーの前方には、12.3インチのディスプレイが2つ並ぶ。右のものはメーターパネル、左は主にインフォテインメントシステム用となっている。
ドライバーの前方には、12.3インチのディスプレイが2つ並ぶ。右のものはメーターパネル、左は主にインフォテインメントシステム用となっている。拡大
テスト車に装着されていたパノラミックスライディングルーフ。セットオプション「レザーエクスクルーシブパッケージ」に含まれる。
テスト車に装着されていたパノラミックスライディングルーフ。セットオプション「レザーエクスクルーシブパッケージ」に含まれる。拡大
荷室の床下には、予備の収納スペースが確保される。庫内には、パンク修理キットや折りたたみ式カーゴが備わる。
荷室の床下には、予備の収納スペースが確保される。庫内には、パンク修理キットや折りたたみ式カーゴが備わる。拡大
リアコンビランプには、細かな粒子がキラキラと輝くように見えるデザイン手法が採用されている。
リアコンビランプには、細かな粒子がキラキラと輝くように見えるデザイン手法が採用されている。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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