「トヨタGR」に「日産AUTECH」
自動車メーカーがスポーツサブブランドを強化する狙いとは?
2017.11.29
デイリーコラム
日産が新たにAUTECHを投入
国内自動車メーカーが、スポーティーなサブブランドの強化に積極的だ。最新のニュースでは、2017年11月24日に日産自動車が新たにプレミアムスポーティーを志向する「AUTECH(オーテック)」の投入を発表。AUTECHは、同じくオーテックジャパンが手がける「NISMO(ニスモ)」ロードカーと走りの性能を共有しながら、カスタムカーづくりで蓄積してきた職人のこだわりを注入した、プレミアムでスポーティーなモデルを展開していくという。同日の発表では、その第1弾が「セレナAUTECH」であることも明らかになった。“姉妹車”にあたる「セレナNISMO」は、ロングツアラーを意識した大人の乗り味を持つモデルだったので、AUTECHモデルがどのような仕上がりを見せてくるのか、大いに注目だ。さらにNISMOのロードカー展開のさらなる拡大も予告されている。
他社に目を向けると、トヨタは、「G’s」改め、シリーズの拡大と強化を図ったサブブランド「GR」の展開をスタート。まだ車種は限られるものの、ホンダの「モデューロX」やスバルの「STI Sport」などもあり、こちらも順調な滑りだしを見せている。販売面から見ると、トヨタではGRの前身となるG’sシリーズの直近3年間の販売台数は、年平均1万9000台ほど。「スバル・レヴォーグ」は、STI Sportが全体の45.7%(2017年8月のマイナーチェンジモデル発売から同年9月3日までの受注台数における割合)を占めるほどなのだ。
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価値を見いだせば多少の価格差は容認する
これらに共通するのは、チューニングパーツを装着した車両を生産ライン上で完成、もしくは完成に近い形まで仕上げることで、パフォーマンスに対して、割安な価格を実現していることだ。標準車にも追加できるオプションを除くと、実質30万~40万円ほどの価格増に抑えられており、かなりコストパフォーマンスが高いのだ。このため、パワートレインなどのチューニング費用がかさむ部分は、ノーマルと同様。仮に手を加えたとしても吸排気系などの一部に限られているのもポイント。つまり日常領域で楽しめるスポーツモデルに仕上げられている。また車種設定も絶妙で、スポーツカーよりも、売れ筋であるコンパクトカーやSUV、ミニバンにあえて主軸を置いている。特に分かりやすいのはミニバンで、足まわりの変更やボディー補強により、ミニバンのやぼったい走りを覆す驚きの仕上がりを見せる。これはクルマ好きのパパママ需要を狙ったもので、ミニバンの利便性を享受しつつ、同時に自分の走る喜びを得たいという欲張りを両立させているのだ。つまり、現実的な価格と標準車との明確な差別化、そして、メーカーチューンならではの高い走行性能や装備などの付加価値と、3点が組み合わされているわけだ。
このように自動車メーカーが積極的にコンプリートカーを手がける背景には、国内における自動車の販売台数が減少傾向であることに加え、ユーザーの嗜好(しこう)の変化がある。メーカーとしては、これまでのように販売台数の増加が見込めない以上、車両単価を上げることが肝要だ。また、走る楽しさを提供することで、クルマへの関心を高めたいという狙いもある。さらに消費者傾向としても、昨今は価値を見いだせれば、多少の価格差を容認する傾向が強いという。実際にユーザーは、根っからのクルマ好きに限らず、スタイルが気に入って購入したという人も多いそうだ。特別感といえば、これまでは輸入車の領域であったが、多くの人が経済性を重視する今、トータルで買いやすく、しっかりと特別感も演出された国産ブランドのコンプリートカーが支持されているのだろう。こうした理由から、サブブランド展開の活性化はまだまだ続いていくと見られる。マツダや三菱、スズキなど、まだこの分野に進出していないメーカーの今後にも注目したい。
(文=大音安弘/編集=藤沢 勝)
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