単なるブームの産物なのか?
新型SUV「ランボルギーニ・ウルス」に思うこと
2018.02.16
デイリーコラム
流用はしてもオリジナル
思い起こせば、今から約6年前の2012年4月。中国・北京モーターショーで初披露されたSUVコンセプト「ウルス」の存在を知ったとき、「ついにランボルギーニもSUVブームの波に乗るのか」と、少々冷めた気持ちになったものだった。
エコカーブームが到来するとともに大排気量車が敬遠されるようになり、その流れからSUVも同時に縮小していくという話がまことしやかにささやかれたときもあった。しかしながら、厳しい寒波をはじめとする気候や危機感を覚えさせる世界情勢などが、結果的にSUVの追い風となった。2002年登場の「ポルシェ・カイエン」の成功に始まり、「BMW X6」や「レンジローバー スポーツ」など、これまでのSUVの概念を打ち破るモデルが続々と登場し、舞台は整った。その後を見ても、ベントレーの「ベンテイガ」を筆頭に、ジャガーの「Fペース」、マセラティの「レヴァンテ」など、これまでSUVとは無縁だったブランドからも積極的にSUVが送り出されてきた。ランボルギーニも単に時代の風に乗っただけなのだろうか?
もちろん、ウルスがフォルクスワーゲン グループのシナジーを最大限に活用して誕生したことは間違いない。グループ内には、大型SUVに使えるプラットフォームやエンジンが存在しているからだ。そこで筆者は、ウルスと他モデルとの共通性について、発表会のために来日した、ランボルギーニの研究開発部の取締役であるマウリツィオ・レッジャーニ氏に質問してみた。
彼はまず、ランボルギーニにとってどれだけエンジンが重要なのかを強調した上で、「ウルスのエンジンはブロックにまで手を加えたもので、ほぼオリジナルといえる」と回答。さらにプラットフォームについては、ベースとなるものがあることは認めながらも異なるとし、ウルスの独自性を示した。実際、ホイールベースは、グループ内の大型SUVの「ベントレー・ベンテイガ」が2995mm、「アウディQ7」が2994mmなのに対して、ウルスは3003mmである。
足まわりについては、ランボルギーニのフラッグシップスポーツカー「アヴェンタドールS」譲りの後輪操舵機構「リアホイールステアリング」を搭載。後輪に最大±3度の舵角を与えることで、俊敏性と走行安定性を向上させる。ブレーキ性能にも抜かりはなく、SUVながら市販車最大サイズのカーボンセラミックブレーキがおごられた。このブレーキシステムには事実上、フェードの心配がないという。その高性能ぶりは、SUVトップとなる303km/hという最高速度を知るだけで十分だろう。
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優等生な一面も
実車を見てしたたかに思えたのは、そのスタイリングだ。大型SUVながら、実用性を無視するかのように、大胆なクーペライクなスタイルにまとめられている。ルーフは後端に向かって大胆に落とし込まれ、サイドウィンドウのサイズもリア側はかなりコンパクトだ。車両の上半分だけみると、かなり“ランボルギーニしている”。
特にこれみよがしなのは、リアドアのアウターハンドルだ。美しいデザインに仕上げるなら、“ビルトインハンドル”などほかにも手法があったはず。それをあえて、無粋とも思えるリアフェンダーアーチに設けるとは。ただこのドアハンドルの存在は大きく、大きく膨らんだリアフェンダーのアクセントになっているのだから、いやはや……。
車内に収まってみれば、そこはまさにランボルギーニワールドだ。SUVとあって比較的広々としているが、フロントシートは着座位置を低めたスポーツタイプのものがおごられ、スポーツステアリングやフル液晶メーターパネルなコックピットの雰囲気は、ほかのランボに近い。センターコンソールのスイッチは、ドライブセレクトの「ANIMA(アニマ)」を発展させた「Tamburo(タンブーロ)」を備え、戦闘機のものをほうふつさせる好戦的なスタータースイッチも備わる。
しかしながら、絞り込んだスタイルの中でも居住性は良く、実用性もかなり高いというクレバーさも見せる。ランボにしては、意外と優等生な顔も持っているのだ。
ランボならではの作品
かつてランボルギーニは、「LM002」というラグジュアリーオフローダーを世に送り出した。もっとも、LM002はランボルギーニの中では決して成功作とは言えないだろう。もともと、軍用車として開発されながら、いわば外されたはしごを架け替えるかたちで市販車へと転身させた……つまり、本来とは異なる使命を背負わされたモデルだったのだから。
ウルスは、そのリベンジとも受け取れる。しかし実際は、ランボルギーニらしい反骨精神から生み出されたものと言えないだろうか。数々のSUVが登場したとはいえ、それらはいずれもSUVの本流から大きく外れたものはない。そのアンチテーゼがウルスにつながったと思えるのだ。
先に挙げた、特徴的なアイテムのTamburoには、6つのドライブモードが備わる。そのうち3つはANIMA譲りの「STRADA」「SPORT」「CORSA」で、そこに雪上モードの「NEVE」が加えられる。しかし、SUVにとって重要と思える残り2つ、オフロードモードの「TERRA」と砂地に対応する「SABBIA」は、なんとオプションなのである。この点に前述のメッセージ性を感じるのは、考えすぎだろうか……。
ランボルギーニは、スーパーカービジネスのために誕生したメーカーであり、これまであらゆるユーザーの要望に応えてきた。スーパーカービジネスも各社の拡大路線からわかるように、かつてのような少量生産では生き残りが厳しい時代となった。ウルスについて、ランボ自身も「仲間や家族とともに楽しめる初のモデルである」点や多用途性を高らかにうたっている。素直に受け取れば、昨今の世の流れに従っているようにも思える。だが、いつの時代もランボは、よそとは異なるアプローチで多くのファンを魅了してきた。これからもランボがランボであるための答えがウルスなのである。ランボ自身も、ウルスの販売をひたすら高めることよりも、今ある3モデルのバランス性を重視している。やはり看板は、V12エンジンとシザードアを持つアヴェンタドールなのである。
6年前に冷ややかだった私の気持ちもどこへやら。すっかりランボ・マジックにはまってしまったようだ。今はただ、この新しいランボルギーニの走りを肌で感じられるときが待ち遠しい。
(文と写真=大音安弘/編集=関 顕也)
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大音 安弘
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