第2回:実力検証! 「ボルボV40 T3」
注目すべきベストセラー 2018.04.12 ボルボV40 解体新書 ボルボのコンパクトハッチバック「V40」には、ユーザーのニーズを踏まえたさまざまなモデルがラインナップされている。今回はその中から、ガソリンエンジン搭載車の「T3モメンタム」をピックアップ。装備の内容や走りの質を検証した。いまなお強い存在感
ボルボのボトムを担う、CセグメントのプレミアムコンパクトがV40である。サイズ的に日本の道路事情に合っていて、今でも安定した売れ行きを誇っている。そんなボルボV40が日本に上陸したのは2013年2月。登場から5年が経過したが、毎年のようにアップデートを行っている。また、エンジンのラインナップも強化されているため、その魅力は色あせていない。それどころか、初期モデル以上に輝きを放っているのだ。
21世紀になって、ボルボはデザインやパッケージを一新しスポーティーな感覚を強めた。V40も例外ではなく、多くの人の目を引くスポーティーなルックスとなっている。2016年にはフロントマスクを中心に化粧直しを実施した。新世代ボルボのアイコンとなったT字型のトールハンマー(北欧神話の雷神が持つハンマー)をモチーフにしたLEDヘッドライトを採用し、これに櫛(くし)形グリルと新しいデザインのバンパーを組み合わせている。風格のある、凛々(りり)しい顔立ちだ。
ボルボ自慢の安全装備も抜かりはない。V40は全モデルに「インテリセーフ」と名付けられた先進安全・運転支援機能を、11以上も標準装備している。その筆頭が世界で最初に実用化した歩行者エアバッグだ。また、衝突回避・被害軽減自動ブレーキも、自動車だけでなく歩行者や自転車も検知できる、より安全なものを装備している。
急接近車両の警告機能や、バックするときに左右からクルマが来ると警告するクロストラフィックアラート、注意力の低下によるふらつきを警告するドライバーアラートコントロールなども、同クラスのライバルでは未設定かオプション扱いとなることが多いが、V40は廉価グレードから標準装備とした。夜間のドライブでは、アクティブハイビームが重宝する。充実した装備内容から、エントリーカーでも最上の安全性を願う、ボルボのエンジニアの良心が感じられる。
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「何でもある」がうれしい
パワートレインは、モジュールコンセプトで設計された新世代の直列4気筒DOHCで、「Drive-E」を名乗っている。ひとつのユニットでガソリンとディーゼルの両エンジンを生み出せるように設計しているのが特徴だ。筒内直接噴射のターボを基本に、ディーゼルエンジンを含め、4種類のパワーユニットを設定している。その中から今回試乗に引っ張り出したのは、販売の主力となっている排気量1497ccの直列4気筒DOHC直噴ターボ搭載車だ。
V40の1.5リッターモデルにはエントリーグレードの「T2」もあるが、今回選んだのは、より出力が高く装備の充実した「T3モメンタム」である。T2のパワースペックは122ps/220Nm。これに対しT3は152ps/250Nmと、さらに余裕がある。トランスミッションはスポーツモード付き6段ATを組み合わせた。
ドアを開けてインテリアを見回す。試乗したモメンタムのシート地は、チェック柄とホワイトが清楚(せいそ)な印象のT-Tec/テキスタイルコンビネーションだ。フロントシートは大ぶりで、包まれるようなフィット感が心地よい。ステアリングの調整機構に加えてパワーシートも標準装備で、最適なドライビングポジションにセットすることができる。フロントピラーは思いのほか傾斜が強いが、前方だけでなく側方の視認性も悪くなかった。
リアシートにも座ってみる。身長170cmのドライバーが最適なポジションをとった後ろでも膝元に握りこぶし1個半の余裕があった。頭上はちょっと窮屈だが、握りこぶし1個分の空間は残されている。シート下への足入れ性は悪くないのだが、降りるときはシートレールが邪魔に感じられることもあった。とはいうものの、シートの座り心地はよく、センターアームレストも備わっているので、ロングドライブでの疲れは少ないだろう。
そんなリアシートでは、快適にオーディオに耳を傾けることができた。上級グレードの「インスクリプション」と「R-DESIGN」には、名門harman/kardonのプレミアムオーディオシステムが標準装備されている(モメンタムにはオプション設定)。10個のスピーカーと先進のサウンドエンハンスメントソフトウエアによって、前席だけでなく後席でも最高の音質でリスニング体験できるから、こだわり派には魅力的だ。ISO-FIXアタッチメントの位置も探りやすく、チャイルドシートも装着しやすい。これも子育てファミリーにはうれしいことだろう。
ラゲッジスペースの形状は浅めだが、満足できる広さ。二つ折りに立てることで小さめの荷物を安定させたりバッグをつり下げたりできるようになるフロアボードは、他ブランドでは見られないユニークな装備だ。
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安全装備は制御も自然
1.5リッターの直噴ターボエンジンは軽快なパワーフィーリング。自然吸気エンジンのようにパワーとトルクが自然に立ち上がり、パーシャル領域からの加速もそつなくこなせる。V40 T3は、混んだ街中でもフレキシブルな走りを披露してくれる。ただ、過給機が生きてくる1000rpmより少し上までの領域では、排気量なりのパワー感だ。このゾーンを超えたところでパンチが効いた走りが楽しめる。
最近のボルボ車は省燃費走行モード「ECO+」を装備し、減速して止まる寸前にエンジンを自動停止してアイドリングストップを行うのだが、その作動は他社のものに比べて上手だ。再始動のときはちょっとぎこちなさを感じることもあるが、違和感を抱くほどではない。アイドリングストップの効果は絶大で、今回も、街中で10km/リッターを超える燃費を記録した。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアはマルチリンクだ。タイヤは205/50R17サイズの「ピレリ・チントゥラートP7」を履いている。今回の試乗車は新車だったためか、ちょっと足の動きが渋かった。特にリアはマルチリンクならではの硬さを感じる場面があったが、初期モデルより段差や目地を通過したときのいなし方がうまくなっている。もう少し走り込めば、さらに動きがよくなるだろう。
高速道路は、V40 T3の得意なステージだ。試乗した日は吹き流しが真横になるくらい風が強かったのだが、より上級なクラスのクルマのように安定していて、ふらつきが少ない。たとえ風に流されたときでもたやすく修正できる。エンジンも軽やかで、アクセルを踏み込むと間髪を入れず気持ちいい加速を見せてくれる。全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールも使い勝手がいい。ビギナーでも自然な感覚で操作できる。前走車が加速したときの追従やレーンチェンジして入り込まれたときの制御も上手だった。
強風のドライブでもうひとつ重宝したのがレーンキーピングエイドだ。走行車線を逸脱しそうになると、車線内に止まるようにステアリングを穏やかに自動補正してくれる。その制御もおせっかいと感じさせない、自然な操舵感覚だ。後方や側方などの死角にほかの車両が入り接近してきたときにドアミラーに内蔵したインジケーターが点灯するブラインドスポットインフォメーションシステムも、頼もしい助っ人である。慣れてしまうと、未採用のクルマには乗れなくなる。
Dレンジでの100km/h巡航時は約1800rpm。このスピード域ではキャビンは静かに保たれ、快適である。直噴エンジン特有の燃焼音も耳障りではない。遮音が行き届いていることに加え、ドアミラーなどからの風切り音も上手に抑えられていた。燃費もいい。流れに乗って走ったが、その区間では車載の燃費計で18.7km/リッターをマークした。
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驚きのコストパフォーマンス
ワインディングロードでは水を得た魚のように軽やかな身のこなしを披露した。熟成が進んだためか、ボディー剛性は初期モデルより高いし、足の動きもよくなっている。ボディーまわりの小さな振動を封じ、ロールスピードも上手に抑え込んだ。路面に吸いついたようにボディーが沈み込み、4つのタイヤがしっかりと路面を捉える。かつてよりもバランス感覚がよくなって、さえたフットワークを見せるから、ステアリングを握るのが楽しい。
パワーステアリングはやや重めの設定なのだが、タイトコーナーでも舵の入りがよく、狙ったラインに乗せやすい。突起の乗り越えのときに多少のショックを感じるが、17インチタイヤを上手に履きこなしている。ブレーキング時の前のめり感は小さく、リアの抑えが利いている。制動力が立ち上がるタイミング、停止寸前の踏力のコントロール性も合格点に達している。欲を言えば、制動のフィーリングはもう1ランク引き上げたいところだ。
エンジンは自然吸気の2.5リッタークラスと同等の分厚いトルクを発生し、ドライバビリティーも優れている。6000rpmまで無理なく実用になり、切れ味も鋭い。アイシン・エィ・ダブリュ製の電子制御6段ATは応答レスポンスが鋭く、ワインディングロードでも滑らかにつながる。パドルシフトも速度コントロールとスポーツドライビングに威力を発揮した。指針のそばだけを表示しそれ以外をぼかす、個性的な液晶メーターも見やすい。
Cセグメントのプレミアムコンパクトは激選区だ。ドイツ御三家だけでなく、日本勢にも「アクセラ」や「インプレッサ」、「シビック」など、できのいいクルマが増えている。そんな中、ジャストサイズで使い勝手のいいボルボV40は円熟の時期を迎えた。
動力性能はドイツ勢と互角以上の実力で、十分な余裕がある。それら1.6リッター直4のターボエンジン搭載車と比べても負けていない。燃費も1.5リッターの3気筒ターボと比べて遜色ない値を記録した。ハンドリングもスポーティーだ。MINIのようなダイレクト感は期待できないが、ステアリングを握って楽しいクルマである。しかもパッセンジャーにもやさしい。走りだけでなく、安全性能も上級の500万円クラスのクルマの実力だ。V40の先進安全・運転支援装備であるインテリセーフは、同様の安全神話を持つ現行型の「メルセデス・ベンツAクラス」や「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の一歩上をいく。
V40 T3モメンタムは、トータルで考えると、極めてコストパフォーマンスの高いファミリーカーといえるだろう。前述の充実した先進安全装備に加え、運転席パワーシートやナビゲーションシステム、ETC 2.0対応車載器、LEDヘッドライト、アルミホイールなど、魅力的な装備を標準としている。384万円の車両価格で、これほど装備が充実している輸入車は少ない。もう一度、注目してみる価値のあるプレミアムコンパクトだ。
(文=片岡英明/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボV40 T3モメンタム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:152ps(112kW)/5000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1700-4000rpm
タイヤ:(前)205/50R17 93W/(後)205/50R17 93W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:384万円/テスト車=395万4000円
オプション装備:PCC(パーソナルカーコミュニケーター)キーレスドライブ(3万1000円)/メタリックペイント(8万3000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:966km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:266.0km
使用燃料:29.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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