シンプルに、よりシンプルに
新型「CLS」に見るこれからの“メルセデスデザイン”
2018.07.13
デイリーコラム
“官能的純粋”とメルセデス特有のプロポーション
プレミアムセグメントにおいて4ドアクーペの市場を切り開いた「メルセデス・ベンツCLS」。その3代目が日本でもデビューした。相変わらず伸びやかなサイドシルエットを持つCLSだが、実はこのモデルから“メルセデスデザイン”は新たな一歩を踏み出しているのだ。
昨今のメルセデスが掲げるデザイン哲学は“Sensual Purity(官能的純粋)”。恋に落ちるような、心に響くホット。そして、これまで見たこともない理性的なもの。この2つを両立させるという哲学だ。
もうひとつ、例えばフロントオーバーハングは短く、フロントホイールからAピラーの付け根までの距離(ダッシュ・トゥ・アクスルという)は長くとり、キャビンを相対的に後方に配置するFR独特のプロポーションは不変とされている。ダイムラーにおいて乗用車エクステリアデザインを統括するロバート・レズニック氏は、これを「メルセデス特有のプロポーションだ」という。それらを踏まえ、ボディーサイズやキャラクターに合わせ、面構成やディテール、またドロッピングラインやウエッジラインを使い分けて、スポーティーさやエレガンス、高級感を醸し出していたのだ。
しかし新型CLSを見ると、クルマを特徴づける要素であるはずのキャラクターラインが消えている。レズニック氏はこれを「Sensual Purity 1.0から2.0への進化」という。そのスタートが新型CLSなのだ。
レズニック氏はここ最近のメルセデスのデザインについて、「1.0は『Eクラス』で完結したと考えています。ちょうど2012~2013年には『Sクラス』や『Aクラス』もデビューしました。特にAクラスはより目立つ、ドラマチックな表現が必要でしたので、キャラクターラインも多く入れ、同様に他のクラスもそういった傾向が取られました」と振り返る。しかし、「少し線が多すぎました」と反省。そこで2.0では“シンプル”がキーワードとなった。
キャラクターラインが消え、フロントが特徴的に
「今のこの時代はモノや情報もあふれていますね。クルマもさまざまなモデルがあふれており、多くのラインが入り、本当に細かいところまでこだわりすぎているきらいがあります。また何にでもアクセスができ、買おうと思えば何でも買えるこの時代の中で、われわれは少し落ち着きたいと考え、calm down、静寂性を持った簡素なものにしたいと考えたのです」
これだけを聞くと、「シンプルにするのは簡単だ、線を取り除けばいい」と思われるかもしれない。しかし、実際には少ない要素で他車との差別化を図り、クルマのキャラクターを表現するのは非常に難しい。だからこそ前述したメルセデス特有のプロポーションが大切となるのであり、それがあるからこそ不要な線やディテールを取り除きつつ、Sensual Purityを表現することが可能となるのだ。
それを踏まえ、新型CLSを見てみよう。そのポイントは大きく2つ。ひとつはここまでに記したとおり、キャラクターラインがなくなったこと。もうひとつは、フロントの造形の変化だ。
このCLSのデザインモチーフはサメ、しかもホオジロザメではなくオグロメジロザメだという。「ホオジロよりも小さくて体長も短いのだが俊敏な動きをし、形そのものがスピード感を象徴しています」とレズニック氏。またキャラクターラインがなくなったボディーサイドには、大きな面の張り出しが見て取れる。これをサイドボーンと呼び、まさにサメの胴の部分を表現。この結果、よりスリークなボディーが完成した。
フロントに関してもサメを思わせる“シャークノーズ”を採用。約5°逆スラントさせることで、サイドから見るとクルマがさらに長くなったように見え、また前から見るとよりスポーティーに仕上がっているという。
5年後に勝ち負けがわかる
では、今後のメルセデスのデザインはすべてこの手法が踏襲されていくのか? それはYesであり、恐らくNoでもあるだろう。
まずシンプルさを追求していくのは間違いない。今後のどのモデルでもキャラクターラインは減らされ、面構成を充実させていくだろう。現に日本導入が待たれる新型Aクラスにおいても、すでにこの手法が取り入れられている。
その一方でフロントまわりはどうか。確かにAクラスもシャークノーズを採用しているが、果たしてフォーマルなSクラスやEクラスまでこれが普及するかは疑問が残る。この辺りは、レズニック氏のコメントの中に“スポーティー”というワードがあることから、そこに当てはまるモデルのみに採用されるのではないだろうか。
レズニック氏は、この新しいCLSのデザインについて、「3代目CLSはオリジンである初代に戻り、完璧に仕上げたクルマです」とコメント。今後のデザインの潮流については「シンプルにすることが良いかどうかは現時点ではわかりません。他社のクルマを見ていると、その逆を行っていると思います。エクステリアデザインではラインが増えていますからね。誰が勝つかは5年先にならないとわかりません」としつつ、同時に「実はわれわれはそこ(他社の5年先)にいるのですよ」とも述べ、自信の笑みを浮かべた。
(文=内田俊一/写真=内田俊一、ダイムラー、webCG/編集=堀田剛資)

内田 俊一
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