メルセデスAMG CLS53 4MATIC+(4WD/9AT)
公道ファーストなAMG 2019.08.15 試乗記 最高出力435psを誇る「メルセデスAMG CLS53 4MATIC+」は、4ドアクーペ「CLS」のトップパフォーマンスモデルだ。公道で実力の一端を……と試乗に臨んだリポーターは、むしろ“公道でこそ”と思えるフットワークの仕上がりに驚いたのだった。45、63、43、そして53
門外漢には少しばかり分かりづらいメルセデスAMGのパワートレインラインナップを、ここで整理してみる。2019年夏現在、それは大きく分けて4種類が存在する。
最小は「A45」や「CLA45」「GLA45」などの横置きFF系モデルに搭載される2リッター4気筒ターボだ。国内現行型は381ps(!)だが、海外では421ps(!!)の新型「45 S」も登場。いずれにしても、スペック的には間違いなく世界最強の市販4気筒である。
逆に、現行AMGで最大・最強なのが「63」を名乗る4リッターV8ツインターボで、出力にして470~639ps、トルクが630~900Nmと幅広いチューニングが存在する。このエンジンはイメージリーダーの「AMG GT」はもちろん、セダンでいうと「Cクラス」から「Sクラス」までの縦置きFR系モデル全機種に搭載されるから、最強であると同時に、AMGの最大勢力でもある。
この2つのAMG専用エンジンは、ひとりの工員が1基ずつ専用ラインでハンドビルド生産するのも大きな特徴である。その証明として、AMGファンにはおなじみの組み立て担当者のサインを刻んだ専用プレートがエンジンルーム内に貼られる。
残る2機種は車名に「43」もしくは「53」とつくパワーユニットである。ともに縦置きFR系ユニットで、車名こそ4気筒の「45」を上回ったりもするが、技術レベルというか商品の“熱”は前記2エンジンよりも明らかに穏当だ。細部までAMG専用チューンだが、エンジン本体はハンドビルドによるものではない。
前者の43(の大半)は3リッターV6ツインターボで、2015年に「C450 AMG」として登場後に43と改名して幅広く搭載されるようになったエンジンだ。後者の53は今回の取材車も含めた最新型の3リッター直列6気筒に電動モーターのISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたハイブリッドパワーユニットである。
ちなみにAMG最新モデルとなる「AMG GT 4ドアクーペ」の場合は、同じ直6ターボ+ISGのまま、チューンちがいで「43」と「53」を用意する。なので、将来的にはほかの3リッターV6ツインターボも、直6ターボ+ISGに切り替えられていく予定と思われる。
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F1マシンとの共通点
というわけで、今回のCLS53 4MATIC+(以下、CLS53)のパワーユニットは3リッター直6ターボに、スターターと発電機と駆動アシストを兼務するISGを組み合わせている。考えてみると、これは史上初のAMGハイブリッドでもある。現在AMGが無敵を誇るF1のパワーユニットもハイブリッドだから、ある意味でF1ともっとも強く共通点を感じられる市販AMGということもできる。
このパワーユニットはいわゆるマイルドハイブリッドにあたり、それを作動させるシステムの電圧は比較的低めの48Vである。本格的なハイブリッド車や電気自動車のそれは数百Vに達するが、あつかいやすく低コストな48Vシステムはドイツメーカーを中心に提唱されて、欧州メーカーがいっせいに採用しはじめた統一規格である。欧州では今後しばらく、これがもっともポピュラーな“電動化”のカタチとなるだろう。
そのなかでも、このメルセデスのシステムは、エンジンと9段ATでISGをサンドイッチしたうえにエアコンも電動化して補機ベルトを排除、さらにターボチャージャーのほかに低速用の電動スーパーチャージャーを組み合わせる……など、細部の電動化にも積極的なのが特徴である。今回のCLS53でも、これらの電動化部分はすべて最新のSクラスや「Eクラス」、そしてCLSにラインナップされる「450」のそれとまったく同じだ。AMGとしての動力性能向上はすべてエンジンのチューンナップによるもので、モーターやバッテリー、そして過給システムなども非AMGの450と共通である。
下品と上品が同居するパワーユニット
史上初のハイブリッドAMGのパワーユニットは、普通に転がすだけなら450とほとんど変わらず、じつに滑らかな感触である。ドライブセレクトを標準モードにあたる「コンフォート」にしてスロットルペダルに軽く足を乗せて走るだけなら、非AMGの450とのちがいは、遠くから聞こえるエンジン音質が重低音系になるくらいしかない。アイドル停止状態からトコロテンを押し出すかのごとくスルンと抵抗なく再始動したかと思えば、ATの変速をISGが見事に仲立ちすることで、素晴らしくショックレス&シームレスに加減速が遂行されていく。
3リッター6気筒で435ps/520NmとはAMGの宿敵である「M」の同種エンジンに勝るとも劣らないハイスペック(回転計のレッドゾーンだけは1000rpmほど低いけど)で、シングルターボチャージャーの過給圧もはっきりと高い。しかし、ISGと電動スーパーチャージャーのダブルアシストで、CLS53のパワーユニットはあらゆるシーンでレスポンス遅れやラグ的なクセをまるで感じさせない。それと同時に回転リミッターが作動する6700rpm付近まで振動も増えずに一気に吹け上がる直6ならではの快感もある。
コンソールのダイヤルで走行モードを「スポーツ」そして「スポーツ+」と引き上げていくと、スロットルレスポンスはどんどん攻撃的になり、重低音サウンドも一気に耳元に近づいてきて、しかも音質はズボボボボンのスパパパパン……なオゲレツ系に変化する。同時にATの変速も明確に速まるが、なぜかシフトショックだけはコンフォートのときのシームレスなものとほとんど変わらないのだ。
迫力と洗練、下品と上品がこんなふうに同居したパワートレインはこれまであまり経験がない。これぞAMGハイブリッドの味であり、新しさということか。
AMGモデルとしては異例の“柔らかさ”
昨今の高級スポーツセダン系商品の例にもれず、CLS53も駆動方式は4WD=「4MATIC」のみである。先代までは後輪優勢配分ながらもセンターデフ付きの完全フルタイム4WDだった4MATICも、CLS53も含めた最新のそれは、他社と同様の電子制御クラッチによるオンデマンド型となっている。
エアスプリングと連続可変ダンパーによるサスペンション制御も、コンフォート、スポーツ、スポーツ+という3モードが選べるが、本来は標準設定にあたるコンフォートモードは望外にソフトな調律だ。市街地ではなんともフワリと快適ながら扁平スポーツタイヤ特有のザラツキが強調されたり、高速でもカーブ多めの山間部だと上下動が過大になりがちだったり、あるいはワインディングロードではターンインがマイルドすぎて逆に快適な運転がしにくい……と、随所に“柔らかすぎ?”と思われるクセもある。
その意味ではもっともオールラウンドでフラットに快適なのはその上のスポーツモードである。ただ、いかにタイトで滑りやすいコースだろうと、山坂道をスポーツ気味に走りたいときには、もっと硬いスポーツ+モードが最適なケースが大半である。一般道や高速では硬質な振動が気になるスポーツ+も、ワインディング走行ではドンピシャ。舗装がひび割れたような荒廃した路面や1速まで落とす超低速コーナーでも、まるで跳ねずにタイヤはピタリと接地し続ける。
このように、CLS53のフットワーク調律は、どのモードでもAMGという名前から想像するより1~2ランク柔らかいのだ。よって、どのモードにも一般道でハマる瞬間があるが、逆にいうとサーキットのような舞台では、どのモードも柔らかすぎるだろう。「サーキット志向のお客さまは“63”をどうぞ」ということだ。現時点では新型CLSに63は存在しないが、兄弟車ともいえるEクラスのAMGにはすでにあるので「CLS63 4MATIC+」の登場は時間の問題と思われる。
さすがメルセデス、さすがAMG
余裕あるシャシーと(AMGとしては)控えめな動力性能に4MATICまで備えたCLS53は、スポーツセダンとしては明確にシャシーファスターなクルマである。
新しいオンデマンド型4MATICはフルタイム時代ほどの絶大な安心感はないかわりに、ターンインは明らかに軽快になった。さらに横滑り防止装置をスポーツモードにしてタイミングよく、かつ積極的にスロットル操作すると、絶妙なトルク配分によってギュインギュインと面白いように曲がる。新旧4MATICにはそれぞれ長短があるが、少なくとも絶対的にシャシーファスターのCLS53は、この高回頭性の新4MATICとの相性がいい。
そういえば、別の機会に乗った「E53 4MATIC+」は、今回のCLS53よりさらにグリングリンと回頭した気がした。わずかながらもよりワイド&ローなCLSのほうが、絶対安定性も高いのだろう。いずれにしても、あえて寸止めを効かせた動力性能やシャシーに緻密な4WDを組み合わせて、一般道での絶妙な遊び心をトッピングした新しい53はじつに“公道ファースト”なAMGである。
それはそうと、このクルマのフロントシートは、ナッパレザーの肌ざわりやベンチレーターとヒーターの両方を装備した季節問わずの快適性も最上級だが、それに輪をかけた超絶多機能ぶりに開いた口がふさがらない。
「ドライビングダイナミクス」機能を作動させると、走行中の横Gに応じて外側サイドサポートがウニウニと張ったり緩んだりしてドライバーの体をアクティブに支えるかと思えば、「リラクゼーション」機能では一脚あたり合計14個(シートバックで5×2列、座面で2×2列)の揉みダマが心地よくうごめく。マッサージ付きのクルマは昨今めずらしくないが、さすがはメルセデス。私がこれまで体験したどれよりも、今回の“揉みほぐし”性能は最強かつ巧妙だったし、シートヒーターと連動した「ホットリラクゼーション機能」まで備わるのだ(笑)。さらにいうと、メルセデスの上級モデルの定番である空調のアロマ機能はこのクルマにも当然つく。
というわけで、アロマの香りに包まれてホットリラクゼーションを受けつつ、アクティブシートにグニグニと抱きかかえられながらワインディングを果敢に攻める……と、いろいろ渋滞しすぎて思考が停止しそうになるが、ともかくAMGってスゲーとは思う。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG CLS53 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5000×1895×1425mm
ホイールベース:2940mm
車重:2010kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:435ps(320kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1800-5800rpm
モーター最高出力:22ps(16kW)
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)
システム総合出力:--ps(--kW)
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)275/30ZR20 97Y XL(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:10.0km/リッター(JC08モード)
価格:1274万円/テスト車=1285万4000円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(11万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:6753km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:505.5km
使用燃料:59.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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