ハイパーEVやランボルギーニのライバルも!?
新型アストンマーティンに注目せよ!
2018.07.20
デイリーコラム
だいたいご存じでしょう?
2018年6月16日、ルマン24時間レースの決勝がスタートする数時間前のパドックで、僕はアストンマーティンのCEOであるアンディ・パーマーさんとばったり出くわした。
まぁ不思議はない。アストンマーティンは長年ルマンに参戦を繰り返していて、昨年などまさしく激闘といえる激闘の末にLM-GTE Proクラスを制した勝者でもある。今シーズンもルマンを含むWEC(世界耐久選手権)に新型「ヴァンテージ」で参戦してもいる。そのブランドのボスなのだから、ルマンにいても少しもおかしくない。
パーマーさんは忙しそうだった。1~2分だけ立ち話をすると、彼は「おっ、行かなきゃ。後でまた私たちのホスピタリティーブースでお会いしましょう」と、ニッコリ笑いながら立ち去っていった。
その“後でまた”の時間が訪れたのは、レースがスタートして3~4時間後。デビューしたばかりでマシンがまだ仕上がっていないうえ、今年はBoP(Balance of Performance=性能調整)の締め付けが厳しくつらい戦いを強いられている「ヴァンテージAMR」の話からスタートした。そして、ちょうど乗らせてもらったばかりの(その時点での)最新モデル「DB11 AMR」を僕が称賛し、その勢いでその後のニューモデルの展開なんぞを尋ねてみた。パーマーさんは「予定どおり、『DBSスーパーレッジェーラ』をもうじき発表します。それ以外は……だいたいご存じでしょう?」とニコやかだ。きっとDBSの後のモデルたちも、ほぼ予定どおりに進んでるのだろうな、と思った。
……そう。アストンの今後のモデル展開については、“だいたいご存じ”なのである。なぜならば、ボスであるパーマーさんも、副社長でありクリエイティブ部門のトップでもあるマレック・ライヒマンさんもそうなのだけど、彼らは変に隠したりしないからだ。開発計画については、ふたりともこれまで何度もインタビューさせていただいてきた中で当たり前のように教えてくれたり、少し考えたら誰でも分かるような濃厚なヒントをくれたり。モーターショーのプレスカンファレンスなどで「このモデルは何年に正式発表する」と具体的に語ることもあった。そうした点と点を集めて系統立ててまとめようと、誰もしてこなかっただけだ。
「DBX」は4ドアモデル
パーマーさんもライヒマンさんも「7年間に7台のニューモデルを発表する」ということを堂々と公言してきた。
- 2016年の「DB11」
- 2017年の「ヴァンテージ」
- 2018年の「DBSスーパーレッジェーラ」
これらは、見事オンタイムで正式発表されてきた。実のところ僕は「3番目は『ヴァンキッシュ』」と聞いていたのだけど、DBSスーパーレッジェーラはこれまでの“フロントエンジンの”ヴァンキッシュの事実上の後継車だから、つまりはそういうことだったのだろう。
- 2015年の「ヴァルカン」
- 2016年の「ヴァルキリー」
- 同じく2016年の「ヴァンキッシュ ザガート」
それらは違うのか? という声もありそうだから念のために申し上げておくと、その一連の車種は通常のプロダクションモデルのラインではなく、スペシャルな限定車もしくはスーパースペシャルな限定車、という扱い。もちろんそうしたモデルはこれからも登場してくるだろうから楽しみではある。
“7年7台”の残る4台はこうなるはずだ。
- 2019年の「DBX」
- 2020年の“ミドシップ”「ヴァンキッシュ」
- 2021年のラゴンダその1
- 2022年のラゴンダその2
SUVの「DBX」について、2019年のデビューは秘密でも何でもない。1年前にウェールズにある英国国防省の施設だったところを再開発して工場にし、雇用に関しても動きがスタートしていて、2019年からの生産に備えている。DBXは2015年にプロトタイプが公開されているが、それとは全く異なる姿になることもドアの数が2ドアではなく4ドアになることも、それはインタビューのときだったかな? まぁ、とにかく聞かされている。
フェラーリやランボのライバルが登場
2020年には「ヴァルキリー」にインスパイアされた、ミドシップスポーツカーがデビューする。アストンがレッドブル・レーシングとパートナーシップを結んでいることはよく知られているが、それはただF1マシンにアストンのロゴを貼り付けるだけのものではない。そもそもヴァルキリーというミドシップのハイパーカーを共同開発することからスタートした2社の関係は今やもっと深くなっていて、レッドブルの本拠地であるミルトンキーンズに共同で「アドバンスト・パフォーマンス・センター」を開設し、すでにヴァルキリーに次ぐモデルの共同開発をスタートさせている。それがこのミドシップカーだ。
次のミドシップスポーツカーはヴァルキリーのようなスペシャルな限定モデルではなく、「フェラーリ488」やランボの「ウラカン」のライバルとなるカタログモデルになる。それらのモデルを制圧するという意味合いにおいても、DBSスーパーレッジェーラに跡目を譲った“ヴァンキッシュ(=征服者)”という名称ほどふさわしいものはなく、ヨーロッパではそうなることが確実視されている。
そして2021年と2022年のラゴンダ、その1とその2だ。今年のジュネーブモーターショーで、アンディ・パーマーCEOはラゴンダブランドを世界初のゼロエミッション・ラグジュアリーブランドへと転身させ、発展させていくことを発表している。そこでお披露目された衝撃的ながら納得せざるを得ない発想とデザインでまとめられた4人乗りクーペのコンセプト、それとSUVのデザインモックアップが、それぞれカタチになるのだろう。アストンマーティンのプレスリリースでは「早ければ2021年に生産が開始されるラゴンダの生産型車両……」のような表記の仕方があったけど、早いでしょ、きっと。少なくともボスたちはそのつもりでいる。
パーマーさんは2017年の春、「私はEV(電気自動車)のファンなんです。EVが究極的な存在だとすれば、プラグインハイブリッドのような技術はその一歩手前の段階。私たちはそこをスキップして一気にEVへ飛んでいきたいと考えています」と語っていた。それをカタチにするのがラゴンダブランドだったのだ。
あの「ラピード」のEV版も!?
そして──そういえば「ラピード」の名前が出てきてないけどどうなるの? と思ってた方、お待たせしました──その前段階として、2019年、「ラピードE」が市販される。そう、ラピードのEVだ。155台のみという限定販売になる。ベースとなるのが「ラピードAMR」であり、電動パワートレインが最高出力600psのV12エンジンの代替として成立していなければファンは納得しないわけで、眠いEVなんかには絶対にならないことが予想できるから、ものすごく楽しみである。
お気づきだろうか? いや心霊番組じゃなくて……。そう、パーマーさんもライヒマンさんも、ことさら隠さないし、時期や車名を教えてくれたり示唆してくれたりはするのだけど、正式発表となる前にディテールについて質問しても、ニコニコしながら「楽しみにしていてください」と答えるばかり。じれったいけど、想像を膨らませながら待つ楽しさとか実車を見て驚くうれしさとか、そういうクルマ好きとしての喜びは常に残してくれているわけだ。
そういえばルマンで最初に会ったときのパーマーさんは、レーシングスーツを着ていた。パドックも、サポートレースであるアストンマーティン・フェスティバル・レースのマシンが並んでいるエリアだった。
「私も自分の『GT8』で走るんです。あっちにはマレックもいますよ。彼も走ります」
こういう根っからのクルマ好きが運営してるからアストンマーティンは走らせて楽しく気持ちいいクルマを立て続けにリリースできるのだな、とあらためて思ったのだった。そして、今後にもどうしても期待しちゃうのだよなぁ……とも。
(文=嶋田智之/写真=アストンマーティン、嶋田智之/編集=関 顕也)
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