【F1 2018 続報】第11戦ドイツGP「雨がもたらした大逆転劇」
2018.07.23 自動車ニュース![]() |
2018年7月22日、ドイツのホッケンハイムリンクで行われたF1世界選手権第11戦ドイツGP。予選、決勝を通じて主導権を握っていたのはフェラーリ。しかし、レース終盤にコースの一部に雨粒が落ちてきたことで、戦況は劇的に変わっていくのだった。
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過密スケジュールの中の混戦
フランス、オーストリア、イギリスと続いた史上初の3連戦の後は、2週間のインターバルを挟んでドイツ、ハンガリーの2連戦。最多タイの21戦で争われる今年のF1はかように過密スケジュールで進み、今季のタイトル争いは熾烈(しれつ)を極めている。
今シーズンの前半10戦で、フェラーリ4勝、メルセデス3勝、レッドブル3勝と、勝利数でいえば4連覇中の王者メルセデスが挑戦者フェラーリに負け越し、さらにレッドブルにも並ばれているという意外な展開。先のトリプルヘッダーでも3強がそれぞれ1勝ずつ分け合った。ドライバーズチャンピオンシップでトップのセバスチャン・ベッテルと2位ルイス・ハミルトンとの差はわずかに8点。またコンストラクターズタイトル争いでは、フェラーリがメルセデスに20点差をつけ首位。V6ハイブリッド規定始まって以来の混戦である。
夏休み目前のバック・トゥ・バックの初戦は、ホッケンハイムを舞台とした2年ぶりのドイツGP。フェラーリのエース、ベッテルも、またメルセデスチームも、母国で是が非でも勝ち、ライバルに少しでも差をつけシーズン後半につなげたいところだ。
そのためにも、コースの「外」の問題は早めに片付けようとしたのか、メルセデスは2人のドライバーとの契約延長を相次いで発表した。2013年からシルバーアローを駆り、このチームで3回チャンピオンとなったハミルトンは2020年までの契約を結び、またバルテリ・ボッタスも来季残留を決め、さらに2020年のオプション契約も締結した。これでサーキットでの戦いに腰を据えて臨む環境が調ったといっていいだろう。
一方でGPウイーク真っただ中の土曜日になって、フェラーリからは不穏な知らせが。フェラーリのみならずフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)のボスとしてグループをけん引してきたセルジオ・マルキオンネ氏が、健康上の理由でフェラーリ会長とCEO、そしてFCAのCEOを辞任することが明らかになった。もともと今年限りでの退任を表明していたのだが、先頃行われた肩の手術の合併症で即時復帰が難しくなったとされている。2014年にフェラーリ会長に就任してから、スクーデリア内でも、またF1界全体でも彼の存在感は年々増してきていたことから、トップ人事の急な変更が今後にどう影響してくるのか注目が集まる。
いずれにしても、今シーズンは予断を許さない戦況であることは変わりなく、ライバルより1000分の1秒でも速く走り、また1点でも多く獲得することが、例年以上に求められている。過密スケジュールと相まって、各陣営に息つく暇はない。
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ハミルトンがトラブルでストップ、ポールはベッテル
2001年の大改修で、6kmを優に超える直線基調の長いコースは4.5kmに短縮され、中盤にヘアピンなどを加えることとなったホッケンハイム。超高速から中高速へと性格を変えたものの、メインストレートからターン1を過ぎてのハイスピード区間や、終盤のツイスティーなスタジアムセクション、さらには近代サーキットに比べて狭いコース幅など、往時の面影を各所に残すクラシックコースである。
予選はフェラーリがリードし、メルセデスがそれを追うという展開となったのだが、シルバーアローの1台は早々にトラブルに泣くことに。全車出走のQ1セッション中、ハミルトンのマシンは油圧系の問題でコース上にストップ。Q1通過はできたもののQ2で走ることはできず、ハミルトンは14番グリッドという大きなハンディを背負ってレースに臨むこととなった。
孤軍奮闘となったボッタスは、トップ10グリッドを決めるQ3最後のアタックで最速タイムをマークするも、ベッテルがそれを0.204秒上回ることに成功。ベッテルは今季5回目、通算55回目、ホッケンハイムでは2010年以来となるポールポジションを獲得した。ボッタスは2位で赤のフロントロー独占を阻止。フェラーリのキミ・ライコネンは3位だった。
レッドブルは、マックス・フェルスタッペンが予選4位、チームメイトのダニエル・リカルドはパワーユニット交換のペナルティーを受け19番グリッドとなった。
その後ろには好調ハースが並び、ケビン・マグヌッセン5位、ロメ・グロジャン6位。さらにルノー勢が続き、ニコ・ヒュルケンベルグ7位、カルロス・サインツJr.は8位だった。過去4戦で3回Q3に進出しているスーパールーキー、ザウバーのシャルル・ルクレールが9位、フォースインディアのセルジオ・ペレスは10位につけた。
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ハミルトン、オーバーテイクを繰り返し入賞圏へ
決勝日、スタート前は晴れていたものの降水確率60%と予報されており、各陣営とも雨雲レーダーを凝視しながらの戦いとなった。
67周レースのスタートでトップを守ったベッテル。2位ボッタス、3位ライコネン、4位フェルスタッペン、5位マグヌッセンと上位陣はグリッド通りにオープニングラップを終えた。首位ベッテルはファステストラップを連発し、8周してボッタスに3秒台のマージンを築くと、ペースをコントロールし始める。ベッテルのレースは順調に幕を開けた。
一方、ダメージを最小限にとどめたいハミルトンは、4周目に入賞圏の10位まで順位を上げると、その2周後には9位、8周目に8位、9周目には7位、11周目に6位、そして14周目には5位と、前戦イギリスGPと同じようにオーバーテイクを繰り返した。
上位陣でタイヤ交換の口火を切ったのはライコネン。15周目にウルトラソフトからソフトタイヤに履き替えると、ハミルトンの前の4位でコースに復帰した。同じマシンを駆る1位ベッテルのピットストップは26周目。やはりソフトを装着し、ライコネンの後ろの4位で戻った。
さらに29周目にボッタス、翌周フェルスタッペンがそれぞれソフトに換装すると、トップランナーは1位ライコネン、2位ベッテル、3位にまだタイヤ交換をしていないハミルトン、4位ボッタス、5位フェルスタッペンという順位となった。
レース中盤にきて1-2と、理想的なレースをしているかに見えたフェラーリだったが、早めのピットストップで古くなったタイヤを履くライコネンがトップで、タイトルを争うポイントリーダーのベッテルを抑えているというのは具合が悪く、実際、2位ベッテルは無線で「先に行かせてほしい」とチームに訴えていた。39周目、ようやく赤いマシンはポジションを替えてベッテルが首位に返り咲くと、両車のギャップは1秒、2秒と広がっていった。
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ベッテル、トップ走行中にまさかのリタイア
レースの折り返しを過ぎても、スタートタイヤのまま周回を重ねていたハミルトンは、雨を待っていたに違いない。しかし、崩れそうで崩れない天候にしびれを切らしていたメルセデスは、43周目にハミルトンをピットへと呼ぶこととなる。皮肉にも、このメルセデスの決断の直後に雨が降り始めたのだが、大きな雨粒が落ちているのはコースの一部のみで、ドライタイヤのままか、ウエットに履き替えるかという難しい判断を迫られることに。3強のうち勝利から最も遠かったレッドブルは、フェルスタッペンにインターミディエイトタイヤを履かせるという賭けに出るも、コンディションはそれほど悪化せずこの作戦は失敗、すぐさまドライに戻した。
所々滑りやすくなった路面に翻弄(ほんろう)されながらも、52周目、ボッタスがライコネンを抜き2位に浮上。その直後、信じられない光景が目に飛び込んできた。ベッテルがスタジアムセクションのコーナーで止まりきれずコースアウト、ウオールにヒットしていたのだ。グラベルに捕まったフェラーリはその場から動けなくなり、リタイア。ステアリングをたたき悔しがるベッテルは、自らのミスで、母国GPを今季初めての無得点レースとしてしまった。
ベッテルの一件でセーフティーカーが入り、ボッタス、ライコネンらがタイヤ交換のためピットに入った。これで順位は、1位ハミルトン、2位ボッタス、3位にライコネン、4位フェルスタッペンだ。58周目にレースが再開すると、ボッタスがハミルトンに仕掛けるという、久々のメルセデス同士のつばぜり合いが見られたものの、ハミルトンが踏ん張り首位をキープ。チームからボッタスに「ポジションを守ってくれ」との無線が飛び、ボッタスはそれに従い、結果、メルセデスはホームGPを1-2で終えるのだった。
あれだけ速かったベッテル&フェラーリがまさか自滅するとは。14番グリッドと下位に沈んだハミルトンがまさか優勝するとは。そんな意外性にあふれたドイツGPは、レース後にもうひとつの「まさか」の可能性があった。セーフティーカー導入直後、一瞬ピットレーンに入ったハミルトンは、チームからの「コースに戻れ!」との指示で進路を急変更、グリーンにマシンを落として強引にメインストレートに入った。明らかなレギュレーション違反ではあったが、レース後の事情聴取後におとがめをもらうだけにとどまり、劇的勝利にケチがつくことはなかった。
チャンピオンシップをリードしていたベッテル&フェラーリは、ハミルトン&メルセデスに首位の座を再び奪われた。目まぐるしく変わる今シーズンの戦況、次は果たしてどんな展開が待っているのか?
次戦ハンガリーGP決勝は、1週間後の7月29日に行われる。
(文=bg)