【F1 2018 続報】第14戦イタリアGP「フェラーリの詰めの甘さ」
2018.09.03 自動車ニュース![]() |
2018年9月2日、イタリアのモンツァ・サーキットで行われたF1世界選手権第14戦イタリアGP。地元で18年ぶりにフロントローを独占したフェラーリだったが、レースになると詰めの甘さを露呈することになり、巧みなチーム作戦に打って出たメルセデスに敗北するのだった。
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常勝軍団に黄色信号?
2014年にV6ターボ ハイブリッド規定が始まって以来、ここまでメルセデスが追い詰められたのは初めてかもしれない。過去4年間の79戦で63勝を記録したシルバーアローが、前戦ベルギーGPで跳ね馬の軍勢に力で負けたのだ。
2番グリッドからオープニングラップでトップを奪ったフェラーリのセバスチャン・ベッテル。鋭角のターン1から名物コーナー「オールージュ」を駆け抜けると、ポールシッターのルイス・ハミルトンの真後ろにつけ、長いストレートで鮮やかにメルセデスをぶち抜いた。2番手に落ちたハミルトンは、その後ベッテルにジワジワと差を広げられ完敗。フェラーリは、これまでメルセデスが得意としてきたパワーサーキットで、ライバルに打ち勝った。
「われわれは強いチームだが、足りていない部分が多くある」と敗北を認めたのは、メルセデス率いるトト・ウォルフ。フェラーリのパワーユニットは、メルセデスのそれを抜き、いまやGP随一の強心臓にまで上り詰めた。カナダGP、イギリスGP、そしてベルギーGPと、今季中盤のパワーコースでベッテルが勝利をおさめているのはその証左といえる。また、パワーがものをいうストレートスピードのみならず、コーナーからの立ち上がりで重要になるトラクション、さらにはタイヤへの過大な負荷といった面でも、メルセデスのパフォーマンスが劣っているとウォルフは見ていた。
メルセデスにとって、ベルギーGPから間髪入れずに行われるイタリアGPは、さらに分が悪そうなレースになると思われた。1922年に完成した世界で3番目に古い伝統のコース、モンツァは、楕円(だえん)を縦横に2つ組み合わせ、直線を高速コーナーとシケインでつなげたような超ハイスピードサーキットで、実に70%がフルスロットル区間といわれている。昨季はこのフェラーリの本拠地でメルセデスが1-2を決めたが、ここで勝つためには、今季メルセデスに足りないとされる各要素が必要とされ、つまりフェラーリこそ優勝最有力候補と目されていたのだ。
チャンピオンシップでは、首位ハミルトンがベッテルを17点引き離し、メルセデスがフェラーリに15点差をつけている状況だったが、流れは真逆の方向に進みつつあった。実際、フェラーリ優勢の流れは予選で最高潮を迎えることとなったのだが、レースになると、敵地でメルセデスが巧みなチーム作戦を展開するのだった。
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ライコネンが史上最速ラップでポール、フェラーリ最前列独占
雨がらみの最初のフリー走行を除けば、残る2回のプラクティスでトップタイムをマークしたのはベッテル。予選Q1でベッテル、キミ・ライコネンのフェラーリ1-2、それがQ2になるとベッテル、ライコネンの間にハミルトンが割って入り、メルセデスも肉薄してきた。
そしてトップ10グリッドを決めるQ3は、各車スリップストリームを使っての手に汗握る接戦に。最初のアタックで最速だったのはハミルトンで、2位ライコネンとの差はわずか0.069秒。3位にはベッテルがつけた。三つどもえのポール争いは、ハミルトン、ベッテル、ライコネンの順番での最後の計測がスタート。それぞれがタイムアップを果たす中、ベッテルに引っ張られたことも奏功したライコネンが最速でセッションを終えることとなった。ライコネンは、2017年のモナコGP以来となる自身通算18回目、モンツァでは12年ぶりとなるポールポジションを獲得。平均時速263.587km/hは、2004年にウィリアムズBMW駆るファン・パブロ・モントーヤが記録した史上最速ラップを更新する、圧巻の速さとなった。さらに0.161秒遅れでベッテルが2位で予選を終えたことで、フェラーリは2000年以来となる地元でのフロントロー独占に成功。サーキットに詰めかけた大勢のフェラーリファンは、赤い2台のマシンに大歓声を送ったのだった。
敗れたメルセデスはハミルトン3位、バルテリ・ボッタス4位と2列目。3強の3番目、レッドブルは、マックス・フェルスタッペンが5位、ダニエル・リカルドはパワーユニット交換の降格ペナルティーでQ2でセッションをやめ、19番グリッドからのスタートとなった。ハースのロメ・グロジャン6位、ルノーのカルロス・サインツJr.7位、レーシングポイント・フォースインディアのエステバン・オコン8位ときて、トロロッソのピエール・ガスリーがハンガリーGP以来となる今年4度目のQ3進出で9位につけた。そしてウィリアムズのランス・ストロールが今季初の予選トップ10入りを果たし、10番グリッドからレースに臨むこととなった。
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ベッテル、ハミルトンとの接触で大きく後退
モンツァでのポール・トゥ・ウィン回数は過去18年で14回と多く、追い抜き困難な悪名高きモナコよりポールからの勝率は高い。そうなれば、2013年開幕戦以来のライコネンの勝利を期待したくもなったが、ふたを開けてみると、フェラーリの詰めの甘さが各所で露呈することとなった。
まずはオープニングラップでのベッテルのライン取りだ。53周レースのスタートでトップを守ったライコネン。その後ろでは、2位ベッテル、3位ハミルトンが軽く接触しながらターン1のシケインを抜けた。その後ベッテルは前方のライコネンを意識しすぎたか、続く第2シケイン手前で右側に不用意にスペースを作ってしまい、この間隙(かんげき)をハミルトンが突くことになる。両車は今度はしたたかに当たり、アウト側のベッテルはウイングを壊しスピン、最後尾まで順位を落とした。そしてもう一方のハミルトンは幸運にも無傷のまま2位に上がり、ライコネンを追うのだった。
ベッテルにとって不幸中の幸いだったのは、スタート後数秒でブレンドン・ハートレーのトロロッソがクラッシュしたことにより、セーフティーカーが入ったこと。各車徐行中にベッテルはピットに入り、新しいノーズとタイヤを与えられ、ダメージ最小化に向けて出直しを図った。
4周目、1位ライコネン、2位ハミルトン、3位フェルスタッペン、4位ボッタス、5位グロジャンの順でレース再開。ライコネンのスリップストリームを使ってハミルトンがターン1でトップを奪うと、今度はすかさずライコネンがその座を奪い返すという、白熱のトップ争いが繰り広げられた。その後も、先頭のライコネンに2位ハミルトンが1秒と開かず食らいつく展開が続き、トップ2台が3位フェルスタッペン以降を引き離していった。
後方から追い上げ中のベッテルは、7周目に15位、14周目に10位と次々と前車をオーバーテイク。しかしレース序盤にしてトップのライコネンから既に25秒も遅れており、優勝はもちろん表彰台もまだはるかかなただった。
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「絶対に諦めなかった」ハミルトンの貫禄勝ち
メルセデスがフェラーリに陽動作戦を仕掛けたのはレース中盤のこと。21周目を前にメルセデスのピットクルーが動き出し、これに合わせてフェラーリのクルーもタイヤ交換に急きょ備えた。結局この時点でタイヤ交換に踏み切ったのはライコネンだけで、ハミルトンは29周目まで第1スティントを引っ張ることとなったのだが、1ストップが主流となった今回、これでライコネンはハミルトンより8周使い古したタイヤで優勝争いをしなければならなくなった。
メルセデスの作戦はなおも続き、まだタイヤ交換を行っていないボッタスが先頭を走り、2位ライコネンの鼻っ面を押さえるというチームプレーを展開し始めた。数周もすれば、ボッタス、ライコネンにハミルトンが追いつき、トップ3台が数珠つなぎに。大役を果たしたボッタスは、36周を終えようやくピットインし4位でコースに戻ると、今度は3位表彰台を目指してフェルスタッペンを追った。
1位ライコネンは、1秒以内という僅差でハミルトンを従え孤軍奮闘を続けていたが、ボッタスを抜きあぐねている間にリアタイヤにははっきりとしたブリスター(火ぶくれ)ができ、ペースを上げられないでいた。
決定的なチャンスが訪れたのは45周目。ターン1のシケインでライコネンを抜いたハミルトンがトップに立つと、メルセデスはフェラーリとのギャップを見る見る広げ始め、速さを失ったライコネンは最終的に9秒近く遅れて2位でチェッカードフラッグを受けた。
「絶対に諦めなかった」とは、残り8周で表彰台の頂点にまでのぼりつめたハミルトンの弁。ベルギーGP、そしてイタリアGP予選での大敗からの見事なカムバック、王者の貫禄勝ちだった。ベッテルが最終的に4位でゴールしたことにより、ハミルトンはポイント上のリードを17点から今季最大の30点にまで拡大させることができた。
また3位争い中にフェルスタッペンと接触したボッタスは、フェルスタッペンに5秒加算のペナルティーが言い渡されたことで3位に。ライコネンを間に挟んでの1-3フィニッシュで、メルセデスはコンストラクターズチャンピオンシップで2位フェラーリに25点のギャップを築いた。
「われわれには勝つだけの速さがあったが、最後までタイヤがもたなかった。この結果は受け入れがたい」
キャリア通算100回目のポディウムにのぼったライコネンのコメントこそ、フェラーリの詰めの甘さを裏付けていたといえよう。
5月のスペインGPから始まったヨーロッパラウンドを終えたF1。次戦シンガポールGP決勝は、9月16日に行われる。
(文=bg)