新たに2列シート仕様が登場
「トヨタ・シエンタ」はマイナーチェンジでどこに向かう?
2018.09.26
デイリーコラム
新たに2列シート仕様を設定
今のクルマは安全装備や環境性能が向上したこともあり、価格が全般的に高くなった。平均給与所得はピークだった約20年前に比べると下がっているから、小さなクルマに乗り換えるユーザーが増えている。所得が増えていないのにクルマの値段がどんどん上がれば、ダウンサイジングするしかないだろう。
こうした市場動向を背景に、コンパクトミニバンの「トヨタ・シエンタ」「ホンダ・フリード」が堅調に売れている。1.5リッターのノーマルエンジンとハイブリッドの双方をラインナップするミニバンは実質的にこの2車種に絞られ、競争相手が少ないことも売れ行きが伸びた理由だ。
このうちシエンタが2018年9月11日にマイナーチェンジを受けた。
最も注目されるのは、2列シートの「ファンベース」を加えたことだ。3列目のシートを省いたから荷室が拡大され、専用のボードを使うことで、後席を畳むとフラットで広い荷室が得られる。荷室長の最大値は2065mmと十分に確保した。もともとシエンタは薄型燃料タンクの採用で床が低いから、2列シート仕様では、大容量の荷室にアレンジできる。
2列シート仕様を設定した背景には、複数の理由がある。
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コンパクトカー部門を強化する意図も
まずはライバルとなるフリードに向けた対策だ。現行フリードは2列シート仕様の「フリード+」を発売時点から用意した。ボードを使うと車内がフラットで広い空間になり、宿泊する用途にも使いやすい。シエンタのファンベースもこの2列シート特有の多用途性をねらった。
さらに、トヨタのコンパクトカー部門を強化するねらいもある。トヨタの「アクア」と「ルーミー/タンク」は手堅く売れているが、「ヴィッツ」「パッソ」「ポルテ/スペイド」は伸び悩み気味。そこをシエンタのファンベースで補う。
シエンタはトヨタの4系列すべての販売店が扱うため、これをテコ入れすれば、トヨタの全店にメリットが生じる。しかも売れ筋車種だから、上乗せされる販売台数も多い。
実際の使われ方を見ても、シエンタのような全長が4300mm以下のミニバンは、コンパクトカーの感覚で使われることが多い。3列目のシートを畳み、3~4人で乗車して荷物を積む。トヨタには荷室の広いコンパクトカーのルーミー/タンクもあるが、エンジンは1リッター直列3気筒だから、ターボを装着しないノーマルタイプは動力性能が不足しやすい。ポルテ/スペイドは左側が1枚のスライドドアで、使い勝手がちょっと個性的だ。こういった理由もあって、シエンタは荷室の広いコンパクトカーとしてのニーズがある。荷物を積む用途では、2列シート仕様が合理的だ。
2列シート仕様のファンベースは価格も割安で、3列シート仕様を3万9960円下まわる。3列目シートの相場は、SUVの場合は+7~15万円だ(19万円を超える「ホンダCR-V」は割高)。シエンタは3列目を省いた割に価格の下がり方が約4万円と少ないが、ファンベースには専用装備のデッキボードや、棚やポールを装着する時に便利なユーティリティーホール(取り付け穴)などが備わる。3列目を省いただけでなく独自の機能も加えたから、この価格は妥当だ。上級の「ファンベースG」でも200万円以下(ガソリン車)だから、幅広いユーザーが購入しやすい。
以上のような理由のもとに、シエンタは2列シート仕様のファンベースを設定した。トヨタではマイナーチェンジを期に月販目標を7600台としており、新型発売当初の7000台よりも少し多めに設定した。それでも2018年1~8月の平均登録台数が7570台だから、7600台の目標は、バリエーションを追加した割には控えめとも受け取れる。無理のない設定だ。
細かなブラッシュアップで商品力を強化
このほか、今回のマイナーチェンジでは、フロントマスクも変更した。緊急自動ブレーキなどを作動できる先進安全装備の「Toyota Safety Sense」は、歩行者を検知対象に加えた。電動スライドドアが閉まると、自動的にロックする機能も加わった。
ボディーカラーにはモノトーンの新色のほかにも、ピラーとルーフがブラックになる2トーンカラーを加えた。その代わりフロントマスクやボディーの一部だけの色彩を変える「フレックストーン」は省いた。販売店によると「フレックストーンは中途半端な色彩で人気がなく、より売れ行きが見込める2トーンカラーに切り替えた」という。
3列仕様のシート形状は、2WDの6人乗りを廃止して、7人乗りのみとした。4WDは従来通り6人乗りだけだ。フリードなどと違って、シエンタの6人乗りが装着する2列目シートは車内の中央が通路になるキャプテンシート(セパレートシート)ではない。ベンチシートの発展型で、中央にアームレストを装着して、座面にあたる部分にはトレイを組み込んだ。座り心地はベンチシートの7人乗りに見劣りするから魅力が乏しく、7人乗りが中心の構成になった。
前述したように今はクルマの価格が高くなり、海外向けの高価格車も増えたから、購入しやすい現実的な車種が減っている。シエンタはその大切な選択肢だから、メーカーや販売会社としても有効活用したい。そこでバリエーションを充実させた。
今後の展開として、SUV風の仕様とか、エアロパーツ装着車(「GRスポーツ」のような本格的な仕様ではなく)を追加する可能性もある。日産の「ノート」も数少ない売れ筋車種だから、1.2リッターのノーマルエンジンに、そのスーパーチャージャー付き仕様、「e-POWER」といったパワートレインをそろえ、SUV風の「Cギア」や「NISMO」なども用意するなど、1車種を多彩に展開させている。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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