【F1 2018 続報】第16戦ロシアGP「50点リードの対価」
2018.10.01 自動車ニュース![]() |
2018年9月30日、ロシアのソチ・オートドロームで行われたF1世界選手権第16戦ロシアGP。メルセデス&ルイス・ハミルトンの連勝でいよいよ後がなくなってきたフェラーリ&セバスチャン・ベッテル。5度目のタイトル獲得をもくろむ2人のドライバーの間で翻弄(ほんろう)された、ひとりのドライバーがいた。
![]() |
![]() |
「勝つか、負けない」しかない
史上最多タイの21戦で争われる2018年のF1は、その70%にあたる15戦が終了。ともに自身5度目のタイトル獲得を狙うメルセデスのルイス・ハミルトンとフェラーリのセバスチャン・ベッテルの戦いを、第10戦イギリスGPを境に前半と後半で分け、勝利数とポイントの内訳をみるとこうなる。
【前半:1~10戦】
ベッテル:4勝、171点(ランキング1位)
ハミルトン:3勝、163点(ランキング2位)
※ポイント差:8点
【後半:11~15戦】
ベッテル:1勝、70点(年間:5勝、241点/ランキング2位)
ハミルトン:4勝、118点(年間:7勝、281点/ランキング1位)
※ポイント差:48点(年間差:40点)
後半戦に入ってから2連勝を2回記録しているハミルトンの勢いと、自らのミスやチーム戦略から、勝てるポテンシャルを持ちながらライバルに負け続けているベッテルの失速が数字に表れていた。
残り6戦=150点満点で、ポイント差40点は覆せない数字ではない。ベッテルが全勝しハミルトンが全戦で2位となれば、391点対389点で、辛うじてベッテルの手に栄冠が渡ることになる計算だった。大きなギャップとはいえ、シーズン終盤ともなればパワーユニットの信頼性に問題が出てもおかしくはなく、ペナルティーやリタイアなどの可能性もあるのだ。とはいえ、GPキャリア12年目、いまや円熟の境地に達したといっていい33歳のハミルトンに死角らしいものは見当たらない。むしろベッテル&フェラーリは、レースごとにプレッシャーの重みが増してきている状況であった。
第16戦の舞台は、オリンピック会場をコースに仕立てたロシアのソチ。F1が始まった2014年以来、メルセデス以外は勝ったことがないというシルバーアローのテリトリーに、フェラーリはフロントウイングなどに大幅なアップデートを施し、起死回生に賭けてきた。ベッテルに残された道は、レースに勝つか、ハミルトンに負けない戦いを続けることしかなかったのだが……。
![]() |
ボッタス、今季2度目のポールポジション
3回のフリー走行から予選まで、安定した速さをみせたのがメルセデス勢だった。フリー走行2回目、3回目、そして予選Q1、Q2まで、ハミルトンとバルテリ・ボッタスの1-2。トップ10グリッドを決めるQ3になると逆転が起きることになるが、それはメルセデスの中での話で、ソチを得意とするボッタスが第9戦オーストリアGP以来となる今季2度目、通算6回目、ロシアでは初のポールポジションを獲得した。ハミルトンは0.145秒及ばず予選2位で、メルセデスは今シーズン5回目となるフロントロー独占に成功した。
2列目にはフェラーリの2台。ベッテルはトップから0.556秒と大きく離され3位、キミ・ライコネンは4位だった。3強の一角、レッドブルはといえば、ルノーのパワーユニットとギアボックス交換のペナルティーを受けることが決まっていたため、Q2止まりで後方スタートとなった。代わって3列目につけたのが、ハースのケビン・マグヌッセン5位、レーシングポイント・フォースインディアのエステバン・オコン6位だった。
ザウバーは2台そろってQ3に進出し、シャルル・ルクレール7位、マーカス・エリクソン10位。レーシングポイント・フォースインディアのセルジオ・ペレス8位、ハースのロメ・グロジャンは9位につけた。
![]() |
ベッテル、ピットストップでハミルトンを抜いたが……
優勝まであと一歩のところでタイヤバーストに遭った第4戦アゼルバイジャンGPなど、これまで勝てるチャンスがありながらなかなか勝てなかったボッタス。ロシアでは今季初優勝を期待したくもなったが、タイトル争いを繰り広げているチームメイトのハミルトンの存在を無視するわけにもいかなかった──メルセデス陣営のぜいたくな悩みをよそに、53周のレースは幕を開けた。
メルセデス、フェラーリは真ん中のウルトラソフト、以降10番手までは一番やわらかいハイパーソフトを履いてスタート。実質的な最初のコーナーであるターン2に先頭で入ったのはボッタス、ホイールスピンで出足が鈍かったハミルトンは、一瞬ベッテルに先を越されるも2位を死守。ベッテル、ライコネン、マグヌッセンと上位陣はグリッド順のままオープニングラップを終えた。
動きがない先頭集団に対し、後方では元気のいい若手が躍動。ルクレールはスタートで1つ順位を上げ、さらに翌周にはマグヌッセンを抜き5位へ。また21歳のバースデーレースとなったフェルスタッペンは、一番硬いソフトタイヤを装着し、19番グリッドから一気に13位にジャンプアップ。程なくしてポイント圏内に駒を進め、8周目にはルクレールを抜き5位まで上がってきた。
1ストップが大勢を占めた今回、12周を終えて1位のボッタスがピットインし、ウルトラソフトからソフトタイヤに変更。翌周ベッテル、その次のラップにはハミルトンがタイヤ交換を行った。ハミルトンがコースに戻ると、背後からスピードに乗るベッテルが迫り、ターン2で“赤”が“銀”をオーバーテイク。ベッテルが実質2番手に上がった。
しかしフェラーリの喜びもつかの間、16周目にはベッテル、ハミルトンの激しいつばぜり合いの末に、ハミルトンが再びベッテルの前に出ることとなった。
![]() |
![]() |
メルセデスがチームオーダーを発令、ボッタス首位を明け渡す
18周を終えてライコネンがタイヤを交換。これで、スタートタイヤのままロングランを続けるつもりのフェルスタッペンを暫定首位に、2番手ボッタス、その1秒半後方にハミルトン、そこから2秒差でベッテル、7秒離れてライコネンという位置関係となったのだが、前にフェルスタッペンが居座っている状況は、メルセデスにとって好ましいものではなかった。思うようなペースで周回できず、鼻っ面を抑えられたかっこうの2台のシルバーアローにベッテルが追いついてくれば、まず抜かれるのはハミルトンなのだ。
25周目、メルセデスは予想されていたチームオーダーを出し、ボッタスはそれを素直に受け入れチームメイトを先に行かせた。これでハミルトンが事実上の首位に立ち、ボッタスが2位となって、3位を走るベッテルの前に立ちはだかる壁となった。
終盤まで好調なペースで飛ばしていたフェルスタッペンは、残り10周の時点でようやくピットインを済ませ5位でコースに復帰。これでハミルトンが名実ともに1位、1秒強離れて2位ボッタス、トップから2秒半差で3位ベッテル、4位ライコネンというオーダーとなった。
ゴールが近づくにつれ、ベッテルの脅威から解放され、1-2フィニッシュがほぼ間違いなくなったメルセデス陣営。「このレース、どうやって終えるつもり?」と無線で問う2位ボッタスの真意は、「トップを返してほしい」というものだったはずである。しかし、チームの返答は「このままの順位で」。
宿敵フェラーリを打ち負かし、華々しい1-2フィニッシュを飾ったばかりか、ハミルトンはベッテルに対し50点ものリードを築くことができた。メルセデスにとって結果は文句のつけようもないものだったが、その大量リードと引き換えに遺恨も残った。目の前の勝利を、チームのためにささげることは容易ではない。同時に、ドライバーから優勝を“取り上げる”チームだって気持ちよく喜べない。
硬い表情を崩さず、2位のポジションに立つボッタス。そんなチームメイトにすまなそうな視線を投げかける、最上段の勝者ハミルトン。そして、いよいよタイトルが遠のいてきた3位ベッテル。表彰台にのぼった三者とも、複雑な面持ちだった。
次戦はいよいよ鈴鹿サーキットでの日本GP。10月5日のフリー走行で開幕、決勝レースは10月7日に行われる。
(文=bg)