目玉は「MBUX」のみにあらず!
新型「Aクラス」の進化点を開発キーマンに聞いた
2018.10.19
デイリーコラム
MBUXはすばらしいが……
「ハイ、メルセデス」から始まる新型「メルセデス・ベンツAクラス」のテレビCMを、ご覧になられた方も多いだろう。
そう、新型「Aクラス」のハイライトは、何といっても対話型インフォテインメントシステム「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」である。名前だけでは伝わりづらいのだが、クルマに向かって音声で要望を伝えると、できる範囲でその要望に応えてくれるというもの。つまり音声入力システムである。
いまさら音声入力? と思われるかもいるかもしれないが、MBUXのスゴイところは“自然対話方式”に対応したことにある。従来のシステムでは、最初に「目的地検索」などと発声して、それから住所を伝えるというものが多かったのだが、MBUXの場合はいきなり「東京ディズニーランドに行きたい」でいいのだ。車内が暑いと思ったら「暑い」と言えばエアコンの温度設定を下げてくれるし、会社の先輩に電話をかけたいと思えば「バイパーほった氏に電話して」でOK(アドレス帳に入っていれば)。とにかく、自然な会話を通じてAクラスにコマンドを命じることができる。Appleの「Siri」がクルマに搭載されているようなものといえば伝わるだろうか。
Siriといえば、サービスが開始された当初、変な質問をしてSiriを困らせるのがはやったが、全国各地のメルセデス・ベンツディーラーでもしばらくは、新型Aクラスの試乗車の多くが、変な質問を受けることになるだろう。「アラスカに行きたい」とか、「フォルクスワーゲン・ゴルフについてどう思う?」とか、「私キレイ?」とか。そういった質問を表情ひとつ変えず(変えられず)に受け止めるMBUXのことを思うと胸に迫るものがあるが、筆者もまだ実際にMBUXを体験できていないため、同様のことを画策しているのを告白せねばなるまい。
と、ついここまで書き進めてしまったが、本稿で伝えたいのはそういうことではない。
新型AクラスはMBUXにタイヤとハンドルが付いているわけではない。MBUXがあまりに面白くて便利で(試してないけど)、プロモーション活動もそれを中心としたものとなっているため、新型Aクラスのクルマとしての基本性能についてのアピールが足りていないのではないかと思うのである。本来そういうことはインポーターであるメルセデス・ベンツ日本の仕事だと思うのだが、Aクラス開発のプロジェクトリーダーにお話を伺う機会を得たので、氏の主張をもとに、新型の魅力をお伝えしたい。
シリンダーヘッドは三角形
お話を伺ったのは、独ダイムラーでコンパクトモデル開発のプロジェクトリーダーを務めるオリバー・ゾルケ氏。どちらかといえば「Gクラス」が似合いそうな大男である。
――よろしくお願いします。新型ではボディーサイズがひと回り大きくなりました。クルマが大きくなるのは世界的な潮流ですが、最終的な大きさはどうやって決めるのですか?
オリバー:まずは機能を優先している。確かに今回のAクラスは大きくなっているが、そのおかげでリアシートの空間が広くなったし、荷物もたくさん積めるようになった。あとは市場からの声と、競合車種との兼ね合いで決めている。
――いま、競合とおっしゃいましたが、具体的にどんなクルマのことですか?
オリバー:これはしまったな。具体的な名前は言えないが、われわれにとっての競合車はマーケットによって異なる。日本市場ではこのクルマとこのクルマ、中国市場では……という具合にね。そういったクルマ全体との兼ね合いによって開発を進め、どのマーケットにおいても頭ひとつ抜けているクルマになった……と言うことはできないんだけど、そういう意気込みでつくったクルマなんだ。
――市場からの声で変えたのはどの部分なのでしょうか?
オリバー:視認性を高めたことだ。ピラーを細くすることで、車両の周囲360度における視界を10%以上広げたし、ドアミラーのステーをピラーからドアパネルに移している。あとは乗り心地を向上させた。新型では快適かつスポーティーであると同時に、騒音や振動も減らしたかった。そのためにボディーとサブフレームを完全に新設計して剛性を高め、「Cクラス」と同じ遮音コンセプトによって騒音を減らした。エアロダイナミクスもグレードアップさせて、140km/h走行時の風切り音は先代より30%も低くなっている。日本ではそのスピードは出せないと聞いたが、大丈夫、100km/hならもっと静かに走れる。
――パワートレインについて教えてください。
新開発の1.4リッター(実際は1.33リッター)エンジンについて説明しよう。この「M282」型エンジンにはデルタ型(三角形)のシリンダーヘッドを採用した。通常のヘッドと比べると装着時の高さが上がってしまうが、それでも幅や重さははるかに小さくすることができる。冷やしにくいのが難点だが、それも乗り越えて実装することができた。インマニとエキマニを半一体形状としたことも、エンジンをコンパクトにできた要因だ。触媒コンバーターに遮音シールをしたり、吸気ダクトにヘルムホルツ共鳴器を搭載したりと、静粛性にもこだわっている。とにかく最新のエンジンだ。
――同じエンジンでも気筒休止機構のある「A200」を導入しなかったのはなぜですか?
オリバー:それは……
メルセデス・ベンツ日本 広報担当者:価格やお客さまのニーズなどから判断し、徐々にラインナップを拡大していきます……。
電動化はどう進める?
――4代目Aクラスとして、守らなければいけなかったポイントはありますか?
オリバー:4代目といっても、コロンとしていた初代&2代目と、3代目とでは全然違うクルマになっている。その3代目からキープしたところといえば、スポーティーな走りとカッコイイ見た目だ。それでいながら快適性を高めたクルマを目指した。
――その見た目ですが、フロントはつり目のヘッドランプが目立つ「新世代のメルセデスのデザイン」だと分かるんですが、リアのデザインについて解説をお願いします。今後デビューすると思われるコンパクトカーにも反映する要素などはあるのでしょうか?
オリバー:こちらもまずは機能ありきであり、荷室の使い勝手や空力性能を高めることが第一だった。とはいえ、三角形のリアコンビランプは今後も使っていくと思う。正直に告白すると専門外なので、これ以上のことはデザイナーに聞いてもらいたいな。
――最後にAクラスの電動化の進め方について教えてください。
オリバー:うちのボス(ディーター・ツェッチェ会長)は、2022年にすべてのクルマを電動化すると言っていた。辛抱強く待っていてほしい。
オリバー氏へのインタビューはこれにて終了となったが、このほかにも「Sクラス」と同等の操舵支援機能付きアダプティブクルーズコントロール(セットオプションで24万円もするが)を採用したり、スマートフォンの置くだけ充電が全車に付いていたりと、新型Aクラスの装備は至れり尽くせりである。
オリバー氏の話の中で、筆者が最もすばらしいと感じたのは視認性の向上に関する改良だ。ピラーを細めるというのは車両全体に影響を及ぼすため、非常に手間がかかる。その割に顧客へのアピール力は弱く、いわば頑張りがいに乏しい部分なのだが、こうした点を「カメラがあるんだからいいじゃん」としないのがメルセデスなのである。
まだ乗ってもいない立場で申し上げるのは恐縮だが、少なくともスペックの上では「ライバルと比べてここがダメ」と言われるポイントの少ない、盤石の進化を遂げたといえるだろう。パワフルな仕様も早晩導入されるに違いない。MBUXを最もコンパクトでお求めやすい(絶対的には高いけど)モデルから導入したというのも、極めて戦略的だと思う。
最後にそのMBUXについて、読者の皆さまが気にしておられると思われる点をひとつ補足。日本語へのローカライズに関しては、すでに日本語音声入力システムで実績のある企業とタッグを組んで進めたため、“よほど”の聞き取りづらいものでなければ、方言でも問題なく認識されるそうだ。「アラスカ、行きたいんやけど、どないしたらええん?」(←デタラメ)でもきっと大丈夫!
(文=藤沢 勝/写真=メルセデス・ベンツ、webCG/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。