【F1 2018 続報】第18戦アメリカGP「アイスマン、主役を奪う」

2018.10.22 自動車ニュース bg
F1第18戦アメリカGPを制したフェラーリのキミ・ライコネン(写真右から2番目)、2位に入ったレッドブルのマックス・フェルスタッペン(同左端)、3位に終わったメルセデスのルイス・ハミルトン(同右端)。(Photo=Ferrari)
F1第18戦アメリカGPを制したフェラーリのキミ・ライコネン(写真右から2番目)、2位に入ったレッドブルのマックス・フェルスタッペン(同左端)、3位に終わったメルセデスのルイス・ハミルトン(同右端)。(Photo=Ferrari)拡大

2018年10月21日、アメリカはテキサス州オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で行われたF1世界選手権第18戦アメリカGP。ルイス・ハミルトンが史上3人目の「5冠」を達成するかに注目が集まったが、このレースの主役となったのは、5年間も勝利のなかったキミ・ライコネンだった。

2番グリッドからスタートでトップを奪ったライコネン(写真先頭右)。ポールシッターのハミルトン(同左)は2位に落ちた。(Photo=Mercedes)
2番グリッドからスタートでトップを奪ったライコネン(写真先頭右)。ポールシッターのハミルトン(同左)は2位に落ちた。(Photo=Mercedes)拡大
降格ペナルティーで5番グリッドに落ちたチームメイトのセバスチャン・ベッテルに代わり、ハミルトンとともに最前列に並んだライコネン(写真)は、一番やわらかいウルトラソフトタイヤで絶好のスタートを切ってターン1をトップで通過。ライコネンにとって、2016年アブダビGP以来となる久々のオープニングラップでのポジションアップだった。レース中盤をリードしたハミルトンが2度目のタイヤ交換を行うと再び首位に。終盤は思わしくないタイヤを上手にもたせ、フェルスタッペンの猛攻をかわし、2013年開幕戦オーストラリアGPでロータスを駆り優勝して以来となる、5年ぶりの勝利を飾った。優勝の間隔からすれば、リカルド・パトレーゼの99レースを抜く113レースとなり歴代最長を記録。来季ザウバーに移籍するGP随一の人気者にようやく訪れた歓喜の瞬間だった。(Photo=Ferrari)
降格ペナルティーで5番グリッドに落ちたチームメイトのセバスチャン・ベッテルに代わり、ハミルトンとともに最前列に並んだライコネン(写真)は、一番やわらかいウルトラソフトタイヤで絶好のスタートを切ってターン1をトップで通過。ライコネンにとって、2016年アブダビGP以来となる久々のオープニングラップでのポジションアップだった。レース中盤をリードしたハミルトンが2度目のタイヤ交換を行うと再び首位に。終盤は思わしくないタイヤを上手にもたせ、フェルスタッペンの猛攻をかわし、2013年開幕戦オーストラリアGPでロータスを駆り優勝して以来となる、5年ぶりの勝利を飾った。優勝の間隔からすれば、リカルド・パトレーゼの99レースを抜く113レースとなり歴代最長を記録。来季ザウバーに移籍するGP随一の人気者にようやく訪れた歓喜の瞬間だった。(Photo=Ferrari)拡大

タイトル獲得の条件

ルイス・ハミルトン対セバスチャン・ベッテルの年間王者をかけた戦いは、残り4戦=100点満点で67点差という状況になり、第18戦アメリカGPでハミルトンがベッテルに8点差をつければ、ハミルトンがチャンピオンになるところまできていた。

タイトル決定の条件は、以下の通りだった。

  • ハミルトン優勝、ベッテル3位以下
  • ハミルトン2位、ベッテル5位以下
  • ハミルトン3位、ベッテル7位以下
  • ハミルトン4位、ベッテル8位以下
  • ハミルトン5位、ベッテル9位以下
  • ハミルトン6位、ベッテル無得点

今季これまでの17戦で9勝し、9月のイタリアGPから4連勝中と波に乗るハミルトンは、アメリカGPで連勝を「5」とし、さらにチームメイトのバルテリ・ボッタスを従えてのメルセデス1-2フィニッシュという理想的なシナリオで、史上3人目の5冠達成といきたいところだった。

またチャンピオンシップとは別に、ハミルトンには「単一GP連勝記録」もかかっていた。アイルトン・セナのモナコGP5連勝(1989~1993年)が歴代最多連勝記録となるが、今年ハミルトンがアメリカGPで勝てば、このレコードに並ぶことになる。連勝記録があるということは、つまりハミルトンはCOTAを得意とするということであり、タイトルへの好条件はそろっていた。

一方のフェラーリは、先の日本GPを例にとれば、予選でのギャンブル失敗、決勝でのベッテルの接触&スピンなど、今季後半に相次いだ惨敗により、栄冠が絶望的に遠のいていた。ここ数戦のフェラーリの根本的問題は、マシンやパワーユニットのパフォーマンス不足。シーズン前半にあったメルセデスを凌駕(りょうが)する速さが失われ、逆にメルセデスは弱点を克服し息を吹き返してきた。2強同士の熾烈(しれつ)な開発競争に遅れた結果、各レースで無理をするようになり、これが失策につながったと見ることもできた。

一矢を報いようと、跳ね馬の軍団はフロア周辺をアップデートしたマシンをオースティンに持ち込んだ。

レッドブルのフェルスタッペン(写真)は、予選Q1中に縁石に乗りすぎてサスペンションを壊しQ2で出走できず、ギアボックス交換も行ったことで18番グリッドと後方からスタート。しかしそこからの挽回は見事なもので、1周して9位、7周目には4番グリッドのチームメイト、ダニエル・リカルドの後ろの5位まで順位を上げていた。リカルドがメカニカルトラブルでリタイアし4位を引き継ぐと、バルテリ・ボッタスに対するアンダーカットを成功させ、レース終盤には2位に。一番硬めのソフトタイヤを履いていたライバルより、一段やわらかいスーパーソフトタイヤでのロングランでそのポジションを守り切った。優勝したライコネン、3位に終わったハミルトンという新旧王者に挟まれた、次世代のチャンピオン有力候補の好走だった。(Photo=Red Bull Racing)
レッドブルのフェルスタッペン(写真)は、予選Q1中に縁石に乗りすぎてサスペンションを壊しQ2で出走できず、ギアボックス交換も行ったことで18番グリッドと後方からスタート。しかしそこからの挽回は見事なもので、1周して9位、7周目には4番グリッドのチームメイト、ダニエル・リカルドの後ろの5位まで順位を上げていた。リカルドがメカニカルトラブルでリタイアし4位を引き継ぐと、バルテリ・ボッタスに対するアンダーカットを成功させ、レース終盤には2位に。一番硬めのソフトタイヤを履いていたライバルより、一段やわらかいスーパーソフトタイヤでのロングランでそのポジションを守り切った。優勝したライコネン、3位に終わったハミルトンという新旧王者に挟まれた、次世代のチャンピオン有力候補の好走だった。(Photo=Red Bull Racing)拡大

ハミルトン今季9回目のポール、ベッテルは僅差で2位だったが……

初日の金曜は雨絡みとなり、2回のフリー走行ともハミルトンがトップ。しかし天候が回復した土曜になると赤いマシンが見違えるような走りを披露することとなり、3回目のフリー走行はベッテル、キミ・ライコネンの1-2で終わった。フェラーリは、当初感触が思わしくなかった改良型マシンを、思い切って古い仕様に戻した。そのおかげで速さを取り戻すことができたという、なんとも皮肉な展開となった。

トップ10グリッドを決める予選Q3では、ベッテル、ライコネンにハミルトンを交えた僅差のポール争いが繰り広げられるも、過去2年のポールシッターに一日の長あり。ハミルトンが今季9回目、通算81回目のポール奪取を決めた。ベッテルは0.061秒と僅差の2位、さらにライコネンも0.070秒差で3位。しかしベッテルには、最初のフリー走行で赤旗が出た際、十分に速度を落とさなかったことで3グリッド降格ペナルティーが科されることが既に分かっており、ベッテルは好機を生かせず5番グリッドからのスタートとなってしまった。この降格で、ライコネンがフロントロー、ポールから0.379秒遅れのバルテリ・ボッタスは3番グリッド、ダニエル・リカルドは4番グリッドにそれぞれ1つずつ繰り上がった。

レーシングポイント・フォースインディアは、エステバン・オコンが6位に、セルジオ・ペレスが10位につけた。ルノーのニコ・ヒュルケンベルグ7位の後ろには、ハースチームの母国GPで健闘したロメ・グロジャンで8位。ザウバーのシャルル・ルクレールは9位から決勝に臨むこととなった。

2年連続、5回目の戴冠まであと一歩まで迫ったメルセデスのハミルトン(写真右)は、得意のアメリカGPで3年連続となるポールポジションを獲得するも、レースではライコネンとフェルスタッペンに次ぐ3位。タイトル獲得は次戦以降におあずけとなった。予選、決勝を通じ、メルセデスは過去数戦で見られたマシンのアドバンテージを失い、再びフェラーリに肩を並べられた格好。それでもハミルトンは、ベッテルに対し70点のギャップを保っており、圧倒的有利であることに違いはない。レース後、ライコネン(同左)の勝利をたたえ、自軍の負けを認めていた。(Photo=Mercedes)
2年連続、5回目の戴冠まであと一歩まで迫ったメルセデスのハミルトン(写真右)は、得意のアメリカGPで3年連続となるポールポジションを獲得するも、レースではライコネンとフェルスタッペンに次ぐ3位。タイトル獲得は次戦以降におあずけとなった。予選、決勝を通じ、メルセデスは過去数戦で見られたマシンのアドバンテージを失い、再びフェラーリに肩を並べられた格好。それでもハミルトンは、ベッテルに対し70点のギャップを保っており、圧倒的有利であることに違いはない。レース後、ライコネン(同左)の勝利をたたえ、自軍の負けを認めていた。(Photo=Mercedes)拡大
もはやタイトルは絶望的となったフェラーリ&ベッテル(写真)。予選ではポールタイムの0.061秒遅れという僅差の2番手となったが、フリー走行中の赤旗で減速が不十分だったことに起因する3グリッド降格ペナルティーが決まっており、せっかくのフロントローが5番グリッドになってしまった。レースではオープニングラップでリカルドから4位の座を奪おうとして接触、スピンし入賞圏外に落ちるという、前戦日本GPでも見られたような展開に。チームメイトのライコネンが優勝しただけに、15位から4位フィニッシュには納得がいかない様子で、「勝てるスピードはあった」と悔しげだった。ちなみにベッテルは、11年のGPキャリアの中で、トップ3グリッド以降から優勝したことは1度もないというデータが残っている。(Photo=Ferrari)
もはやタイトルは絶望的となったフェラーリ&ベッテル(写真)。予選ではポールタイムの0.061秒遅れという僅差の2番手となったが、フリー走行中の赤旗で減速が不十分だったことに起因する3グリッド降格ペナルティーが決まっており、せっかくのフロントローが5番グリッドになってしまった。レースではオープニングラップでリカルドから4位の座を奪おうとして接触、スピンし入賞圏外に落ちるという、前戦日本GPでも見られたような展開に。チームメイトのライコネンが優勝しただけに、15位から4位フィニッシュには納得がいかない様子で、「勝てるスピードはあった」と悔しげだった。ちなみにベッテルは、11年のGPキャリアの中で、トップ3グリッド以降から優勝したことは1度もないというデータが残っている。(Photo=Ferrari)拡大

ベッテルはまたも接触とスピンで後退

この週末一番の天候に恵まれた決勝日。56周レースのスタートでトップを奪ったのは、最もやわらかいウルトラソフトタイヤを履き蹴り出しの良かったライコネンだった。特徴的な上り坂のターン1を2位で駆け抜けたのはハミルトン、3位にボッタス、4位リカルド。オープニングラップ中にレッドブルにアグレッシブに仕掛けた5位ベッテルは、前戦日本GPに続き、またしても接触してしまいスピン、15位まで順位を落とした。

それでも、比較的追い抜きがしやすいCOTAということもあり、数周してベッテルは入賞圏に復活。さらに、予選でサスペンションを壊しQ2止まり、ギアボックス交換もあり18番グリッドと後方からの出走となったフェルスタッペンも、7周目にはリカルドの後ろ、5位までポジションを上げていた。レッドブルのタンデム走行は、しかしその2周後にリカルドのマシンがトラブルで止まったことにより、短命に終わることになった。

ここでバーチャルセーフティーカー(VSC)の指示が出たのだが、首位奪還をもくろむハミルトンがここでタイヤ交換に踏み切った。メルセデスは、中間のスーパーソフトタイヤから、一番硬いソフトタイヤを与え、ハミルトンを3位でコースに戻した。大勢が1ストップを予定していたが、メルセデスは2ストップという奇策に打って出たのだ。

VSCが解けると、1位ライコネン、2位ボッタス、3位ハミルトン、4位フェルスタッペン、5位ベッテルという順位に。程なくして2位に上がり、首位ライコネンをフレッシュなタイヤで追ったハミルトンは、7秒あったギャップを瞬く間に縮め、19周目には1秒を切るまでになる。タイヤに苦しむ前方のライコネンは、22周目のピットストップまで、勢いのあるメルセデスを必死に抑え込んだ。

ホンダのパワーユニットの交換で最後列からのスタートとなったトロロッソの2台。しかし、ピエール・ガスリーが予選Q1で7位に入ったのをはじめ、Q2ではガスリー13位、ブレンドン・ハートレー(写真)14位と、そのパフォーマンスはレースごとに熟成が進んでいるようであり、来季からホンダに乗り換えるレッドブルのマックス・フェルスタッペンも期待を寄せるコメントを残していた。レースでは入賞圏が遠く、ハートレー11位、ガスリー14位でチェッカードフラッグを受けたが、エステバン・オコンとケビン・マグヌッセンの失格でハートレーはキャリアベストとなる9位入賞となった。(Photo=Toro Rosso)
ホンダのパワーユニットの交換で最後列からのスタートとなったトロロッソの2台。しかし、ピエール・ガスリーが予選Q1で7位に入ったのをはじめ、Q2ではガスリー13位、ブレンドン・ハートレー(写真)14位と、そのパフォーマンスはレースごとに熟成が進んでいるようであり、来季からホンダに乗り換えるレッドブルのマックス・フェルスタッペンも期待を寄せるコメントを残していた。レースでは入賞圏が遠く、ハートレー11位、ガスリー14位でチェッカードフラッグを受けたが、エステバン・オコンとケビン・マグヌッセンの失格でハートレーはキャリアベストとなる9位入賞となった。(Photo=Toro Rosso)拡大
アメリカをベースとする唯一のチーム、ハースは、3年目の今年に著しい飛躍を遂げ、メルセデス、フェラーリ、レッドブルの3強に次ぐコンストラクターズチャンピオンシップ4位の座を狙える位置にいる。母国GPとしては予選で初めてトップ10に進み、ロメ・グロジャンが8位に入るも、レースではスタート直後にシャルル・ルクレールのザウバーと接触、0周リタイアという残念な結果に。ケビン・マグヌッセンは12番グリッドから9位でゴールしたものの、レース後、規定より多い燃料を使ったことで失格。ランキング4位ルノーが6、7位に入り14点を加算したのに対し、まさかの無得点に終わったハースは、ルノーとのポイントギャップを8点から一気に22点まで広げられてしまった。(Photo=Haas)
 
アメリカをベースとする唯一のチーム、ハースは、3年目の今年に著しい飛躍を遂げ、メルセデス、フェラーリ、レッドブルの3強に次ぐコンストラクターズチャンピオンシップ4位の座を狙える位置にいる。母国GPとしては予選で初めてトップ10に進み、ロメ・グロジャンが8位に入るも、レースではスタート直後にシャルル・ルクレールのザウバーと接触、0周リタイアという残念な結果に。ケビン・マグヌッセンは12番グリッドから9位でゴールしたものの、レース後、規定より多い燃料を使ったことで失格。ランキング4位ルノーが6、7位に入り14点を加算したのに対し、まさかの無得点に終わったハースは、ルノーとのポイントギャップを8点から一気に22点まで広げられてしまった。(Photo=Haas)
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5年ぶりの勝利に喜ぶ“アイスマン”

上位陣のタイヤ交換が一巡すると、ハミルトンが17秒のリードを築いてトップ、2位ライコネン、3位フェルスタッペン、4位ボッタス、5位ベッテル。このままの順位でいけばハミルトンの手にタイトルが渡ることになるが、ハミルトンはライバルより走り込んだソフトタイヤでの苦しい走行を余儀なくされ、さらにもう1回のストップは避けられなかった。

リードタイムが8秒差となった38周目、2度目のタイヤ交換を行ったハミルトンは、再びソフトタイヤを選択。首位ライコネンの12秒後方、4位でコースに戻った。前がボッタスだったこともあり難なく3位となるも、この時点でベッテルは5位を走っており、ハミルトンはもう1台抜いて2位にならなければチャンピオンにはなれない。

残り周回が10周を切る頃には、ライコネン、フェルスタッペン、ハミルトンのトップ3台が接近し、ラスト5周となると3台ともDRS圏内の1秒以内に。あと3周という時点で、ハミルトンが意を決してフェルスタッペンに勝負を仕掛けたが、コースを大きくはみ出しオーバーテイクならず。一方でベッテルはボッタスに襲いかかり、こちらは4位の座を奪うことに成功した。

タイトル争いは決着しなかったが、現役最年長ドライバーの夢は成就することになる。最後の勝利から5年、113レースぶりに表彰台の頂点に立ったライコネン。普段は感情を表に出さない“アイスマン”もさすがにうれしそうな様子で、「もちろん、2位で終わるよりはハッピーに決まってるさ」と語っていた。

同じく喜びの表情を見せていたのは、18番グリッドから優勝目前まで挽回したフェルスタッペン。「残念なことに、最後の3、4周にはタイヤを使い果たしてしまっていた」と言いつつも、自らの走りには満足げだった。そして、そんな2人をたたえていたのはハミルトン。主役の座を奪われた彼の「今日は3位がベストだね」という言葉は、数レースぶりにフェラーリに力で負けたことを意味していた。

ポディウムの下でイタリア国歌を高らかに歌い上げるフェラーリクルーの表情に、ここ数戦には感じられなかった自信が戻ってきていた。遅まきながらのライコネンの勝利、遅きに失した感のあるフェラーリの復活。とはいえ、遅くなっても、ないよりは何倍も良いのだ。

今年最後のバック・トゥ・バックとなる次戦はメキシコGP。決勝は10月28日に行われる。

(文=bg) 

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