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「ロックスター」でスター気分になれるのか?
ミツオカの50周年記念モデルに思うこと

2018.12.10 デイリーコラム 沼田 亨

イメージの起点はカリフォルニア

先日、正式発表されたミツオカの創業50周年記念限定車「Rock Star(ロックスター)」。「マツダ・ロードスター」をベースにカスタマイズしたモデルである。同社では当然ながら公表していないが、2代目「シボレー・コルベット」をモチーフにしているのは一目瞭然。今から55年をさかのぼる1963年に「スティングレイ」のサブネームを付けてデビューした、60年代を代表するスポーツカーの一台であるC2こと2代目コルベットだ。

開発コンセプトなどはすでにニュースでお伝えしているのでここでは繰り返さないが、なぜモチーフがコルベットなのか? 発表会に登壇した同社執行役員の渡辺 稔氏によれば、そこに至る出発点は「今、自分が乗りたいクルマ」だったという。

渡辺氏は1980年代半ば、20代の頃にカリフォルニアで4年間過ごしたそうだ。クルマのない生活は考えられない西海岸で、彼が足にしていたのは中古の「フォルクスワーゲン・ビートル」や「ダットサン・トラック」など。憧れは「フォルクスワーゲン・カルマンギア」や「ポルシェ914」だったという。

自分が今乗りたいのは、そうした青春時代に輝いていた、ドイツ生まれとはいえ西海岸の風景にすっかりなじんでいたスポーツカー。そう確信した渡辺氏は同社デザイナーの青木孝憲氏に思いを伝えた。リクエストを受けた青木氏が描いたデザインスケッチを見た渡辺氏の感想は、「出来はいいが、ピンとこない」。おとなしく、刺激やワクワク感が足りなかったのだという。

そんな渡辺氏の思いが伝わったのか、それから間もなく1枚のデザインスケッチが青木氏から送られてきた。「タイプ カリフォルニア」と題されたこのデザインスケッチこそがロックスターの原案で、渡辺氏は「見た瞬間にこれだ! と思った」という。渡辺氏と青木氏は、かねがね「アメリカ車をテーマにしたクルマを作りたい」と語り合っていたそうで、それがたまたま50周年記念車として具体化したというわけだ。

ミツオカ独自のボディーパネルを使って製作されたカスタマイズカー「ロックスター」。ベースとなるのは、現行型の「マツダ・ロードスター」(ND型)である。
ミツオカ独自のボディーパネルを使って製作されたカスタマイズカー「ロックスター」。ベースとなるのは、現行型の「マツダ・ロードスター」(ND型)である。拡大
こちらは、今回のデザインモチーフとおぼしき2代目「シボレー・コルベット」。エッジの効いたフェンダーやL字型のバンパーなど、特徴的なディテールが「ミツオカ・ロックスター」のエクステリアに反映されている。
こちらは、今回のデザインモチーフとおぼしき2代目「シボレー・コルベット」。エッジの効いたフェンダーやL字型のバンパーなど、特徴的なディテールが「ミツオカ・ロックスター」のエクステリアに反映されている。拡大
「ロックスター」について説明する光岡自動車の渡辺 稔 執行役員。企画の発端となっているのは、渡辺氏が若かりし頃にアメリカ・カリフォルニア州で目にした「フォルクスワーゲン・カルマンギア」や「ポルシェ914」だったという。
「ロックスター」について説明する光岡自動車の渡辺 稔 執行役員。企画の発端となっているのは、渡辺氏が若かりし頃にアメリカ・カリフォルニア州で目にした「フォルクスワーゲン・カルマンギア」や「ポルシェ914」だったという。拡大
ミツオカ ロックスター の中古車

乗る皆さんこそロックスター

コルベットは昔からロックスターに好まれるクルマではあるが、それはさておき、ロックスターという車名にもミツオカならでの思いが込められている。

当初はデザインスケッチのとおりタイプ カリフォルニアと呼ばれていたモデルに、ロックスターと命名したのはデザイナーの青木氏。彼いわく、あるクラシックロック(オールディーズ)のバンドのライブを体験した際に、ステージ上でオーラを発するミュージシャンはもとより、老若男女を問わず、汗だくでノリまくるオーディエンスを見て思いついたのだという。
「ロックに自由や解放を感じるピュアな気持ちは、年齢や性別を超えて共通なもの。それと同様に、純粋にクルマを愛し、楽しさを求める皆さんこそロックスターであり、そうした方々にささげたいという気持ちから名付けました」

理屈抜きでクルマの魅力と自由を表現したとうたうロックスター。身もふたもない言い方だが、客観的に見ればマツダ・ロードスターがベースの、C2コルベット風モデルである。だがレプリカとして見れば、雰囲気は悪くない。全長(4345mm)がC2コルベット(4554mm)より200mmほど短いので伸びやかさにかけるきらいはあるが、その長さの中でうまくまとめたと思う。ちなみに1770mmの全幅と1235mmの全高は、本家(1768mm、1265mm)とほぼ同じである。

ミツオカの長年のクルマ作りの経験からフィニッシュは申し分ないし、中身はロードスターなのだから、まったく心配するところはない。内装はロードスターとほぼ同じなので、乗り込んでしまうとスペシャルな気分が薄れてしまうのは少々残念だが、気軽に往年のアメリカンスポーツの気分を味わえるのは魅力に違いない。

デザインを担当した光岡自動車の青木孝憲氏(写真左端)が、「ロックスター」の特徴について語る。この形は「コルベット」のコピーを目指したものではなく、わくわくするようなカーデザインと(アメリカ車の販売に長く携わってきた)光岡自動車の歴史とを合わせて昇華させたものと説明される。
デザインを担当した光岡自動車の青木孝憲氏(写真左端)が、「ロックスター」の特徴について語る。この形は「コルベット」のコピーを目指したものではなく、わくわくするようなカーデザインと(アメリカ車の販売に長く携わってきた)光岡自動車の歴史とを合わせて昇華させたものと説明される。拡大
インテリアの基本的な造形は、ベースとなる「マツダ・ロードスター」と変わらない。オプションのレザーシート(写真)は、中央にストライプが入れられる。
インテリアの基本的な造形は、ベースとなる「マツダ・ロードスター」と変わらない。オプションのレザーシート(写真)は、中央にストライプが入れられる。拡大
リアコンビランプは、左右2眼ずつのクラシカルなデザイン。トランクリッド右端には車名ロゴのエンブレムが添えられる。
リアコンビランプは、左右2眼ずつのクラシカルなデザイン。トランクリッド右端には車名ロゴのエンブレムが添えられる。拡大

それでもモヤモヤは残る

ミツオカによれば、限定200台のうち先行予約の50台はすでに完売。反響も大きく、非常にポジティブな評価を受けているとのことだから、残りの150台もおそらく時間を置かずに売り切れることだろう。

ちなみにホンモノのC2コルベット愛好家の目にはどう映るのか? サンプル数は若干1名だが、参考までに知り合いの「C2コンバーチブル」のオーナーに尋ねてみた。
「ガレージに同じ色のを並べておいて、雨の日なんかに乗るのはいいかも。僕が(車名はわからずとも)コルベットに乗っていることは知っていてクルマに興味のない近所の人なんかは、2台の違いにまず気付かないでしょう」

そう語った後に、こう付け加えた。
「でも、この種のクルマは、オリジナリティーという意味ではどうなんでしょう? 僕がデザイン関係の仕事をしているからかもしれないけど、どうもそれが気になってしまい、落ち着いて乗れそうにないですね」

理屈抜きで楽しむ気分にはなれないというわけだが、それは筆者も同様。ロックスターがミツオカの単なるニューモデルなら気にならないのだが、同社の創業50周年記念モデルであることが引っかかってしまうのだ。何が言いたいかというと、バンド結成50周年記念として、他人の曲のカバーアルバムをリリースする“ロックスター”はいるのだろうか? ということである。過去に完全オリジナルデザインの「オロチ」を送り出した器量のあるミツオカの作であるだけに、どうにもその点が気になってしまうのだ。

(文=沼田 亨/写真=ゼネラルモーターズ、webCG/編集=関 顕也)
 

2019年度に出荷を予定している50台については、発表時点で売り切れ。ミツオカによれば、そのうちMT車が26台を占め、購入者の年齢層は50~60代が中心(約半数)になっているという。
2019年度に出荷を予定している50台については、発表時点で売り切れ。ミツオカによれば、そのうちMT車が26台を占め、購入者の年齢層は50~60代が中心(約半数)になっているという。拡大
光岡自動車の創業50周年をデザインに盛り込んだバッジ。この意匠も「シボレー・コルベット」のエンブレムを思わせる。
光岡自動車の創業50周年をデザインに盛り込んだバッジ。この意匠も「シボレー・コルベット」のエンブレムを思わせる。拡大
ベースデザインを削り出すクレイモデラーをはじめ、「ロックスター」の開発には“ファッションスーパーカー”「オロチ」に関わったスタッフが多く参画している。
ベースデザインを削り出すクレイモデラーをはじめ、「ロックスター」の開発には“ファッションスーパーカー”「オロチ」に関わったスタッフが多く参画している。拡大
沼田 亨

沼田 亨

1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。

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ミツオカ ロックスター の中古車
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