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「ロックスター」「バディ」「M55」が連続ヒット 人々がミツオカに惹かれるようになったのはなぜか?

2025.03.19 デイリーコラム 今尾 直樹
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オリジナルカーの開発・製造は1980年代から

「人々がミツオカに惹(ひ)かれるようになったのはなぜか?」というお題をいただいたので、これについて考察してみたい。

ミツオカこと光岡自動車は、1968年に富山県富山市で、光岡 進が馬小屋を改装して始めた板金塗装業を原点とする。中古車販売で全国展開を果たしたミツオカは、1980年代に入ると念願のオリジナルカーの開発・製造に乗り出す。「ゼロハンカー」と名づけられたそれは50ccの原付バイクのエンジンを用いた1人乗りの三輪車で、原付免許で乗れる手軽さがウリだった。

余談ながら、筆者は1980年代半ば、その「BUBU 50」シリーズに乗るオーナーを取材したことがある。普通免許取得にちょっと足りない程度の近眼だったその方は、BUBUは自分の移動の自由をものすごく広げてくれた、と感謝しておられた。ミツオカは社会的に意味のあることをやっていたのだ。

1996年、「ロータス・セブン」みたいなカタチの「ミツオカ・ゼロワン」で型式認定を受けたミツオカは、国内で10番目の自動車メーカーとして認められ、「ジャガー・マーク2」風の「ビュート」やロールス・ロイス/ベントレー風の「ガリュー」等、イギリス車の明るいパロディーといいますか、そういう路線に転じて存在感を示す。

そのミツオカが創業50周年記念モデルとして2018年秋に発表したのが、アメリカン路線第1弾となる「ロックスター」だ。「C2コルベット」風のゴージャスなボディーをまとった2座オープンスポーツカーの中身は、「マツダ・ロードスター」(ND)で、限定200台が翌2019年3月に完売。車両価格およそ500万円と、ND型の1.5倍ほどだったにもかかわらず、一部のニッポン人のロックなスピリットに火をつけた。

1982年に発表されたゼロハンカーの「BUBU 50」。ミツオカのオリジナルモデルの原点だ。
1982年に発表されたゼロハンカーの「BUBU 50」。ミツオカのオリジナルモデルの原点だ。拡大
1996年に運輸省の型式認定を受けた「ミツオカ・ゼロワン」。晴れて国内10番目の自動車メーカーとして認められた。
1996年に運輸省の型式認定を受けた「ミツオカ・ゼロワン」。晴れて国内10番目の自動車メーカーとして認められた。拡大
2018年にミツオカの創業50周年モデルとして発表された「ロックスター」。これまでにないアメ車風スタイルが話題に。
2018年にミツオカの創業50周年モデルとして発表された「ロックスター」。これまでにないアメ車風スタイルが話題に。拡大
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販売台数の3倍もの人が購入を希望したM55

続いて2020年11月に発表したのが「バディ」で、こちらは「トヨタRAV4」の現行型をベースに、主にフロント部分を1980年代の「シボレー・ブレイザー」風に仕立て直した、ミツオカ初のSUVだった。リアもちょこっとオリジナルデザインになってはいるものの、改造範囲はAピラー以前に力が入っており、真横から見るとRAV4の看板建築であることが分かる。価格は一番高い「ハイブリッドDX E-Four」で600万円弱と、ベース車両+100万~150万円で、改造度はロックスターの半分程度。限定モデルでもなかったけれど、2022年12月に受注台数1000台を突破するヒット作となる。ミツオカは生産体制を見直すことで年産150台から300台に倍増して対応、2024年9月に完売した旨を発表している。

「M55」は2024年11月に発表された、現行型「ホンダ・シビック」ベースのアメリカンマッスルカー風4ドア+テールゲートのセダンである。したがって、アメリカンマッスルカーのボンネットの下にはクライスラー/ダッジのV8ヘミではなくて、1.5リッターの直4ターボが潜んでいる。駆動方式はもちろんFWD、ギアボックスは6MTのみ。しかも価格は808万5000円と、「シビックRS」の439万8900円のおよそ2倍。筆者は写真でしか見ていないけれど、「ダッジ・チャレンジャー」を思わせるルックスが、映画『バニシング・ポイント』や『ブリット』のファンはもちろん、往時の「ケンメリスカイライン」や初代「セリカ」、それに「ギャランGTO」などに憧れた世代、あるいはそれらを知らないひとたちの心をも動かした。2025年に販売される特別仕様車「M55ゼロエディション」の生産・販売台数は100台、応募者が350名に達した時点で受け付け終了……という発表から1カ月後の2024年12月に応募者が上限に達したという。

ちなみにM55は2023年にミツオカ創業55周年記念として発表した新型で、1968年創業のミツオカと同じ55年の人生を歩んだ同世代の方々をメインターゲットにしている。

「ロックスター」に続くアメ車風スタイルで1000台以上が販売された「バディ」。中身もアメリカで人気の「トヨタRAV4」だ。
「ロックスター」に続くアメ車風スタイルで1000台以上が販売された「バディ」。中身もアメリカで人気の「トヨタRAV4」だ。拡大
2025年に販売される「M55」はミツオカの55周年記念モデル。ボンネットの下にはV8ではなく1.5リッターターボエンジンが収まっている。
2025年に販売される「M55」はミツオカの55周年記念モデル。ボンネットの下にはV8ではなく1.5リッターターボエンジンが収まっている。拡大

見かけ倒しには意味がある

さてそこで、「人々がミツオカに惹かれるようになったのはなぜか?」問題である。

「人々」といっても、ロックスター200台、バディ1000台プラス、そしてM55ゼロエディションが応募者350人、買った人とM55を買いたかった人を全部合わせても1500ちょっと、にすぎない。2024年の日本国内の新車販売台数の442万1494台からすると、ほとんど無視できる数字といってよいのではあるまいか。夢を追いかける富山の町工場だからできる、狭い世界の住民たちを対象とするビジネスなのだ。

大手にはできない、その狭い世界の住民の感性を揺さぶる。これこそミツオカがやってきたことで、それはデザインの力だともいえる。かのジャガーは、のちにサーとなるウィリアム・ライオンズが「オースチン・セブン」にスペシャルボディーを載せたことから始まっている。見かけ倒しには意味がある。

ではなぜ、アメリカンデザインなのか?

もともとアメ車には一定のファンが日本にも存在している。ということはいえるだろう。近年、新旧コルベットや初期の「フォード・ブロンコ」など、古いアメ車への関心も高くなっているらしい。とはいえ、実際に購入するとなると、ホンモノはハードルが高い。V8は燃費も当然それなりだし、サイズもでかければ、信頼性・安全性・快適性に対する不安もある。この点、ミツオカの製品は現代の国産車をベースにしているから、50年前の骨董(こっとう)品より大いに安心に違いない。そもそもミツオカはある種のパロディー商品をつくろうとしているわけで、それにはネタ元の認知度は高いほうがいい。その点、アメ車は分かりやすい。

2023年に登場した「ビュート ストーリー」は「ビュート」の後継モデル。かつてのベースモデル「日産マーチ」の販売終了を機に中身を「トヨタ・ヤリス」に変えてモデルチェンジした。
2023年に登場した「ビュート ストーリー」は「ビュート」の後継モデル。かつてのベースモデル「日産マーチ」の販売終了を機に中身を「トヨタ・ヤリス」に変えてモデルチェンジした。拡大
「ゼロワン」以来の型式認定モデルとなった「オロチ」は2006年に市販モデルが登場。ミツオカはファッションスーパーカーと位置づけていた。
「ゼロワン」以来の型式認定モデルとなった「オロチ」は2006年に市販モデルが登場。ミツオカはファッションスーパーカーと位置づけていた。拡大

偉大なるアメリカへの憧れ

さらに「Make America Great Again」を掲げるドナルド・トランプとも無関係ではあるまい。偉大なアメリカとは、1946年生まれ、ベビーブーマーの彼にとって1950~1960年代のことに違いなく、もしかしてもしかすると、ロックスターもバディもM55も、アメリカで販売したら大ヒットするかもしれない……。RAV4とシビックはかの国でも生産しているはずだから、現地でつくることもできて、関税もかからない。ミツオカにとって米国進出のチャンスである!?

ミツオカは次に、「ダイハツ・コペン」をベースにして、メルセデス・ベンツの「300SL」か「190SLロードスター」をつくったらどうでしょう……という提案で拙文を終わろうと思ったけれど、アメリカが衰退しつつあるいまだからこそ、アメリカが偉大だったころへの憧れがここ日本でも強まっているのだ。おそらく。

「Make America Great Again」な日本車、あるいは、実は過去に存在しなかったノスタルジーに訴える製品に反応する人々はどんな思いを抱いているのか?  その根本には、他人が乗っていないクルマに乗りたい。というごくシンプルな欲望ももちろんあるに違いない。

(文=今尾直樹/写真=光岡自動車/編集=藤沢 勝)

「ヒミコ」は2025年3月13日に10台限定の「ファイナル ヒミコ」をもって生産終了となることが発表されたばかり。ミツオカの次の一手に注目だ。
「ヒミコ」は2025年3月13日に10台限定の「ファイナル ヒミコ」をもって生産終了となることが発表されたばかり。ミツオカの次の一手に注目だ。拡大
今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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