かつての勢いも今は昔……
岐路に立つデトロイトショーの今と未来
2019.01.25
デイリーコラム
開催地は“ビッグスリー”のおひざ元
毎年1月上旬に行われる自動車イベントといえば、日本国内においては千葉・幕張メッセで行われる「東京オートサロン」が有名だが、海外ではアメリカの2大ショーこそが主役だ。近年ではネバダ州ラスベガスで行われるCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)が話題を集めているが、あちらは本来、家電を中心とした最新技術のショーに最新の自動車技術の展示が増えているもの。自動車そのものを発表するモーターショーとして長い歴史を誇るのが、NAIAS(ノースアメリカン・インターナショナル・オートショー)だ。
開催地の名前から、通称「デトロイトショー」と呼ばれることの多いNAIASは、初開催が1907年。実に110年余りの歴史を持つ、伝統のモーターショーである。開催地であるデトロイトは、冬季には厳しい寒さに見舞われることでも知られ、マイナス10度以下になることもしばしば。 ショー会場となるCOBOセンターの脇には、カナダとの国境となるデトロイト・リバーが流れているが、その水面が全面凍結することも珍しくないほどだ。
そんな厳寒の時期に行われるモーターショーに、世界中から自動車メーカーやサプライヤーなどの関係者が集まり、多くの新型車両が発表される。その理由は、アメリカが今なお巨大な自動車マーケットであると同時に、デトロイトがアメリカの自動車メーカー(ゼネラルモーターズ、フォード、FCA)が拠点を置く「モーターシティー」であるからだ。
拡大 |
“ドイツ御三家”が出展を取りやめる
しかし、そんなデトロイトショーも、今年はいつもと趣が異なっていた。かつては欧州からも多くの自動車メーカーが参加していたが、今年はドイツの巨人、メルセデス・ベンツ、BMW、そしてアウディが出展を見送ったのだ。もちろん、これまでも筆者がデトロイトショーを取材してきた中で出展を取りやめた欧州メーカーは少なくはない。すぐに思いつくだけでも、ポルシェ、ボルボ、ジャガー・ランドローバー、ベントレー、フェラーリ、マセラティなどのメーカーが、以前は巨大なブースを構えていた。
21世紀に入ってからも世界的な業界再編が続いたことで自動車メーカーやブランドに“立場”の変化があり、出展が見送られたケースもある。アメリカ市場から撤退したメーカーもない訳ではない。しかし、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、ポルシェなどのドイツ勢は、今なおアメリカおよびカナダに多くの顧客を抱えている。にもかかわらず、今回は極寒のデトロイトショーを避ける方針を打ち出した。日本メーカーも、トヨタやスバルは新型車を発表したが、日産はコンセプトカーを発表したのみ。マツダや三菱は出展そのものをしていなかった。
“ドイツ御三家”が出展を見送った今年のデトロイトショーは、各メーカーのプレスカンファレンスも1月14日の1日でほぼ終わってしまうという寂しいものだった。かつてはプレスデーが3日間にわたり、いずれの日も朝7時すぎから閉場間際の17時までカンファレンスがびっしりという盛況ぶりだった。取材する立場としては時間のやりくりが楽になるものの、一抹の寂しさを感じる。
拡大 |
ショーを盛り上げた地元勢の新車攻勢
そんな出展状況ではあったが、地元デトロイトに拠点を置くアメリカの“ビッグスリー”(ゼネラルモーターズ、フォード、FCA)は巨大なブースに新型車を含む自社ラインナップを華々しく展示した。中でも大勢の注目を集めたのは、フォード・モーターカンパニーである。デトロイト南部のディアボーン地区に巨大なファクトリーを構える同社は、コーポレートカラーであるブルーを基調としたブースを設置。1964年の登場以来、同社の看板車種である「マスタング」の最強バージョン「シェルビーGT500」を発表したほか、こちらも定番の人気SUV「エクスプローラー」の新型を発表した。
シボレーやキャデラック、ビュイックといったブランドを展開するゼネラルモーターズは、キャデラックの新しい3列シートSUV「XT6」を発表。キャデラックには「エスカレード」というフルサイズSUVが存在するが、あちらはシボレーの「タホ」や「サバーバン」と基本シャシーを共有するピックアップ由来のSUVなのに対し、XT6はFFシャシーを使用する。4WDモデルも用意されるが、基本的にはミニバンとのクロスオーバー色が強い3列シートSUVだ。エンジンはフルサイズよりやや小さい、3.6リッターV6を搭載する。
いっぽうで期待された新型「シボレー・コルベット」の発表は見送られた。すでにドイツ・ニュルブルクリンクをテスト車両が走行しているという報道もあり、市販型とはいかずともプロトタイプやコンセプトモデルのお披露目があるかと思われたが、特にアナウンスはなく、現行モデルのスポーツグレードである「ZR1」と「グランスポーツ」の2台を展示したにとどまった。
デトロイトではデカいクルマが主役
ダッジとジープという2大ブランドを展開するFCAは、昨2018年にフルモデルチェンジを行った「ラム トラック」のヘビーデューティー仕様を発表。言うまでもなくピックアップはアメリカ国内の超巨大マーケットである。「フォードFシリーズ」「シボレー・シルバラード」という強力な競合車種が存在するが、第3勢力であるラム トラックも年間数十万台という販売台数を誇る。排気量を拡大してけん引能力などを高めたヘビーデューティー仕様は、前述の競合2車種がいずれもラインナップする人気グレードで、いかにもアメリカらしさを象徴するモデルといっていい。そしてこのラム トラック ヘビーデューティーを発表した席上、開発担当者の「自動車メーカーはより大きなクルマを披露するためにデトロイトを訪れる」という言葉が印象的だった。
2018年には、フォードがセダン市場から撤退することを明らかにするなど、アメリカのビッグスリーは車種ラインナップの整理を進めている。2018年のアメリカ国内における新車販売台数は前年比0.3%増となる1727万台だったが、セダンの販売は13%減少。いっぽうでSUVやピックアップトラックは8%増加し、大型車のシェアは70%に達している。
日本メーカーでは、トヨタがスポーツクーペの「スープラ」を“復活”させ、今年のデトロイトショーにおける主役を担った。さらにレクサスは「LCコンバーチブルコンセプト」を発表。日産は新型車の発表はなかったものの、インフィニティブランドで電気自動車のコンセプトモデル「QXインスピレーション」を発表した。スバルは、スポーツセダン「WRX」をベースにチューニングを加えた高性能モデル「S209」を披露。デトロイトのあるミシガン州をはじめ、アメリカの降雪量の多い地域ではスバルの4WDは高い人気を誇っており、S209を発表した瞬間は拍手と歓声に包まれた。
中国勢の姿勢に変化の兆し
欧州の自動車メーカーでは唯一の参加となったフォルクスワーゲンは、8年ぶりのフルモデルチェンジとなった「パサート」の新型を披露したほか、2019年夏に開催される女子サッカーのワールドカップで、アメリカ女子代表チームのパートナーとなることを発表。サポートカーとして、専用ラッピングが施された3列シートSUV「アトラス」を展示した。そのほか、テネシー州に8億ドル(約870億円)を投じて電気自動車の工場を建設し、2022年から稼働すると発表。そして1月15日にはフォードとの提携を拡大することも発表し、アメリカの自動車業界との強い結びつきを感じさせた。
このように、書き並べてみるとそれなりに見どころがあるように思えた2019年のデトロイトショーだが、実際のショー会場には、やはり例年ほどの熱気は感じられなかった。それまで巨大なブースを構えていたメルセデス・ベンツ、BMW、アウディの不在は大きい。入れ替わるように大きな存在感を示していたのが韓国や中国の自動車メーカーで、キアはなんと2カ所にブースを出展。高級車ブランドのジェネシスや、ヒュンダイも姿を見せていた。また、中国のGACモーター(広州汽車集団)は、EVコンセプトの「エントランゼ」を世界初公開したものの、昨今の政治情勢も影響してか、市販車のアメリカ投入を当初予定していた「2019年」から「近い将来」へと改めていた。
時代の趨勢に取り残されつつある
デトロイトショーは長年、「強いアメリカ」を象徴する新車博覧会であった。ビッグスリーはさまざまなブランドでコンセプトカーや新型車を発表し、最高出力や運動性能を競い合った。プレスカンファレンスはさながらアトラクションのようで、“音”や“動き”によって新型車両の魅力をアピールした。そんな自動車大国アメリカの持つ巨大なパワーに引き寄せられるかのように、欧州をはじめ世界中の自動車メーカーが新型車をデトロイトで発表した。
しかし、近年では自動車に求められるのがパワーや運動性能だけでなくなり、自動運転やEVといった技術が注目されるようになった。そして、それらの発表は1月上旬に開催される家電ショーCESへと移りつつある。加えて、世界的に環境問題への関心が高まる中、「より大きいクルマが好まれる」デトロイトショーは、時代の趨勢(すうせい)に取り残されつつあるという印象を強めた。
そんなデトロイトショーは、来年(2020年)より開催時期を6月に変更する。毎年のように記録的な寒さに見舞われる1月に比べると、緑豊かな初夏のデトロイトはベストシーズンともいえるが、アメリカでは2月にシカゴ、4月にニューヨークと、国際的な2つの自動車ショーが行われる。これまでのデトロイトショーは、アメリカ自動車産業界にとっての新年会のような意味合いも持っていた。開催時期の変更はショーの役割に変化をもたらし、デトロイトは息を吹き返すのだろうか。それとも国際ショーとしての役目を終え、米国内で無数に行われる中規模都市のモーターショーとして続いていくのか。アメリカを象徴するショーの行き先が気になる。
(文=佐橋健太郎/写真=佐藤靖彦、佐橋健太郎、FCA、トヨタ自動車、ゼネラルモーターズ、フォード/編集=堀田剛資)
拡大 |

佐橋 健太郎
-
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来NEW 2026.4.20 2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。
-
毎日でもフェラーリに乗りたい! 「アマルフィ スパイダー」にみる新時代の“跳ね馬”オーナー像 2026.4.17 車庫にしまっておくなんてナンセンス! 新型車「アマルフィ スパイダー」にみる、新時代のフェラーリオーナーの要望とは? 過去のオーナーとは違う、新しい顧客層のセンスと、彼らの期待に応えるための取り組みを、フェラーリ本社&日本法人のキーマンが語る。
-
ランボルギーニが新型BEVの開発・導入を撤回 その理由と目的を探る 2026.4.16 第4のランボルギーニとして登場した2+2のフル電動コンセプトカー「ランザドール」。しかし純電気自動車としての販売計画は撤回され、市販モデルはエンジンを搭載してデビューするという。その判断に至った理由をヴィンケルマンCEOに聞いた。
-
トヨタとホンダのライバル車が同時期に国内デビュー 新型の「RAV4」と「CR-V」を比べてみる 2026.4.15 「トヨタRAV4」と「ホンダCR-V」の新型(どちらも6代目)の国内での販売がほぼ同時期にスタートした。いずれも売れ筋サイズの最新モデルだけに、どちらにすべきか迷っている人も多いことだろう。それぞれの長所・短所に加えて、最新の納期事情などもリポートする。
-
鈴鹿でよみがえった「36年前の記憶」 2026年の“大盛況”F1日本GPを振り返る 2026.4.13 来場者31万5000人の大盛況となった2026年のF1日本GP。その内容は「空前のF1ブーム」といわれたバブル末期のレースからどう変わったのか? 三十余年の変遷を振り返りつつ、F1の魅力について考えてみよう。
-
NEW
ディフェンダー110 X-DYNAMIC HSE P300e(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.20試乗記本格クロスカントリービークルの「ディフェンダー」にプラグインハイブリッド車の「P300e」が登場。電気の力を借りて2リッターターボとしては格段にパワフルになった一方で、カタログ燃費はなかなか悲観的な数値を示している。果たしてその仕上がりは? -
NEW
ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン社長に聞く 日本での展望とスポーツカーの未来
2026.4.20デイリーコラム2025年8月に着任した、ポルシェジャパンのイモー・ブッシュマン新社長。彼の目に日本はどう映り、またどのような戦略を考えているのか? 難しい局面にあるスポーツカーや電気自動車の在り方に対する考えを含め、日本における新しいリーダーに話を聞いた。 -
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。 -
谷口信輝の新車試乗――ディフェンダー・オクタ編
2026.4.17webCG Moviesブーム真っ盛りのSUVのなかで、頂点に位置するモデルのひとつであろう「ディフェンダー・オクタ」。そのステアリングを握ったレーシングドライバー谷口信輝の評価は……? 動画でリポートします。












