「パジェロ」に「マークX」「エスティマ」「キューブ」……
令和元年が絶版車の“当たり年”になった理由を考える
2019.09.25
デイリーコラム
エスティマの敵は身内にあり
今年は各メーカーとも主力車種を廃止するというニュースが多い。三菱の基幹車種でSUV市場の基礎を築いた「パジェロ」は、2019年8月に国内仕様の販売を終えた。今後はLサイズセダンの主力車種であった「トヨタ・マークX」、人気の高かったミニバンの「トヨタ・エスティマ」、居住性の優れたコンパクトカーの「日産キューブ」も生産を終える。2019年はモデル廃止の“当たり年”になってしまうのか。
これらの車種が廃止されることには、それぞれ異なる背景がある。
まずエスティマには、少子高齢化が進んだことが影響を与えた。子どもの数が減れば、ファミリー向けのミニバンも売れ行きを下げるから、エスティマの需要も低下する。
もちろん、これはエスティマだけに突き付けられた問題ではないものの、今はエスティマとほぼ同サイズの「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」が好調に売れている。この姉妹車の登録台数を合計すれば、「トヨタ・シエンタ」や「日産セレナ」にも匹敵するから、いまさらエスティマをフルモデルチェンジしても順調に売れるとは限らない。
ミニバンは海外で売りにくいカテゴリーだから(一部の車種は人気を得ているが)、国内需要が先細りだとフルモデルチェンジしにくい。こういった事情が重なり、エスティマはフルモデルチェンジを受けず、2019年中に生産を終えることとなった。
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キューブを廃止する日産ならではの事情
日産キューブは和風をテーマにした内装が特徴で、背の高いボディーで居住性も高い。現行モデルの発売は2008年で、2010年ごろには1カ月に4000~5000台を登録する売れ筋車種だった。
日産の背の高いコンパクトカーは、今でもキューブだけなので、フルモデルチェンジを待っていたユーザーは多い。フルモデルチェンジが無理なら、マイナーチェンジによって緊急自動ブレーキを装着して、今後も売り続けてほしい。
キューブのような基幹車種をリフレッシュせずに廃止してしまうのは、日産が国内市場を大切にしていないからだ。以前にも書いたが、今はダイハツを除くと、各日本車メーカーは世界生産台数の80%以上を海外で売る。多かれ少なかれ日本市場を軽く見るが、日産はこの傾向が特に強く、生産台数の約90%を海外で販売している。こういった事情もあって、(ユーザーにとっては)大切なキューブを廃止するようだ。
日産では同様の理由により、海外で発表した新型「ジューク」も、現時点では日本に導入する予定がないようだ。
ジュークのように海外では新型を、日本国内では旧型を売る例はほかにもある。ホンダの「アコード」は海外仕様を2017年にフルモデルチェンジしたが、国内ではいまだに旧型を販売している。2020年に入って、ようやく新型をデビューさせる予定だ。
スバルは海外で「レガシィ」をフルモデルチェンジしたが、日本では旧型を改良した。そうなれば少なくとも1年くらいは旧型を売り続けるだろう。
“エコ”に対応しなかったマークX
生産終了に話を戻すと、マークXの場合は、同じトヨタの「クラウン」とは違ってハイブリッド車や2リッターターボエンジン搭載車を用意しなかった。現行のマークXが登場したのは2009年で、2010年代に入るとエコカー減税に対するユーザーの関心が高まり、減税適合がクルマを好調に売るための必須条件になった。しかし、マークXにはそうした選択肢がなく、クラウンに比べるとパワートレインが旧態依然とした設定になっていた。背景には「国内向けの上級セダンはクラウンで十分。ハイブリッド専用車の『カムリ』も選べる」という判断があり、マークXは事実上切り捨てられた。
パジェロは国内の歩行者保護要件に対応できなくなったのが販売終了の理由で、海外では販売を続ける。国内市場のSUVを「アウトランダー」や「エクリプス クロス」に任せるという判断もあっただろう。パジェロを国内で積極的に売りたいなら、改良を施して、歩行者保護要件に対応することも不可能ではなかったからだ。
以上のように、人気の高かった売れ筋車種を廃止するのも、海外で新型をデビューさせながら国内では旧型を売り続けるのも、理由は同じで日本のユーザーを軽く見ているからだ。
もっと選択肢の拡充を!
今の自動車メーカーは、環境性能の向上や自動運転技術の開発などに迫られ、新型車を開発しやすい状況ではない。事情は分かるが、日本国内で新型車の発売が滞り、主力車種の廃止まで進むと買いたいクルマが大幅に減ってしまう。
今は軽自動車の販売比率が40%近くに達するが、すべてのユーザーが積極的に選んでいるわけではない。運転がしやすくて燃費が良く、便利に使えて安全装備の充実したクルマを180万円以下の価格帯で探すと、「ホンダN-BOX」や「ダイハツ・タント」のような背の高い軽自動車になってしまうのだ。そして何よりも軽自動車は国内向けに開発されるから、日本のユーザーの心に響く。
逆に小型/普通車に欲しいクルマは見当たらず、消去法的に人気の高い軽自動車が選ばれている。
日本のユーザーの心に響く小型/普通車を新規開発するのが無理なら、せめて海外で売っている魅力的な小型車を国内にも導入してほしい。日産にはまず新型ジュークを、そして欧州モデルの「マイクラ」やコンパクトな上級SUV「インフィニティQX30」なども発売してもらいたい。
トヨタには「ヤリス(ヴィッツ)」よりもさらにコンパクトな「アイゴ」がある。三菱は海外では魅力的なオフロードSUVの「パジェロスポーツ」を販売している。せめて「日本で買えない日本車」を活用して、ラインナップを充実させるべきだ。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。