【F1 2019 続報】ベッテルとフェラーリ ともに再起を果たしたシンガポールでの勝利
2019.09.23 自動車ニュース![]() |
2019年9月22日、シンガポールのマリーナベイ・ストリートサーキットで行われたF1世界選手権第15戦シンガポールGP。大方の予想を覆すフェラーリの快進撃、その恩恵を受けたのは、1年以上勝利に見放されていた元王者だった。
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“ミニレース”が秘める可能性
来シーズンからF1の予選が大きく変わるかもしれない、というニュースの発端は、フェラーリ代表マッティア・ビノットだった。彼がメディアに語ったところによると、日曜日の決勝に向けたスターティンググリッドを、土曜日の“ミニレース”で決めるというアイデアに全10チームか同意しており、2020年からの導入を目指し調整が進んでいるというのだ。
このミニレースについては、正式な発表があったわけではなく、その詳細もよく分からないままだが、F1に新たな活路を開く可能性はありそうだ。
例えばミニレースを「リバースグリッド」、つまりチャンピオンシップのランキング下位から並べてスタートさせるという案。今季現時点で言えば、無得点で最下位のジョージ・ラッセルが先頭からスタート、ポイントリーダーのルイス・ハミルトンが最後尾からの出走となる。
こうなれば、これまで予選で上位グリッドを独占してきた強豪チームのマシンも後方から追い上げなければならず、アクシデントなども影響すれば、意外性に富んだ順位となるかもしれない。またこのミニレースの順位で本レースのスターティンググリッドが決まれば、翌日の決勝にも不確実性が持ち越され、先が読めない展開にF1の注目度もぐっと上がる、そんな期待が持てるだろう。
そしてミニレース&リバースグリッドは、長くF1を悩ませ続けている“あの問題”の克服にもつながるかもしれない。空力があまりに先鋭化し過ぎたことで、前車をオーバーテイクすることが困難となった昨今のF1マシン。ウイングを大きくしても、リアウイングのフラップが動く「DRS(ドラッグ・リダクション・システム)」を採用しても、まだまだ追い抜きが難しいという状況である。仮に新方式採用となれば、これまで単独で速く走ることに軸足を置いてきたマシン開発の方向性も大きく変わらざるを得なくなる。より速く、かつ、より前車を抜きやすいマシンを全チームが目指すことになれば、長年の持病も解消されるのではないだろうか。
もちろん否定的な意見も聞こえてくる。同じような仕組みは直下のカテゴリーであるF2で導入済みであるが、モータースポーツの最高峰カテゴリーにふさわしいかどうかという見方もあるだろう。トップ・オブ・トップのレーシングドライバーによるここ一発の速さ、高性能マシンの究極のスピードを堪能できる機会が予選。F1のアイデンティティーといってもいいこの魅力が失われ、よりエンターテインメント性に重きを置くとなれば、賛否両論があってもおかしくない。
再来年の2021年に予定される大がかりなレギュレーション変更に際し、1982年を最後に禁止されてきたグラウンドエフェクトカーの復活も検討されている。2017年からF1のかじ取り役を担っているリバティ・メディアは、既成概念にとらわれない、新しいかたちの“モータースポーツの最高峰”を求めており、今回のミニレースの検討が本当ならば、チームを含めたGPサーカス全体の、自らを変革させようという機運の高まりを表しているのかもしれない。
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フェラーリが予想外の快進撃 ルクレール3戦連続ポール
夏休み明けのベルギーGP、イタリアGPと高速コース2連戦でしっかりと勝利したフェラーリ&シャルル・ルクレール。その間、「ホンダ・スペック4」の投入でペナルティーが重なったレッドブル勢も、シンガポールから反撃を開始したいところだった。
しかし、金曜日の2回のフリー走行ではマックス・フェルスタッペンとハミルトンの2人が抜きんでていたものの、土曜日の3回目のプラクティスになると、ルクレール、セバスチャン・ベッテルの1-3と、空力面を改良してきたフェラーリが一気に盛り返してきた。
予選になると、Q1でメルセデス1-2、続くQ2ではフェラーリ1-2、そしてトップ10グリッドを決めるQ3に入ると、予想以上の速さで赤いマシンが快進撃を続けることになる。ポールポジションを獲得したのはルクレールで、3戦連続、今季誰よりも多い5回目の予選P1奪取に成功。ベッテルは3位だったが、最初のアタックで見せた攻めた走りは、ここしばらくなかった自信を感じさせるものだった。
メルセデス勢のトップはハミルトンで、ポールタイムから0.191秒遅れての2位。「どこでフェラーリはペースを上げてきたんだ?」と、ハイスピード向けとされてきたスクーデリアの、市街地コースでの速さに驚いていた。シルバーアローのもう1台、バルテリ・ボッタスは5位がやっと。レッドブル勢は3強の3番手というポジションにとどまり、フェルスタッペンはトップから0.596秒離され4位、アレクサンダー・アルボンは6位だった。
3強の後ろではマクラーレンとルノーが激しく争い、カルロス・サインツJr.のマクラーレンが中団グループでトップとなる7位。ダニエル・リカルド8位、ニコ・ヒュルケンベルグ9位とルノー勢が食い込むも、セッション終了後にリカルドのMGU-Kにルール違反が発覚し失格。その後方が繰り上がり、ヒュルケンベルグ8位、マクラーレンのランド・ノリス9位、ギアボックス交換で降格となったレーシングポイントのセルジオ・ペレスに代わりアルファ・ロメオのアントニオ・ジョビナッツィが10番グリッドからスタートすることとなった。
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首位ルクレールがアンダーカットされ2位に
マリーナベイは、前戦イタリアGPが行われたモンツァの倍以上となる23のコーナーが配された市街地コース。壁ギリギリのライン取り、忙しいステアリングさばき、2時間近い長丁場、そして高温多湿な気候と、シンガポールGPはF1屈指のタフさが要求されるナイトレースである。
そんな過酷な戦いの幕開けでトップを守ったのはルクレール。2位ハミルトンを3位ベッテルがアグレッシブに攻めるも抜けず、4位フェルスタッペン、5位ボッタス、6位アルボンと上位陣はグリッド順のままスタートをきった。
レース序盤は、トップのルクレールがペースを遅めにコントロールし、後続の各車も1秒程度の等間隔をキープしながら周回を重ねた。鼻っ面を抑えられた集団が隊列を組みつつ、しかし徐々にタイヤの摩耗も進んでいくという我慢の展開だ。
動きが見られたのは61周レースの20周目のこと。3位ベッテルと4位フェルスタッペンがピットに飛び込み、ソフトタイヤからハードに換装した。このピットストップが、レースの勝敗を左右することになる。翌周、首位のルクレールがタイヤ交換に踏みきると、その間にフレッシュなハードで飛ばしていたベッテルが前に出て、ルクレールがその後ろにつくという順位変動が起きたのだ。
メルセデス勢は、23周目にボッタスをピットに入れるも、ハミルトンは26周までスティントを引っ張った。チャンピオンチームらしからぬ遅きに失した作戦により、ハミルトンは2位から4位に転落。結果的にシルバーアローは2台ともポディウムに到達することなく終わるのだった。
ジョビナッツィやガスリーがノンストップのまま走行を続け先頭集団を形成するも、事実上の順位は1位ベッテル、2位ルクレール、3位フェルスタッペン、4位ハミルトン、5位ボッタス。長丁場のレースはスタートから1時間、周回数はまだ半分を残していた。
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392日ぶりにポディウムの頂点に立ったベッテル
この日のベッテルは、スピンやクラッシュで自滅していた頃のベッテルとは違っていた。落ち着いた走りで2位のルクレールに対し6秒ものリードを築き、その後3度も入ることになるセーフティーカーでその“貯金”が減っても、堂々と首位を守り続けた。
まずは36周目、ジョージ・ラッセルのウィリアムズとロメ・グロジャンのハースがぶつかり、ウィリアムズがウオールにヒットしてストップしたことで1回目のセーフティーカー。41周目に再スタートがきられるも、44周目、ペレスのレーシングポイントがメカニカルトラブルでコース上に止まってしまったことで、2回目のセーフティーカーが入った。
レースが再開したのは48周目のことだが、またしばらくすると3度目のセーフティーカー。今度はダニール・クビアトのトロロッソとアルファ・ロメオのキミ・ライコネンの接触で、アルファ・ロメオがコース脇で動かなくなったためだった。
残り10周でグリーンフラッグが振られ、最後のスプリントレースへ。今回もベッテルがしたたかに首位の座をキープし、フェラーリは1-2のままゴールまで突き進んでいった。しかし、2番目の赤いマシンをドライブしていたルクレールは心中穏やかではなかった。チームのピット戦略でトップを明け渡したことに納得がいかず、「正直に言うけど、ベッテルが自分をアンダーカットしたことは理解できない」「フェアじゃない」と強い口調でチームに迫っていた。
悲喜こもごものスクーデリア。2位に終わったルクレールにとっては、チームの作戦で“勝利を失った”ことになるだろうが、ベッテルはベッテルで、幸運に恵まれながらも気迫のこもったドライブで勝ち得た1勝だった。
「ここ最近はベストな状況じゃなかった。でも信じられないくらいの多くのサポート、たくさんの手紙、素晴らしいメッセージをもらった。事がうまく運ばない時にみんながどうしたか、そんな話に励まされた。そこで得た思いを、今日コース上ですべてぶつけてみたんだ」
レース後のベッテルの言葉である。前戦イタリアGPでは単独スピン、危険なコース復帰でペナルティーを受け13位と、2連勝したルクレールとは対照的なふがいない結果に終わっていた。もはや彼は再起不能ではないかとさえささやかれながら、見事によみがえったベッテル。その原動力は、ファンからの熱い応援と、彼に自信を与えてくれるマシン。予想を上回るフェラーリの速さ。その恩恵を一番受けたのは、実に392日ぶりにポディウムの頂点に立った元王者だった。
2008年以来となる3連勝を飾ったフェラーリ。かなり遅咲きとなったが、最古参チームの再興が2019年の後半戦をおもしろくさせているのは違いない。
次戦ロシアGP決勝は、1週間後の9月29日に行われる。
(文=bg)
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