【F1 2019 続報】フェラーリのルクレール 悲願の初優勝を亡き友にささげる
2019.09.02 自動車ニュース![]() |
2019年9月1日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで行われたF1世界選手権第13戦ベルギーGP。ここまで勝ち星のなかったフェラーリが、ストレートでの速さを生かして週末のレースを駆け抜けた。
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シーズン途中の降格と昇格 来季は最多レースに
昨年の今時分を振り返れば、ダニエル・リカルドのレッドブル離脱&ルノー移籍、フェルナンド・アロンソの事実上の引退表明などビッグニュースが相次いだが、今年も話題に事欠かない夏となった。
まずは、前戦ハンガリーGPの翌週にレッドブルが発表したドライバー交代。シーズン後半の開幕戦ともいえる第13戦ベルギーGPから、不振のピエール・ガスリーをジュニアチームのトロロッソに降格させ、代わりにトロロッソの新人アレクサンダー・アルボンをトップチームに昇格させたのだ。2016年の途中にはダニール・クビアトとマックス・フェルスタッペンを入れ替えるなど、非情ともいえる決断を下すことで知られるレッドブル。今回の交代劇の背景には、現在コンストラクターズランキング2位のフェラーリに対抗するため、という狙いがあった。
フェルスタッペンは、オーストリアGPとドイツGPで今シーズン2勝し、ハンガリーGPではポールポジションからルイス・ハミルトンとの激戦の末2位と、シーズン中盤に快進撃を続けていた。チームメイトのガスリーはといえば、表彰台からも遠い中団勢との争いの中にいるなど低迷し、ポイントはフェルスタッペンの3分の1にとどまっていた。コンストラクターズ選手権で44点先を行っていた2位フェラーリは十分に射程圏内。チャンピオンシップでも、またレースを戦う上でも、レッドブルは“より安定してポイントを稼げるナンバー2ドライバー”を欲しているのだ。
シーズン前半だけで150点もの大量リードを築いてしまったメルセデスは、来季のドライバーラインナップを確定。在籍3年目のバルテリ・ボッタスか、リザーブドライバーのエステバン・オコンかの二者択一を迫られたシルバーアローの軍団は、これまでの実績と安定感を優先させ、ボッタス残留を決めた。
ポテンシャルはトップクラスと評価の高いオコンは、来季ルノーでレースにカムバック、優勝経験があるリカルドとタッグを組むことになった。ルノーから“追い出される”こととなったニコ・ヒュルケンベルグは、まだ去就が明らかにされていないものの、ロメ・グロジャンの代わりにハースに移籍か、とうわさされている。
来年の暫定レースカレンダーも公表された。4月のベトナムGP、5月のオランダGPと2つの新顔が加わり、ドイツGPの一戦のみがドロップ。これまで維持されてきた「年間21戦まで」という“とりで”が崩れ、史上最多の22戦で争われることが濃厚となった。
21戦を超えるとエントラントの負担増につながるとして、チーム側の理解がなかなか得られなかった経緯があるが、昨今問題となっていたGP開催権料の高騰に対処した結果、F1全体の興行収入は減る傾向にあることも事実。そうなれば、チームに入る分配金も目減りすることになってしまう。連戦続きでスタッフのケアや遠征費も気にしなければならない一方、開催権料の単価が下がるとなればレース数を増やすしかない。こうしたジレンマに、今後F1がどう向き合っていくのか。夏休みは終わったが、大きな宿題が残されることになった。
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フェラーリが第2戦バーレーンGP以来の最前列独占
2019年のF1は、サマーブレイクという“休戦”から残り9戦の後半戦に突入した。これまでの12戦では、ハミルトンが8勝し62点という圧倒的なリードを構築。2勝ずつを分け合ったランキング2位のボッタスと3位フェルスタッペンは、わずか7点差という拮抗(きっこう)した戦いとなっていた。フェラーリはといえば勝ち星なしで、セバスチャン・ベッテルが4位、シャルル・ルクレールは5位。ベッテルが最後に勝ったのは、ちょうど1年前のベルギーGPだった。
フェラーリの最大の武器であるストレートスピードを生かせる、屈指の高速コースで行われるベルギーとイタリアは、跳ね馬反撃の絶好の場所。実際、今年のベルギーGPでは3回のプラクティスから予選Q1、Q2までフェラーリ1-2となり、Q3でも第2戦バーレーンGP以来となるフロントロー独占に成功したのだった。ポールポジションを獲得したのはルクレールで、自身3回目の予選P1。ベッテルは、若いチームメイトに0.748秒もの大差をつけられてしまった。
2列目には、新しいパワーユニット「フェーズ3」をデビューさせたメルセデス勢が並び、ハミルトンはベッテルからわずか0.015秒遅れの3位、ボッタスは4位。レッドブルのフェルスタッペンが5位に続いた。ルノーは2台ともQ3に進出し、リカルド6位、ヒュルケンベルグは7位に入るも、パワーユニット交換で5グリッド降格。その後続がそれぞれ繰り上がり、アルファ・ロメオのキミ・ライコネン、レーシングポイントのセルジオ・ペレス、ハースのケビン・マグヌッセン&グロジャン、そしてリカルドがトップ10グリッドに入った。
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大応援団の前でフェルスタッペンは早々にリタイア
過去2回ポールを取りながら初優勝を逃してきたルクレールにとって、3度目の正直となるか。GP最長7kmのコースを44周して行われるレース。そのスタートでまずはトップを守ることができたものの、僚友ベッテルは鋭角のターン1で外にはらんでしまい、ハミルトンに2位の座を奪われた。それでも続く急坂「オールージュ」の先のストレートでスリップストリームを使い、程なくしてフェラーリは1-2を奪還することができた。
その直後、オールージュの途中でウオールにめり込むマシンが目に飛び込んできた。この週末、多くの観衆の注目の的となっていたフェルスタッペンのレッドブルだった。スタートで出遅れたフェルスタッペンは、ターン1でライコネンのアルファ・ロメオと接触。その影響でフロントサスペンションが壊れ、止まりきれずクラッシュに追い込まれたのだ。
これでオープニングラップからセーフティーカーが登場。ルクレールを先頭に、2位ベッテル、3位ハミルトン、4位ボッタス、5位には、6つも順位を上げていたランド・ノリスのマクラーレンがつけ、5周目にレースが再開した。ルクレールが上手に再スタートし瞬く間に1.5秒のリードを築いた一方、2位ベッテルは後れを取り、メルセデスの2台に迫られてしまう。その後もハミルトンは1秒前後の僅差でベッテルを視界にとどめ続けた。
15周を終え、上位陣の先陣を切ってベッテルがピットイン、ソフトタイヤからミディアムに履き替えた。目の前がクリアになったハミルトンには「いまが重要だぞ」とげきが飛び、その5秒近く前の1位ルクレールにも「要注意だ」との指示。後方では、ニュータイヤのベッテルが好ペースで追い上げてきていた。
22周目、首位ルクレールがミディアムに換装しコースに戻ると、ベッテルの後ろの4位で復帰。翌周にハミルトン、24周目にはボッタスとメルセデス勢が立て続けにピットストップを行うと、1位ベッテル、3秒後ろに2位ルクレール、そこから7秒も離れて3位ハミルトン、さらに4位ボッタスというオーダーとなった。
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ルクレールがハミルトンの追撃を振り切り悲願の初優勝
チームメイトに1位の座を取られてしまったルクレールは、2周もするとベッテルとの差を1秒以下にまで削り、赤いマシン同士が連なった。27周目、フェラーリはチームオーダーを出し、ルクレールをトップに戻した。
そう、フェラーリの敵はメルセデスなのだ。先んじてピットに入っていたベッテルのタイヤの状態を考えると、ベッテルを“壁”とし、ハイペースで1秒以下に迫っていた3位ハミルトンの行く手を阻む方が合理的であった。しかしフェラーリのこの作戦も、32周目、ストレートでハミルトンがベッテルをオーバーテイクしてしまい、頼みの壁が決壊してしまう。ベッテルはすぐさまピットに入り、ソフトタイヤを与えられ最終的に4位でゴール。1年ぶりの勝利を狙えただけに惜しい結果だったが、ファステストラップのボーナス1点がせめてもの慰めとなった。
ベッテルが脱落したことで、フェラーリの望みは、6.5秒差でトップを走るルクレールに託された。1周ごとにタイムを削ってくるハミルトンだったが、前戦ハンガリーGPのような劇的逆転を起こす力はなかった。王者のプレッシャーに屈することなく、GP2年目の21歳ルクレールが、悲願の初優勝を遂げた。
表彰台の頂点に立つルクレールも、0.9秒差で2位に終わったハミルトンも、3位ボッタスも、シャンパンをかけあうことはなく静かにセレモニーを終えた。ルクレールは、「子供の頃からの夢だった」というF1での初勝利を、前日のF2レースの大事故で亡くなった22歳のフランス人ドライバー、アントワーヌ・ユベールにささげると語った。
ルクレールやユベール、オコンやガスリーといった若手ドライバーは、幼い頃からカートやジュニアカテゴリーで丁々発止とやりあってきた同年代組である。戦友の早すぎる死を悼むルクレールは、「初優勝を素直に喜べないけれど、一生忘れない思い出になると思う」と、複雑な胸中を明かしていた。
次はフェラーリの本拠地イタリアでのGP。今シーズンのヨーロッパにおける最後のレースとなる。決勝は、1週間後の9月8日に行われる。
(文=bg)