世界統一戦に向けた第一歩 史上初! DTMのシーズン最終戦に日本のSUPER GTマシンが参戦
2019.10.23 デイリーコラムトヨタ、日産、ホンダのGT500マシン3台が渡独
2019年10月5日~6日、ドイツ・ホッケンハイムリンクで、ドイツツーリングカー選手権(DTM)のシーズン最終戦が行われた。このレースにレクサス(トヨタ)、日産、ホンダという日本のチームが、SUPER GT GT500クラスのマシンで参戦。DTM史上初となる、日本勢の走行シーンを見ることができた。
そもそもなぜDTMマシンとSUPER GTマシンが一緒に走っているのか? 実は近年、SUPER GTを運営するGTAと、DTMを運営するITRは、将来的な統一戦の開催を目指し、「Class One(クラス1)」と呼ばれる車両規定の統一化に向けて準備を進めてきた。
すでに2014年から部品の共通化が始まっており、カーボンモノコックやフロントスポイラー、アンダーフロア、リアディフューザーは同じスペックに。トランスミッションやドライブシャフト、ブレーキ、さらにECUなどの電子部品も共通化することで性能の均衡とコスト削減を図っている。
SUPER GTではエンジンは2リッター直列4気筒ターボで、駆動方式は原則的にFRだ。今シーズンまでは特例で「ホンダNSX」のみミドエンジン方式を採用してきたが、来年からはFRとなることが発表された。
DTMマシンは、昨シーズンまでは4リッターV8自然吸気エンジンを搭載していたが、今シーズンから2リッター直列4気筒ターボに移行。GTAとITRは、エンジンのスペックがそろったこのタイミングで一度交流戦を、という運びとなったわけだ。
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際立っていたアウディの強さ
エンジンやモノコックなどは統一されたというものの、細かなレギュレーションが異なるDTMの公式戦に、SUPER GTのマシンが参戦するというのはなかなか異例の出来事だ。今シーズンのDTMは「アウディRS 5 DTM」をドライブするレネ・ラスト選手が18戦中7戦で勝利し、すでにチャンピオンシップを獲得。そのためシリーズの結果には影響がなかったが、ITRとしても思い切った決断をしたものだと思う。
SUPER GTは土曜に予選、日曜に決勝というスケジュールで、基本的に2人のドライバーで300~500kmを走る耐久レースだ。一方のDTMは、土曜と日曜にそれぞれ予選と決勝を行う2レース制。決勝は約1時間で、ドライバーは1人のスプリントレース形式だ。
今回のDTMへの遠征は、トヨタからは「レクサスLC500」がエントリーし、ドライバーは土曜日を平川 亮選手が、日曜をニック・キャシディ選手が担当。「日産GT-R」は、松田次生選手とロニー・クインタレッリ選手がドライブした。ホンダNSXは相棒の山本尚貴選手が鈴鹿でF1をドライブする準備があるため、土日の両レースともジェンソン・バトン選手が担当した。
レースの結果はといえば、日本メーカーの惨敗だった。今シーズンのDTMは、先に書いたRS 5 DTMのアウディと「M4 DTM」のBMW、そして「ヴァンテージDTM」のアストンマーティンという3ブランドで争われているが、今回の最終戦でも特にアウディの強さが光っていた。このホッケンハイムで2019年シーズンを終えた結果は、ドライバーズタイトルではアウディが1、2位を、マニュファクチャラーズタイトルでは1~3位を独占したかたちとなった。
来る2019年11月23日~24日、今度は日本の富士スピードウェイに7台のDTMマシンがやってきて、SUPER GTマシンとのバトルが予定されている。SUPER GTのシーズン終了後なので、特別交流戦というかたちだ。
DTMでは惨敗だった日本勢の巻き返しはなるのだろうか? 先述したようにDTMはドライバーが1人のスプリントレース、SUPER GTは2人の耐久レースだが、こうしたフォーマット以外にもたくさんの相違点がある。
ホームで迎え撃つ日本勢に勝機は!?
中でも最大のポイントになるのがタイヤだ。SUPER GTでは、ブリヂストン、ヨコハマ、ダンロップ、ミシュランという4メーカーが、それぞれのチームに合わせて究極の性能を追求したタイヤを供給する。一方でDTMはハンコックのワンメイクで、基本的にドライとウエットの2種類のみ。まったく足まわりのセッティングが異なるのだ。
レース後のドライバーのコメントを聞く限り、ホッケンハイムで日本メーカーはこのタイヤの特性にマシンを合わせ込むことができなかったようだ。特にウエットは難しかったようで、あるドライバーは「まるで氷上を走っているようだった」とコメントしていた。ジェンソン・バトン選手をもってして「雨が降ったらレースにならない」と言わしめた通り、大雨に見舞われた日曜日のレースではドイツ勢にまったく歯が立たなかった。
さらに、DTMマシンには「DRS(可変リアウイング)」に加えて、「プッシュtoパス(P2P)」というインディやフォーミュラEと同じシステムが採用されている。P2Pとは一時的にパワーをアップさせることができるもので、これを搭載することでオーバーテイクが起きやすくなり、レース展開が盛り上がるようになる。
SUPER GTマシンにはこれらの装備はない。代わりといってはなんだが、GT300という1つ下のクラスのレースと混走することで、常に追い抜くシーンが発生し、追う側と追われる側との駆け引きが求められるレース展開が繰り広げられる。
日本勢にとって今回のホッケンハイム遠征は、あくまでDTMの1戦ということもあり、慣れないハンコックタイヤを履き、DRSやP2Pがない状態での戦いだった。SUPER GTマシンが立ち向かうのはどだい無理だったという見方もできる。しかし、これは、将来的にクラス1規定に基づいたマシンがグローバルに広がり、欧州やアジアなどでも統一戦が行われることを見据えた、歴史的な第一歩でもあるのだ。
11月の富士スピードウェイでの交流戦に関するレギュレーションはこれから詰めていくということだが、契約の問題などもあり、ハンコックタイヤのワンメイクによるスプリントレースという部分は変わらなさそうだ。あとはDTM側のDRSやP2Pの使用を、GTAおよび日本のチームが認めるか否かなどが問題になるだろう。
DTMからは、アウディが4台とBMWが3台の、計7台がやってくる。シリーズチャンピオンのアウディのレネ・ラスト選手や、シーズン3位となったBMWのマルコ・ウィットマン選手などトップドライバーが集結。さらに、BMWの1台をなんと小林可夢偉選手がドライブするというサプライズも発表された。
DTM VS SUPER GT、果たしてどのような戦いが繰り広げられるのか、大いに注目だ。
(文=藤野太一/写真=アウディ、ITR/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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