第156回:乗り心地世界一決定戦
2019.12.24 カーマニア人間国宝への道乗り心地のいいクルマが欲しい
以前この連載で、「『アウディA6』のあまりの乗り心地のよさに衝撃」ということを書きました。
昔は乗り心地なんてそんなに重視してなかったし、硬い乗り味もそんなに苦にならなかった。「シビックSiR」(EF9型)に乗ってた時は、スポーツサスを入れて車高を落としたら、内臓が痛む(たぶん錯覚です)レベルで硬くなっちゃったけど、それを楽しむ余裕もありました。
しかし、年とともに乗り心地が大事な要素になってまいりまして……。乗り心地がいいクルマはステキ! 乗り心地がよくなくちゃもうイヤ! フェラーリですら。
今度のスッポン丸(黒の『328GTS』)は、タイヤが新しいので乗り心地がとってもよくて、本当にありがたいです。なにせ赤い玉号(赤の328GTS)は、タイヤが10歳オーバーでしたので。タイヤくらい替えろや! ではありますが。
とにかく、新型A6の乗り味は、これまでとは別次元。なんでこんな乗り心地が実現できるんだろう? どーなってるの!? と思うほどイイ。
しかし、自分としては引っかかる部分もあった。新型A6より上級の新型「A8」に、まだ乗っていなかったので。
A6でこんなイイっつーことは、A8はどうなってんだべ?
そう思っていたところ、先日実施されたアウディのオールラインナップ試乗会にて、A6とA8を同時に乗り比べることができました!
「A6」と「A8」を比較試乗
まずはおさらいで、「A6アバント」に試乗。
以前は首都高など都内でA6セダンに乗ったのですが、箱根でもA6の乗り心地はすばらしかったであります!
最近、プレミアムセダン系の世界では、かなりソフトな足が主流で、メルセデスの「Sクラス」や「BMW 7シリーズ」、マイチェン後の「レクサスLS」あたりも、結構フワフワとサスがストロークしながら走る傾向がある。ついでにヘッドレストもフワフワが主流! まるでお姫様になった気分でちゅ! それはそれで大変気持ちがいいものです。
ところがA6は、最小のストロークで最高の乗り心地を実現しているイメージなのですよ。なにせムダな動きがまったくない! 路面から浮かんでるみたいなのに、サスがムダに動かない! だから余計に浮かんでるみたいに感じるのか。
普通の金属バネに可変ダンパーという割合フツーのメカで、ここまでの乗り心地を実現してるのは、本当に信じられない。地味だけどすごすぎる! 硬派というか根性というか。
で、その親玉であるA8はどうなのか。
「こっちはもっとすごいよ。全部電子制御だから」
試乗前、たまたま高平高輝さんにそうアドバイスされました。そーなのか。こっちはフルアクティブサスなのか。じゃもっとすごくて当然でちゅかね? 自分とはまったく無縁のクラスに属するクルマながら、カーマニアとしては、やっぱり頂点を知りたい! 現在の自動車界における乗り心地の頂点はどっちだ!?
走りだして数メートル。
「これはこれでスバラシイ……」
そう思いました。
「A8」で逆側ロールを体感
でも、A6にはなかった、ほんのわずかな違和感もあった。その分、わずかながらステアリングインフォメーションが薄くも感じた。まぁこのレベルの巨大セダンに乗って、そんなこと言うのはお門違いではありますが。
ワインディングを走ると、そりゃもうやっぱり凄(すさ)まじいばかりに乗り心地がイイ。A6よりさらに一段、路面の当たりがしなやかでジェントル。でも、曲がるたびにちょびっとだけ違和感がある。
なんでだろ……と思って目を凝らすと、コーナーでまったくロールしていない!
いや、感覚的には、ほんの少しだけ逆側にロールしてる! モーターボートみたいに! 左に曲がる時は左側のサスが沈んでる!
これがいわゆるフル電子制御。いやそれを超えた、先を予測する「プレディクティブアクティブサスペンション」というヤツなのですね!?
自動運転技術を応用して、車載カメラから路面状況を識別し、その凸凹などに応じてあらかじめサスペンションの設定を自動で調整するということらしいですが、「次は左コーナー!」と思ったら、逆に左側のサスを沈めて待つってわけですか! いや、どっちかっつーと右側のサスを伸ばしてるのかな……。
どっちにせよハンパねぇ!
池之平カメラマンが撮った写真を見ても、確かにほんのわずか、コーナーで逆ロールしているように見える。厳密にはどうだかわかんないけど、感覚的にはそう感じる!
うーん、これはちょっとやりすぎでちゅね……。
正直なところ、A6との比較で、それほどのメリットは感じなかったのです。
やっぱり自然な感覚で最大限最高の乗り心地を実現してるのはA6! それを確信しました。
ということで、現時点での乗り心地世界チャンピオンはA6で確定だ! 押忍押忍。
(文=清水草一/写真=池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。