メルセデス・ベンツCLA200d(FF/8AT)
美意識の値段 2020.01.28 試乗記 輸入車コンパクトクラスで唯一の4ドアクーペとして人気を博した、メルセデスの「CLA」がフルモデルチェンジ。スタイリッシュなフォルムとクラスレスな存在感が先代のヒットを後押ししたというが、最新モデルはどんな進化を遂げているのか?FFファミリーは今や7モデルに
2019年12月に2代目「GLA」が欧州デビューを果たし、メルセデスの「MFA(モジュラー・フロントドライブ・アーキテクチャー)2」と呼ばれる前輪駆動系モデルの新世代ラインナップが完成した。MFA2を採用するモデル群をここでいったん整理すると、コンパクトメルセデスの源流としておかれるハッチバックの「Aクラス」と、そのセダン版である「Aクラス セダン」、背の高いミニバン風味の「Bクラス」、本格SUVともいえそうなスタイリングの「GLB」、そしてこの項の主役であるスタイリッシュな4ドアクーペであるCLAと、そのステーションワゴン版「CLAシューティングブレーク」に前述のGLAを加えた前7モデルのラインナップとなる。
モデルによってはハイパフォーマンスバージョンのAMGもラインナップされるので、このMFA2を使用した車種を並べただけで小さな自動車メーカーをカバーするぐらいのボディーバリエーションと規模に迫りそうだ。
記憶をさかのぼれば、メルセデスの量販FFモデルの歴史は、1997年に鳴り物入りで登場したW168という型式で呼ばれるAクラスによって始まった。それに続く2代目Aクラスおよび派生モデルの初代Bクラスまでは、初代Aクラス同様に2重構造のフロアパネルが採用されていた。2重構造の床下に、電気自動車ならバッテリーを、燃料電池車ならFCスタックや水素タンクの搭載を見込む……という、次世代エネルギーにも対応可能な多様性が、未来を感じさせたものだった。
それらと区別する意味もあったのだろう、2011年に登場した2代目Bクラス以降の前輪駆動系モデルは「NGCC(ニュー・ジェネレーション・コンパクト・クラス)」とくくられていたのだが、今やその呼び方も過去のもので、「MFA1」と呼ぶのが正しいらしい。
抜群のプロポーション
そうした背景はともかく2代目に進化したCLAは、全長×全幅×全高=4695×1830×1430mm、ホイールベース=2730mmという数値が日本仕様のカタログに並ぶ。先代モデルよりも全長が25mm、全幅が50mm拡大されたそのデータを現行「Cクラス」と比較してみれば、全長が10mm短いものの、全幅はCLAのほうが20mm幅広いことが分かる。全高はともに1430mmと変わらないので、もうこれはほとんど同じサイズ感だといえる。
そんなことを頭に入れつつ実際にCLAのスタイリングを目にすると、兄貴分である「Eクラス」ベースの「CLS」とさほど変わらない印象だった。比較対象物がない場所で「これが新しいCLSです」と言われたら、思わず納得してしまいそうな立派さと質感である。3ボックスのクーペモデルとしても、抜群にプロポーションがいい。インポーターによれば、「先代モデルはクラスレスな感じがウケた」とのことだが、最新のCLAではそれがさらに進化したようだ。
メルセデスの新しいデザイン思想「センシュアルピュアリティー(官能的純粋)」によって具現されたエクステリアは、キャラクターラインを用いることなくシンプルな曲線と曲面で構成。台形をモチーフとし左右方向に拡大されたフロントグリルと、照射範囲を自動調整する「アダプティブハイビームアシスト・プラス」が組み込まれた切れ長のLEDヘッドランプは、実際の数値以上にワイド&ローを強調しているように感じる。
これを見てしまうと、力強く彫刻のようなフォルム……だと感じていた先代モデルのスタイリッシュなアピアランスが、Cクラスをオーブンに入れて前後を溶かし無理やりクーペに仕立てた……ようにすら思え、どこかチープにも感じられてしまうから不思議である。ちなみに、メルセデスの他のクーペモデルと同様、新型CLAもサッシュレスウィンドウを採用している。
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ステアリングを握るたびに感心する
そうした特徴的なエクステリアに対してインテリアは、いつもの見慣れたAクラスのそれだった。見慣れたと言うと誤解されるかもしれないが、横長の液晶パネルをむき出しのまま2枚並べたメーターやタービン形状のエアアウトレットが組み込まれたダッシュボードのデザインは未来的。メーターナセルを有する従来のダッシュボードが一気に古く感じられてしまうほどにエモーショナルだ。液晶パネルを2枚並べただけのシンプルさではあるものの、コロンブスの卵よろしくこのダッシュボードデザインはメルセデスの再発明品だと言いたくなる。
パワーユニットはAクラスやBクラスなどにも搭載されている2リッター直4ディーゼルターボエンジン「OM654q」。最高出力150PS、最大トルク320N・mという実力だ。参考までにCLAのディーゼルエンジン車はシューティングブレークも含めFFのみの設定で、8段デュアルクラッチ式ATが組み合わせられる。反対にガソリンエンジン車は4WDの「4MATIC」のみの設定で、こちらは7段デュアルクラッチ式ATが採用されている。
複数回の試乗経験からメルセデスのディーゼルをある程度は理解しているつもりでも、ステアリングを握るたびにその仕上がりには感心する。アイドリング中であってもキャビンにいる限り気になるノイズや振動は感じ取れず、しばらくすればディーゼルエンジンであることすら意識しなくなる。パワーやトルクはもちろん、レスポンス、燃費、排出ガス対策まで、このエンジンを知れば知るほど(エンジンはBMWだ! と言い切っていた自分でさえ)ファンになってしまうのだ。
最高出力は150PSと平凡な数値ながら1400-3200rpmで発生する最大トルクは320N・mと十分で、タイヤがひと転がりしたそののちは、どの速度域からアクセルを踏んでも力強い加速が味わえる。そうやって右足に力を込め続ければ、8段DCTが小気味よくギアを上げていく。速度無制限のアウトバーンを舞台に「ポルシェ911」あたりとつばぜり合いでも起こさない──つまり、日本の法規に従って車両を運用している──限り、CLA200dに力不足を感じることはまずないだろう。
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キャビンは先代よりも広いが……
MFA2採用モデルで最も広いとされる前後トレッドは、ワインディングロードなどでの安定した走りにつながりそうだが、正直、今回の試乗でその恩恵を感じるまでの走り込みはできなかった。ただ、ステアリング操作に対する反応は穏やかで、うねりのある場所を通過する際などには機械としての生産精度の高さは実感できる。
ボディーはことのほかしっかりとしており、どこを走ってもミシリともいわない。そうした建て付けの良さが静かで快適な乗り心地を支える。CLAは4ドアクーペというスポーティーなルックスから想像するよりも、ずっと快適志向。それはCセグサルーン系でトップクラスだと紹介できるものだ。
キャビンはボディーの拡大に伴い、先代モデルよりもゆとりがある。具体的には前席の室内幅が35mm、後席の室内幅が44mm、前席のヘッドルームが17mm拡大しているという。ただし、スペース効率がウリのモデルではないので、Cクラスと同じボディーサイズのFF車という先入観で後席を眺めるとがっかりする。
ためしにAクラス、Aクラス セダン、Bクラス、そしてCLAのともにホイールベースが2730mmの日本導入済み4モデルで寸法を比較すると、車高の高いBクラスの前席座面高が606mm、後席座面高が625mmである以外、残りの3台はすべて前席座面高が518mm、後席座面高が538mmと同一。その後席座面から天井までの高さはといえば、低いほうから順にCLA:908mm<Aクラス セダン:944mm<Aクラス:960mm<Bクラス:993mmというファクトが浮かび上がる(数値は欧州仕様車のもの)。
スタイル優先ゆえに狭いだろうとは思っていたが、座面から天井までの高さがコンパクトなAクラスよりも劣るとはまさかの事実だった。さらに言えばルーフからCピラーへと続くラインの傾斜がきつい「これぞクーペ」というデザインであるため、後席に乗り込んで覚えるその圧迫感はAクラスよりも強い。
しかし、もしもそれが我慢ならぬというのであれば、メルセデスのエントリーレンジを担当するラインナップにはAクラスもBクラスも、そして今やAクラス セダンもある。4ドアとはいえそこはクーペ。居住性や実用性よりも重視すべきはルックスという潔さだ。そう、このクルマの値段は、メルセデスの美意識に付けられたものと考えても間違いではないだろう。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツCLA200d
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1830×1430mm
ホイールベース:2730mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150PS(110kW)/3400-4400rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/1400-3200rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)
価格:472万円/テスト車=590万3000円
オプション装備:メタリックペイント<マウンテングレー>(7万円)/レーダーセーフティーパッケージ(25万円)/ナビゲーションパッケージ(18万7000円)/AMGライン<AMGスタイリングパッケージ+Mercedes-Benzロゴ付きフロントブレーキキャリパー+ラバースタッド付きステンレスアクセル&ブレーキペダル+本革巻きスポーツステアリング+レッドステッチ入りレザーDINAMICAシート+レッドライン入りDINAMICAインテリアトリム+18インチAMG 5ツインスポークアルミホイール+マルチビームLEDヘッドライト+アダプティブハイビームアシスト・プラス+64色アンビエントライト>(26万円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ<ツートン本革シート+アルミニウムインテリアトリム>(20万8000円)/アドバンスドパッケージ<360度カメラシステム+ヘッドアップディスプレイ+アドバンスドサウンドシステム10スピーカー>(20万8000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト車の走行距離:277km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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