新型「三菱eKスペース/eKクロス スペース」登場! ところで最強のライバルに勝てるんですか?
2020.02.12 デイリーコラムブランドにこだわらないユーザーに
三菱自動車が配布した新型「eKスペース/eKクロス スペース」の資料の表紙をめくると、「誰もが欲しくなるスーパーハイトワゴンを作る!」と大書されていた。それに「基本はすごくいい軽自動車」「そこに三菱自動車にしかない、三菱自動車が一番の機能やテイストを加えて」「三菱自動車らしいスーパーハイトワゴンに仕上げる」というフレーズが、少し小さいフォントで続いている。
その心意気やよし、である。しかし、真に注目すべきはその次のページであり、「ターゲットユーザー」という項目には“ブランドにこだわらない商品本位のモノ選び”をする人ということが書いてある。換言すれば、ブランドにこだわる人はターゲットにしていないということになるだろう。
前置きが長くなったが、つまり三菱が目指したのは冒頭にあるとおり誰もが欲しくなるスーパーハイトワゴンであり、ブランド力ではなくスペックを比較した際に決して見劣りしないクルマを目指したということである。ご存じのとおり新型eKスペース/eKクロス スペースは、日産自動車との合弁会社NMKVで企画・開発されたので、日産側からも遠からず「デイズ ルークス」の後継が出てくるはずだ。ブランドにこだわる人をターゲットにしない(しづらい)というのは日産にとっても同じ(はず)なので、両社は「商品力では決して負けない軽スーパーハイトワゴンを!」と、手と手を取り合って頑張ったに違いない。
![]() |
とにかく広く大きく
三菱がこだわったのは数字だ。ブランド価値というある種の情緒的な力に頼れない以上、新型eKスペース/eKクロス スペースを、ライバル車と数字で比較された時に負けないクルマに仕立てたのである。
リアドアの開口幅を650mmに(従来型から95mmアップ)、後席のフロア長を最大394mmに(同148mmアップ)、後席のニールームは793mm(同81mmアップ)に、後席のスライド量は320mm(同60mmアップ)として、乗り降りがしやすく広々とした後席空間をつくり上げた。実際に座ってみると、1400mmという室内高も相まって、広大な空間にポツンと置き去られたような気分になる。助手席の後ろにはスマートフォンを差し込んで収納できるスリット型のポケットや充電用のUSBポートが備わっているが、リアシートを一番後ろまでスライドさせてシートベルトを締めると、ここまで手が届かなかった。過剰といえるほどの広さだ。
これらの数字はすべて、三菱が当初から想定していた軽スーパーハイトワゴンのライバルをしのぐのは間違いなく、狙い通りの商品に仕上がっている。ただし、キャブオーバータイプの商用車やそこから派生した軽乗用車を含めた場合には、明確に「うちが一番!」と言えるのはリアシートのスライド量のみに限られてしまうという(ことがあとで判明したらしい)。
こうしてスペック的には負けないクルマをつくり上げた三菱だが、実際の使い勝手の向上につなげることも忘れていない。スライドドアが大きく開くようになったので、後席を前のほうにスライドさせると、座面が開口部の真横になる。これにより、上半身をキャビンに潜り込ませなくてもチャイルドシートに子どもを座らせることができるので、パパ&ママの肉体的な負担が軽減されるという。
さらに、新型eKスペース/eKクロス スペースでは、助手席のリクライニングレバーが運転席側の肩口にも付いていて、ドライバーが助手席の背もたれを前に倒すことができる。こうすると運転席に座ったままで後席の子どもの世話ができるのだ。
……こうして書き連ねてみると、軽スーパーハイトワゴンは後席の使い勝手こそが勝負の場であり、そこに座る子どもが主役のクルマだとあらためて感じる。
シフトパドルの操作性は“P”以上
三菱自動車の商品戦略本部の栗山剛志氏は新型eKスペース/eKクロス スペースについて「みんなと一緒ではいやという人にぜひ。個性を出せるクルマです」と語ってくれた。eKクロス スペースのデザインのことだ。国内では「デリカD:5」から展開されたあのフロントマスクは、今もなお強烈な個性を放っている。デリカの時は社内でもさまざまな意見があったようだが、「eKクロス」に続いて3例目となるeKクロス スペースでは「そういう声はなくなりました」という。
栗山氏は筆者のとりとめのない質問にも丁寧に答えてくれた。運転席に座ったままで後席の子どもの世話をできる機能は、現行のダイハツ車にも採用されている。これについては「あちらは運転席を後ろにスライドさせるんですよね。信号待ちのたびにスライドさせるというのは……どうなんでしょう」とコメント。その口ぶりは力強く、「使ってみれば違いが分かりますよ」という含みを(筆者は勝手に)感じた。
ここで「シフトパドルには触りましたか?」と、逆に栗山氏からの質問がやってきた。冒頭で触れた三菱の資料には、シフトパドルの操作感について「世界TOPクラスの操作フィーリングと位置」と書いてある。同じ資料にはその操作時のクリック感について、欧州A車とB車を引き離し、欧州P車に匹敵するというグラフが載っている。欧州でPといったらPだろう。試してみると、適度なストロークの先にコクッというクリック感があり、操作するのが気持ちいい。筆者がPのシフトパドルの操作感を覚えていなかったのが残念だが、気になる方はぜひ販売店で試していただきたい。
最後に、ベストセラーのあのクルマに勝てますか? と聞くと栗山氏は「はい!」と即答。「うちのほうが広いし、運転アシスト系装備も充実しています。うちはアダプティブクルーズコントロールが全車速対応で渋滞追従もできますが、あちらは30km/h以上の作動に限られていますからね」と、その質問を待ってましたとばかりに、具体的な回答をいただいた。アダプティブクルーズコントロールについては、あのクルマの場合は基本的に全車に標準装備で、eKスペース/eKクロス スペースではオプションという違いがあるとも思ったが、その場では黙っておいた。しかし、性能に差があるのは事実だ。
勝ち負けはともかくとして(聞いたくせに)、新型eKスペース/eKクロス スペースは、軽スーパーハイトワゴンとして三菱のもくろみ通りの高いレベルに仕上がっていると感じた。撮影のために動かしてみた感じでは、キビキビと走れるし、ボディーの上屋がユサユサするようなこともなかった。いま飛びついても、ホンダを買っておけばよかったという後悔を覚えることはないと思います。
(文=藤沢 勝/写真=三菱自動車、藤沢 勝/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。