第6戦モナコGP「ベッテルの強さと強運」【F1 2011 続報】
2011.05.30 自動車ニュース【F1 2011 続報】第6戦モナコGP「ベッテルの強さと強運」
2011年5月29日、モンテカルロ市街地コースで行われたF1世界選手権第6戦モナコGP。モナコ未勝利のセバスチャン・ベッテルは、まさかの1ストップ作戦で一度失いかけた勝利を取り戻した。そこにはトップドライバーとしての強さとともに、運の強さもあった。
■運をも味方につけてしまうベッテルの強さ
イタリアGPと並ぶ伝統のレース、モナコGPは今年で69回目を迎えた。小国モナコにある市街地コースで最初に自動車レースが行われたのは1929年、日本でいえば昭和4年のこと。以来、今日まで基本的なコースレイアウトは変わっていないというから驚きである。ハーバーにたたずむクルーザー、ホテルの窓辺からの観戦。カジノにパーティ、きらびやかな社交場で繰り広げられる世界最高峰の戦いが、モナコGPを特異な存在たらしめていることは言うまでもないだろう。
そしてここでの勝利が特別なものであるということは、歴史をほんのちょっとひもとけば明らかになる。
モナコ最多6勝のアイルトン・セナ、5勝で並ぶグラハム・ヒルとミハエル・シューマッハー、4勝のアラン・プロスト、3勝のスターリング・モス、ジャッキー・スチュワートと、そうそうたるドライバーが名を連ねている。信じられないほどタイトで過酷なコースは、ドライバーに最高の技量と集中を求め、持たざるものは冷酷にも“壁の餌食”となる。ドライバーズサーキットと呼ばれるゆえんである。
現役ドライバーでは、シューマッハーを筆頭に、2勝しているフェルナンド・アロンソ(2006-2007年)、1勝のヤルノ・トゥルーリ(2004年)、ルイス・ハミルトン(2008年)、ジェンソン・バトン(2009年)、マーク・ウェバー(2010年)と6人の歴代ウィナーがいた。この中には、2010年チャンピオンにして、今年タイトル防衛に向かってまい進中のセバスチャン・ベッテルの名前はなかった。
最年少チャンプ、最年少優勝など数々の最年少記録を樹立してきた23歳のベッテルは、ジュニアカテゴリー時代を含めモナコでの勝利を味わったことがなく、昨年はチームメイトのウェバーに粉砕され2位に甘んじた。
ここまで5戦して4勝、ぶっちぎりでポイントリーダーの座を堅持するベッテルの前に、伝統の一戦が立ちはだかった。その結果は、運をも味方につけてしまうベッテルのいまの強さが表れたレースとなった。
■ベッテル、予選での幸運
ベッテルの幸運は予選からはじまっていた。トップ10グリッドを決める10分間のQ3、ベッテルは5分を過ぎて最速タイム、1分13秒556を記録していた。ライバルがこのタイムを上回ろうとセッション終盤に賭けたが、残り2分30秒の時点で、ザウバーのセルジオ・ペレスがシケインで大クラッシュし、赤旗中断となってしまった。
これで割を食ったのは、Q1、Q2でトップだったハミルトン。中断前に前車に引っかかりアタックをやめていた彼は、再開後の1アタックでタイヤに十分な熱を与えられず7番手タイムにとどまり、さらにシケインカットのペナルティを科され9番グリッドからスタートすることが決まった。
ハミルトンのみならず、残された2分半でタイムアップを果たしたものはいなかった。結果、ベッテルは今シーズン5回目、自身通算20回目のポールポジションを獲得。予選順位がきわめて重要なモナコでもっとも有利な場所からスタートすることとなった。
予選2位は0.441秒差でバトン、3位には昨年のウィナー、ウェバーがつき、4位アロンソ、5位シューマッハー、6位フェリッペ・マッサらが続いた。
■バトンがトップに立つも、最初のセーフティカーで形勢逆転
決勝日、スタートでトップを守ったベッテル、2位キープのバトンの後ろでは、アロンソがひとつポジションをあげて3位についた。
ベッテルはクリアなコースでファステストラップを連発し、2位バトンを突き放しにかかる。リードタイムは1周で2.4秒、2周3.2秒、3周3.7秒、4周4.3秒、5周4.6秒と開くが、バトンも応酬。15周目にマクラーレンがタイヤ交換に踏み切るまでには3.4秒にまで縮めていた。
バトンは引き続き、このレースでデビューしたピレリのスーパーソフトタイヤを履いてコースに戻った。マクラーレンのピットストップがスムーズでトラブルフリーだったのに対し、次の周ピットに入ったベッテルのそれは災難だった。レッドブルのクルーが用意したタイヤがウオーマーと張り付いてしまい大幅にタイムロス。その間、バトンにリードを奪われ、ソフトタイヤを装着したベッテルは首位から脱落、2位でコースに復帰した。
グリップ力で勝るスーパーソフトで、バトンはファステストラップを更新しながら逃げに入った。18周で2位ベッテルに対し6.2秒あったギャップは、23周目には10.6秒、31周目には13.7秒まで拡大していた。
78周レースの中盤、1位バトン、2位ベッテル、3位アロンソは1ストップを済ませており、タイヤを交換していない4位以下に50秒もの溝をつくっていた。この時点で、優勝争いは3人に絞られた。
33周目、1位のバトンが2度目のピットインを行い、またもスーパーソフトを選択。つまりマクラーレンが3ストップ作戦をとったことが決定的となった。その直後、マッサとハミルトンが接触、マッサがトンネル内でガードレールにヒットしコース上に止まったことで、今年初のセーフティカーが導入された。
タイヤ交換で2位に落ち、挽回(ばんかい)しようとしていたバトンにとっては星回りの悪い出来事だった。なぜならバトンはもう1ストップしなければならないのに対し、優勝を争う1位ベッテル、そしてこのセーフティカーを機に2度目のタイヤ交換を終えた3位アロンソは既にソフトタイヤを履いており、ルール上はノンストップでゴールできるのだ。
失いかけた首位の座が再び転がり込んだベッテル。だがベッテルは新しいタイヤに履き替えることをせず、ポジション維持を重視しコースにとどまり続けた。つまり1ストップ作戦。56周をソフトタイヤ1セットで走り切るギャンブルに出た。
■チャンピオン経験者3人による超接近戦
40周、1位ベッテルのリードタイムは2.3秒。2位バトンはフレッシュなスーパーソフトでタイムを詰め、41周目には一気に0.8秒差まで縮まった。僅差の攻防が続いたが、ここはモナコ、オーバーテイクがもっとも難しいコースだ。
49周目、バトンがピットインしソフトタイヤに交換。アロンソに2位の座を譲る。その後3位に落ちたバトンはファステストラップ更新を連発、1位ベッテルより約2秒速いペースで再びトップを狙った。
52周目、1位ベッテル(1ストップ)と2位アロンソ(2ストップ)の差は3.2秒、3位バトン(3ストップ)はアロンソの12.1秒後方だったのが、3台はみるみるタイム差が縮まり、ついに63周目には1秒内にひしめく団子状態となった。難攻不落のモナコで繰り広げられる、チャンピオン経験者3人による超接近戦は、歴史に残るであろう名勝負になる「はず」だった。69周目、トップ3の一団が、6位エイドリアン・スーティルを先頭とする一群を周回遅れにしていた。そのラップ遅れ組から、スーティル、ハイメ・アルグエルスアリ、ビタリー・ペトロフらが続々とクラッシュし、2度目のセーフティカーが導入された。
ペトロフがマシンから出られず、レッドフラッグで中断。20分後に6周のスプリントレースで再開されたが、タイヤがタレきっていた1位ベッテルは中断中にフレッシュタイヤへの交換が許され、白熱の首位攻防はすっかり冷えきってしまっていた。
ベッテルのモナコ初優勝は、こうして達成された。
■次は“レッドブルに不向き”なカナダ
運をも味方につけて伝統の一戦を制し、6戦5勝という文句なしの結果を残したベッテル。2位ハミルトンにまるまる2勝分以上の58点差をつけて独走状態を築いている。
レッドブルという最速マシンを与えられたドライバーが強いことに何の不思議もないが、僚友ウェバーの苦戦をみれば、いまのベッテルが頭ひとつ以上抜きん出ていることがわかる。
次戦は6月12日に行われるカナダGPだ。ストップ/ゴーを繰り返すモントリオールは、数少ない“レッドブルに不向き”なコース。若き王者の勢いを誰が止められるのか?
(文=bg)
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