日産の起死回生の一台となるか!? 新型「ルークス」のアピールポイントは?
2020.03.04 デイリーコラムぜいたくな先進安全装備を搭載
2020年2月25日に、日産は新型軽自動車の「ルークス」を発表した。以前は「デイズ ルークス」と呼ばれたが、新型はルークスに改名している。
2019年には新車として売られたクルマの37%を軽乗用車が占めた。その半数近くが、ルークスのようなスーパーハイトワゴンだ。全高は1700mmを上回り、後席を含めて車内は広い。4名乗車も快適で、後席を畳めば自転車のような大きな荷物も積める。後席側のドアはスライド式だから乗降性も良好だ。
その結果、2019年の国内販売トップ3は、1位が「ホンダN-BOX」、2位が「ダイハツ・タント」、3位が「スズキ・スペーシア」で、すべて軽スーパーハイトワゴンだ。ちなみにN-BOXは2019年に25万3500台を売り、小型/普通車で1位の「トヨタ・プリウス」(「α」と「PHV」を含む)は12万5587台だから、約2倍の差をつけている。軽スーパーハイトワゴンは、まさに国内販売の主役だ。
スーパーハイトワゴンは、「日産セレナ」や「ホンダ・ステップワゴン」などのミニバンにも匹敵する実用性の高さで人気を集め、競争も激化した。各車とも機能を磨き、特にユーザーの関心が高い安全装備は、小型/普通車と同等かそれ以上に充実している。開発は常にライバル車を見据えて行われ、設計の新しい車種ほど機能も先進的だ。
そこでルークスは衝突被害軽減ブレーキを強化した。従来モデルではフロントセンサーに「デイズ」やセレナなどと同じ単眼カメラのみを搭載していたが、新型ルークスでは「エクストレイル」に続いてミリ波レーダーも併用。先行車だけでなく2台先を走る車両も検知できるから、危険の発生をより早期に判断してドライバーに警報できるようになった。
強力なライバル車のN-BOXは2019年10月の改良で、新型「N-WGN」に続いて衝突被害軽減ブレーキが自転車も検知できるようになった。ルークスはこの自転車検知機能がない代わりに、交通を先読みして早期の警報を可能にした。同様の機能は「スカイライン」やエクストレイルにも採用されるが、意外に普及は進んでおらず軽自動車では初採用だ。
アダプティブLEDヘッドライトも先進装備に位置付けられる。新型ルークスはハイビームで走行中に対向車や先行車を検知した時、合計24灯のLEDヘッドライトを自動制御して、ハイビーム状態を保ちながら対向車や先行車のげん惑を抑える。これも小型/普通車でも採用車種が少なく、軽乗用車ではぜいたくといえる装備だ。
また、デイズと同様に緊急時のオペレーター呼び出し機能が備わっており、消防や警察への取り次ぎを頼むことも可能だ。エアバッグが展開した時には自動で通報してくれる。サイド&カーテンエアバッグも全車に標準装備で、一部グレードにはニーエアバッグも装着されている。このようにルークスは、優れた居住性や積載性に加えて、安全装備を大幅に進化させているのが特徴だ。
価格が横並びの買い得グレード
(実用的な)クルマの価格は主に部品点数で決まるから、スーパーハイトワゴンも高価格で、コンパクトカーと同等かそれ以上だ。しかし、各種の機能や装備を細かくチェックすると意外に割安に感じられるだろう。ライバル同士の激しい競争により、割高感が生じない価格設定になっているのだ。
各社の軽スーパーハイトワゴンの標準ボディーに設定された買い得グレードの価格が、それを象徴している。「ルークスX」(154万6600円)、「eKスペースG」(154万2200円)、「N-BOX G・L Honda SENSING」(154万3300円)、「タントX“セレクション”」(149万0500円)、「スペーシアX」(149万6000円)……。これらは、すべて149~155万円という非常に狭い価格帯に集中している。激しい競争を繰り返し、限界まで価格を抑えた結果、装備を充実させたグレードがこの価格帯に集まった。
ここまでシビアな商品開発と競争をしているカテゴリーはほかにない。その結果、軽自動車のスーパーハイトワゴンは、商品力が高まる一方で価格が割安になり、販売ランキングの最上位を独占するに至ったのだ。
従って新型ルークスも好調に売れるに違いない。ただしそれがユーザーとメーカー、販売会社の皆を幸せにするかといえば、疑問を差し挟む余地もある。以前に伺ったホンダカーズ(ホンダの販売店)では、次のようなコメントが聞かれた。
「N-BOXが好調に売れるのはうれしいが、ほかの車種の販売促進に力が入らない。その影響もあり、『ヴェゼル』などの売れ行きが下がった。ヴェゼル、ステップワゴン、それに『フリード』などでは、残価設定ローンに年率1.9%の低金利を適用して集客を図っている」。
スーパーハイトワゴンが好調に売れる代わりに、ディーラーの収益力を奪ってしまう。ホンダの場合、N-BOXが販売台数を増やすと、小型/普通車が下がり、今では国内で売られるホンダ車の35%がN-BOXだ。
この状態が続くと、やがて国内で売られる小型/普通車の商品開発が滞るという事態を招きかねない。好調に売れる軽自動車を投入するなら、それ以上に魅力的な小型/普通車を企画しないと、販売のバランスが悪化する。
軽自動車の増税という話にもつながりかねず、移動手段がクルマに限られる地域では、高齢者を困窮させる心配も生じる。軽自動車とそのユーザーを守るために、小型/普通車の企画・開発・販売にももっと力を入れてほしい。
(文=渡辺陽一郎/写真=日産自動車/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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