新車セールスに効果あり!? ポルシェの“夢の新サービス”について考える
2020.06.05 デイリーコラムマニアがよろこぶ裏舞台
ポルシェが最近はじめた新しい顧客サービスは、クルマ好きにとっての長年の夢をちょっとだけ実現するものだ。その夢とは「自分のクルマがつくられる瞬間、できあがっていく姿をこの目で見たい」というものだ。
ポルシェによると、メーカーと顧客を結びつける同社オンラインサービス「マイポルシェ」内に、この2020年5月19日から「Behind the Scenes(=舞台裏)」という新機能を追加したという。その内容は、ツッフェンハウゼン工場にある「911」と「718ボクスター/ケイマン」の生産ラインにおいて、顧客がオーダーしたポルシェスポーツカーがつくられている姿を撮影した画像2カット(間もなく、さらに2カット追加の予定)が、その顧客自身に提供される……というものだ。
同機能はアメリカ合衆国、ドイツ、英国、カナダ、スイス、スペインという6市場からのスタートで、今のところは残念ながら、わが日本市場は対象ではない。ただし、今後の数カ月でさらなる市場も追加されるというから、期待したいところではある。
また、ポルシェは最大の市場であるアメリカ合衆国限定で、さらなるサービスも開始した。題して「Porsche Track Your Dream」。日本語に訳すと「ポルシェの“あなたの夢を追っかけます”」といったところだろうか。これは上記の工場から出荷されてから納車まで、自分のポルシェが現在、搬送ルートのどこにあるのかを追跡できるサービスなのだという。
技術的には難しくない?
現代のクルマは各部を自分仕様に仕立てる“パーソナライズ”が高度化して、その注文システムはどんどん複雑になり、仕様数も膨大になっている。それを正確な内容とタイミングで生産して、滞りなくデリバリーするために、生産システムや物流システムは高度にIT化されている。そして、その情報はメーカーや販売店、生産ラインにジャストインタイムで部品を納入するサプライヤーまでが共有するのが当たり前となった。
だから、今回の新サービスにしても、実際には“夢みたい”というより「今の生産システムや(最近話題の)リモート技術を使えば、技術的にはむずかしくないんじゃね!?」と、われわれ素人は勝手に考えたりもする。そして「できればもっと多くの工程、いや理想をいえば全工程を動画で見たい」とすら要求したくもなるが、製造業にとって生産ラインは企業秘密の宝庫だ。それを外部に公開するには、その場所だけでなく、画角や時間帯まで厳密に管理しなければならない。しかも、それをライン上のクルマ1台ごとに流れ作業で配信するのだから、実際のオペレーションはそう簡単ではないだろう。
今回のようなサービスはまだポルシェが先べんをつけただけだが、欧州の高級車ブランドでは、カスタムオーダーやシート合わせなどを名目にした本社招待プログラム、聖地(=本社や工場など)巡礼オフィシャルツアー、あるいはクローズドのドライビングレッスンなど、リアルな顧客サービスが多い。欧州の高級車ブランドが、今のような名門になったゆえんには、クルマ自体のデキだけでなく、こういう地道なサービスによるところも大きい。
“所有すること”の価値を大事に
すでに使い古された表現の感もあるが、今後の個人向けビジネスの中心は“モノよりコト”へと移行していくらしい。
クルマがただの実用品に成り下がるなら、なるほどシェアリングやサブスク(=レンタルやリース)といった方法で割り切って“使うだけ”のほうがずっと合理的である。しかし、今後もクルマを愛車と呼ばれる特別な商品であり続けさせるなら、“所有する”クルマへの愛着が増すように、そしてクルマを所有する行為そのものを価値あるコトに昇華させる顧客サービスが重要になってくる。
その意味では、最新のIT技術を使って、さしたるコストもかけず(?)にクルマ好きの長年の夢を実現したポルシェのアイデアは秀逸と思う。それに、こうしたサービスならリアル体験型イベントとは異なり、それこそ軽自動車やコンパクトカーなどの大量生産車でも実現可能だろう。
さらに、こういうサービスが広まれば、見込み発注で生産済みの即納車を買ってしまうと楽しみ半減である。やはり、自分の好きな仕様内容をじっくり吟味してからきちんと注文して、それが工場でつくられて大切に運ばれてくる過程を見ながら、首を長くして納車を待つ……というコト自体が価値ある体験となる。その結果として、クルマを清く正しく(?)購入する行為が見直されて、新車は再びもっともっと売れるようになるにちがいない……と、クルマオタクの妄想は“風が吹けば~”のごとく勝手にふくらんでしまうのだ。日本の自動車メーカーの皆さん、どうっすかね?
(文=佐野弘宗/写真=ポルシェ、本田技研工業/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解くNEW 2026.9.3 本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。
-
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い 2026.9.2 5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。
-
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの? 2026.8.31 自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。
-
酷評もされたBEVのフェラーリが4000万ドル!? 「ルーチェ」の初物に誰が、なぜ大金を出したのか? 2026.8.28 フェラーリ初の電気自動車として話題になった「ルーチェ」。その特別仕様の生産0号車が、米国内のカーオークションにおいて4000万ドル(約64億円)という衝撃価格で落札された。その背景について、事情に詳しい西川 淳がリポートする。
-
これが次世代アウディの源流 ハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」に乗って気づき感じたことは? 2026.8.27 2026年6月に発表されたアウディのハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」は、同ブランドの新しいデザインフィロソフィーを体現したモデル。個性的な内外装やこだわりのつくり込み、そしてステアリングを握った印象を米モントレーから報告する。
-
NEW
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。 -
NEW
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(後編)
2026.9.3あの多田哲哉の自動車放談ワインディングロードで新型「BMW iX3」のステアリングを握った多田哲哉さんは、その走りに感心した様子。どんなところが優れているのか、トヨタのエンジニアの視点で語ってもらおう。 -
NEW
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
NEW
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。





