“技術の日産”がまたやっちゃった!? カーボンパーツの「C-RTM工法」って何だ?
2020.09.11 デイリーコラム「解析」のたまもの
昨今の自動車開発・製造においてよく耳にするのが、一般的にカーボンと呼ばれる軽量素材「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」の採用だ。CFRPはレーシングカー御用達のイメージが強く、一般ユーザーには縁遠いものと感じている人もいるだろう。ただ、近年ではそんな風潮も変わりつつある。スポーツカーに目を向ければ、CFRPを用いた空力パーツがメーカーでオプション設定されるようになり、よりとがったモデルにはデフォルトの状態でボディーパネル等に採用されている。スポーツカーメーカーの高性能車では、レーシングカーのようにモノコックにまで用いられている例も見る。じわじわとCFRPの採用範囲が拡大されてきているのだ。
そんななか、日産自動車は2020年9月3日に「CFRP成形の新技術」に関する発表を行った。これは近い将来の電動化モデルに向けた、パーツ量産における新提案である。
CFRPパーツは、端的に言えば炭素繊維と樹脂の組み合わせでつくられる。そしてこのパーツ成型の際にはさまざまなステップを踏む必要がある。炭素繊維に樹脂を染み込ませること(含浸)ひとつとっても、手作業による塗り込みや機械による流し込みがあり、成型の段階では、大きな窯で焼くオートクレーブや、金型を用いた圧縮によって型取る方法など千差万別で、それぞれ仕上がり具合も異なる。そしてこれらの工程に多くの時間と労力が割かれるため、CFRPパーツは高価なものになってしまう、というわけだ。
そこで日産自動車は新たに「C-RTM(Compression Resin Transfer Molding)」という工法を編み出した。このC-RTM工法は、金型を用いた型取りをしつつ、同時に加圧し均等に含浸させながら成型するというもの。樹脂を流し込む際の温度変化や浸透性など“流動解析”を行ったことがポイントで、均等な流し込みを可能としつつ、適切な強度を確保し、作業時間を短縮した点が新しい。
細かなところでは、型取りの際に炭素繊維シートのよれやねじれなどが発生しないよう、炭素繊維シートと金型の間に隙間を設けて樹脂を流す工夫もなされている。そうやって含浸の均質化を徹底したことにより、高精度で強度ムラがなく構造部材としても使えるものが出来上がった、というわけである。
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普及が進めばいいことずくめ
実際、今回の技術発表に際して行われた構造部材の成型にかかる時間は、従来工法の約80%短縮を達成したという。つまりは同じ時間で数倍の数のパーツが生み出せることになる。これにかかるコストに関して開発陣は明言を避けたが、製造コストが抑えられればパーツ単価も下げられるのは間違いないだろう。
日産自動車は、この技術を用いて作り上げた構造部材を2024~2025年に登場予定の新型EVに採用すると明言した。
EVのキモであるバッテリーは、航続距離の確保という点から言えば数多く積めるのが望ましいものの、そのいっぽうで当然ながら重量は増していく。そんなジレンマがあったからこそこの工法が生み出された。C-RTM工法を用いて作り上げられたパーツで骨格の側から軽量に仕立てていけば重量増は避けられ、ひいては燃費(電費)も向上する。開発陣はアルミやハイテン鋼、そしてCFRPの組み合わせによって車両全体で80kgのダイエットが実現できるという。
今回のパーツ量産工程のデモンストレーションとして題材に挙げられたのは、複雑な形状で高精度と強度が要求されるボディーの構造部材だった。例えばこれがもっと単純な形状のパネルだったなら、さらなる時短と量産化、低価格化が望めるはず。となれば、4~5年後の新型EVの採用まで待つ必要もないのではなかろうか。
開発陣はもとより、クルマ好きが思うのは「軽いことは何より正義である」ということ。車重が軽くなれば、少ないパワーでも、加速力アップを含めフットワークが軽快になるはずだし、もちろん燃費もよくなる。CFRPの採用によりボディーの高剛性化が実現するならば、安全性も増し、あるいは土台が強固になることでサスペンションなどの稼働部分も本来の性能を十全に発揮できるだろう。
リサイクルしにくいという点を考えると手放しで喜ぶことはできないものの、クルマを操る側からすれば、CFRPの量産と採用拡大による恩恵は多岐にわたるはず。そんな大きな期待を抱かせる量産化技術だからこそ、どんどん前倒しして投入する姿勢を見せれば、ユーザーが日産自動車を見る目も変わってくるのではないだろうか。というわけで、やっぱり締めは「やっちゃえ、技術の日産」なのである。
(文=桐畑恒治/写真=日産自動車/編集=関 顕也)
