スーパースポーツカー「MC20」登場! これで老舗ブランド・マセラティは再興なるか?
2020.09.28 デイリーコラムパワートレインは予想外
数カ月前、マセラティの新型スーパーカー「MC20」の内容について自分なりの予測を『webCG』に寄稿した。おおむねその通りになったとは思うが、肝心要のパワートレインに関してはV6ハイブリッドと予測して、完全にハズしてしまった。スーパーカー道を極めるには精進がまだまだ足りない、ってことで……。
想像を超えた、早く乗ってみたいと思わせるマセラティ完全設計の非ハイブリッドマルチシリンダーエンジンをドライバーの背後に積んだことは、しかしクルマ好きにとっては朗報だった。デュアルチャンバー燃焼システム付き3リッターV6ツインターボである(このエンジン開発は2015年にジョルジョプロジェクト内にてスタートしている、と聞けばイタリア車好きの読者なら“あ、なるほど、そういうことかもね”、と思うはず……)。
マセラティは早くから将来の電動化をアピールしてきた。それゆえ、よもや次世代のブランドフラッグシップ&アイコンたる新型スーパーカーにモーターのモの字もないパワートレインが載っかってくるとは想像しなかったのだ! ちなみに電動化の第一歩は、2020年7月に発表された「ギブリ ハイブリッド」である。
もちろんマセラティとて、“電動化”の推進を緩めるつもりなどまるでないようだ。なんとMC20には800Vバッテリー&3モーターのBEV版が近い将来に用意されているという。このスーパーカーのカーボンモノコックシャシーは重いバッテリーの搭載を前提に開発されているというわけだ。
100%電気自動車もいよいよ
マセラティはMC20の発表と同時に、そこから始まる次世代に向けたブランド白書も発表している。冷静に考えてマセラティとしてはこちらのほうを世界に大きくアピールしたかったのだろう。MC20は言ってみれば注目を浴びるために上げた“打ち上げ花火”だった。
白書のポイントは5項目あって、中でも重要だと思われる項目が“フォルゴーレ”と呼ばれるマセラティの電動化戦略、と、新型SUV「グレカーレ」の予告の2つである。
フォルゴーレ戦略の中心に据えられるモデルは、MC20のBEVよりも先、2021年に登場する「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の後継モデルになりそうだ。これはかねてマセラティ幹部が広言してきた通り、デビュー当初からBEVとなる。マセラティ初の100%電気自動車だ。
とはいえ、これで役者がそろうとは言い難い。MC20にせよ新型グラントゥーリズモにせよ、モデナ籍マセラティ船の船頭候補にはなりえても漕(こ)ぎ手ではない。ところが肝心の漕ぎ手はというと、いかにハイブリッド化が進んだとしても、また真逆のV8シリーズ“トロフェオ”で勇ましく吠(ほ)えたとしても、「ギブリ」や「クワトロポルテ」、「レヴァンテ」というラインナップで、少々心もとなさが残る。決して新しくはない商品ラインナップとそのバリエーションの少なさが、日本市場におけるブランドの影響力低下を招いた要因でもあるのだ。
象徴としてのスーパースポーツ
そんな日本のマセラティファンに朗報だったのが新型SUVグレカーレの登場予告だ。こちらも2021年にデビューするらしく、シルエットの一部も公開された。サイズ的にはレヴァンテよりコンパクトで、「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ」とコンポーネンツの多くを共有することになる。もちろん+電気モーターのハイブリッドがパワートレインの主力になるだろう。そして、将来的にはこのグレカーレがブランドの主力モデルとなることは間違いない。レヴァンテとともに大小2つのSUVが販売をけん引することになる。
つまり、マセラティもまたSUVブランドというイメージが、好むと好まざるとにかかわらず強まっていく。けれどもヘリテージにSUVのようなクルマがないマセラティにとって、“売れるカテゴリー”とはいえ、この分野への偏った注力はブランドイメージの毀損(きそん)にもつながりかねない。だからこそ、MC20やBEVのグラントゥーリズモ、さらにはモータースポーツへの復帰が必要だったのだ。ちなみに筆者のようなスーパーカー世代にとって、マセラティとはミドシップスーパーカーのブランドだった。つまり、MC20にはヘリテージがある。グラントゥーリズモやモータースポーツについては言わずもがな。
マセラティそのものは日本においていまだ良好なブランドイメージを保ち続けている。MC20が登場したことで、世のクルマ好きたちはマセラティをまだまだ見どころのあるブランドであると再認識したことだろう。MC20のワールドプレミアと同時に発表された矢継ぎ早の次世代戦略の数々は、MC20の役目が、やはり世界の注目を大いに引きつけるための“打ち上げ花火”であったことを物語っている。
(文=西川 淳/写真=マセラティ/編集=関 顕也)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。