【F1 2020】力量の差をまざまざと見せつけてハミルトンが記録を更新
2020.10.26 自動車ニュース![]() |
2020年10月25日、ポルトガルのポルティマオにあるアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルベで行われたF1世界選手権第12戦ポルトガルGP。24年ぶりに復活した同GPで、ミハエル・シューマッハーが19年間保持し続けた最多勝ドライバーの称号が、ルイス・ハミルトンに移ることとなった。
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プロスト、セナ、マンセルが戦ったポルトガルGP復活
今年、24年ぶりにF1に復活したポルトガルGPだが、その歴史は意外に古く、F1世界選手権としての初開催は1958年にまでさかのぼる。オポルトとモンサントで3回続いた同GPは、1960年を最後に一時姿を消すも、偶然にも今回と同じ24年のブランクを経て、1984年にエストリルを舞台にカムバック。その後はおなじみのヨーロッパ戦として定着し13年連続で開かれた。
エストリルでは数々の名勝負が繰り広げられており、例えばシーズン最終戦として行われた1984年のレースでは、マクラーレンのニキ・ラウダが、若きアラン・プロストを史上最小0.5点差で抑えチャンピオン獲得。また翌年にはロータス駆るGP2年目のアイルトン・セナが大雨のレースで独走し初優勝を飾った。さらに1989年にはナイジェル・マンセルがピットレーンをリバースギアで走行する違反を犯しながらレースを続行、セナを道連れにクラッシュする“事件”が発生。1996年はウィリアムズのジャック・ビルヌーブが優勝し、チームメイトのデーモン・ヒルとのタイトル争いが最終戦日本GPまでもつれ込むという熱戦もあった。
今年のコロナ禍がもたらしたカレンダーの大幅変更により、奇跡的にF1に返り咲くことができたポルトガルGP。そのコースとなるアルガルベは、9月に行われたトスカーナGPのムジェッロと同様にF1初開催のサーキット。起伏に富んだ地形に横たわる一周4.6kmのコースはアップ&ダウンの連続で、ブラインドコーナーや下った先のブレーキングなど難所も多い。さらに路面が再舗装されたばかりでグリップが乏しく、ドライバーにいっそうのチャレンジを強いることとなった。
ポルトガルでの最大の話題は、アイフェルGPで通算91勝目を飾ったルイス・ハミルトンが、ミハエル・シューマッハーの歴代最多勝記録を更新するかどうか。かつてラウダやプロスト、セナやマンセルが覇を競ったユーラシア大陸最西端の地で、新たな記録樹立に向けたレースが行われることとなった。
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ハミルトンはミディアムタイヤでポール獲得
アイフェルGPではドイツ・ニュルブルクの山中で寒さに震えていたF1サーカスも、アルガルベがあるポルトガルの最南端では20度前後の温暖な気候に恵まれることとなった。しかし再舗装後のスムーズな路面に各陣営とも苦しむことになり、多くがタイヤを適温まで温めることに苦心していた。
コース脇の排水溝が壊れるというトラブルで30分遅れた予選では、メルセデスの2台が定位置のフロントローに。ポールポジションを奪ったのはハミルトンで、今シーズン9回目、通算97回目の予選P1。Q3最初のラップはソフトタイヤで走るも、最後のアタックはミディアムに履き替え、そのタイヤで2回も計測ラップを刻み、見事バルテリ・ボッタスを1位の座から引きずり下ろした。
3回のフリー走行すべてでトップだったボッタスは、0.102秒差で予選2位。メルセデスにとっては今季9回目、通算73回目の最前列独占となった。レッドブルのマックス・フェルスタッペンも、今季すっかりおなじみとなった3番グリッド。こちらはポールタイムの0.252秒差まで接近、シーズン序盤の大きな差はなくなった。
フェラーリのシャルル・ルクレールが2戦連続4番グリッドと健闘。レーシングポイントのセルジオ・ペレスは5位につけ、レッドブルのアレクサンダー・アルボンは6位だった。その後ろにはマクラーレンの2台が並び、カルロス・サインツJr.7位、ランド・ノリス8位。アルファタウリのピエール・ガスリーが12戦して7度目のQ3進出で9位、ルノーのダニエル・リカルドはQ2セッション中のスピンでマシンを壊し、Q3ではノータイムの10位だった。
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混乱のスタートからハミルトンが首位奪還
強い風が雨を予感させた決勝日。66周レースの幕開けで、タイトなターン1に真っ先に飛び込んだのはハミルトンだったが、既に降り出していた小雨で路面はいっそうグリップしなくなり、各車が翻弄(ほんろう)される展開に。オープニングラップは、1位ボッタス、2位サインツJr.、3位ハミルトン、4位ノリス、5位はペレスと接触し順位を落としたフェルスタッペン、そして6位は16番手と後方からのスタートだったアルファ・ロメオのキミ・ライコネンという、混乱のスタートとなった。
2周目にソフトタイヤを履くサインツJr.がトップに躍り出るも、ミディアムタイヤがようやく温まったメルセデス勢の追い上げにあい、6周目にボッタスが首位、程なくしてハミルトンも2位に上がった。またフェルスタッペンも8周目にサインツJr.をオーバーテイクし3位に復活した。
10周してボッタスのリードは2.1秒、2位ハミルトンは3位フェルスタッペンに3.4秒のギャップを築いていた。だが、その後、この3人の間では、タイヤマネジメントの違いがまざまざと浮き彫りになる。そもそもソフトタイヤでスタートしていたフェルスタッペンは早々にペースを落とし始め、15周目にはトップから10秒遅れとなる。一方、1位ボッタスも遅れ始め、ひとり気を吐きファステストラップを連発していたハミルトンが、20周目に1位に躍り出ることとなった。
24周目、フェルスタッペンがピットに入り、ソフトからミディアムに交換。ミディアムスタートのハミルトンはその間にもファステストラップで快走を続け、同じタイヤながら苦戦していた2位ボッタスをどんどん突き放していった。
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記録はプロストからシューマッハー、そしてハミルトンへ
レースは折り返しを過ぎ、「タイヤはまだ絶好調だ」と豪語していたハミルトンにもピットストップの番が巡ってくる。41周目にミディアムからハードに換装すると、翌周チームメイトのボッタスもその動きにならうことになり、これで1位ハミルトンは10秒リード、2位ボッタスと3位フェルスタッペンの間も9秒と、間延びした間隔で戦いは終盤を迎えることとなった。
順調なペースでトップをひた走るハミルトン。敵がいるとすれば天気の崩れぐらいだと思われたが、空模様はせいぜい小雨程度で済んでいた。それよりもコックピットの中で右足がつってしまい、痛みに耐えながら周回を重ねていたことをレース後に明かしていた。
スタート直後の混乱も小雨も、つった足もなんのその。2位ボッタスに25秒もの大差をつけて完勝を遂げたハミルトンが、ついに単独で歴代最多勝ドライバーとなった。デビューイヤーの2007年第6戦カナダGPで初優勝してからマクラーレンで21勝、2013年にメルセデスに移籍してからは71勝を積み重ねてきたことになる。
2001年にプロストの記録51勝を抜いてから、長く最多勝ドライバーといえばドイツの巨人、シューマッハーだった。それから19年を経て、35歳のイギリス人ハミルトンがこのワールドレコードを更新した。くしくもプロストがジャッキー・スチュワートの27勝を超え歴代最多勝記録を更新したのは、1987年のポルトガルGPでのこと。記録は破られるものという決まり文句も聞こえてきそうだが、少なくとも当面は破られそうもない、孤高の記録が今回樹立されたことは間違いないだろう。92勝といえば、歴代3位のベッテル(53勝)より39勝も多く、4位プロスト(51勝)と5位セナ(41勝)を足した数に匹敵する、途方もない数字なのだから。
ポルトガルGPに続く第13戦は、2006年以来となるイタリアはイモラでのエミリア・ロマーニャGP。決勝は11月1日に行われる。
(文=bg)