【F1 2020】第9戦トスカーナGP「波乱のメモリアルレース ハミルトンは大記録まであと1勝」
2020.09.14 自動車ニュース![]() |
2020年9月13日、イタリアのアウトドローモ・インテルナツィオナーレ・デル・ムジェッロで行われたF1世界選手権第9戦トスカーナGP。ムジェッロでの初レースは、相次ぐクラッシュに2度の赤旗中断、3度のセーフティーカー、3回のスタートと、波乱に満ちた展開となった。
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フェラーリ1000戦目 ベッテルは来季アストンへ
前戦イタリアGPが行われたミラノ近郊のモンツァから南に約300km、イタリア中部トスカーナ州にムジェッロはある。今から46年前の1974年にオープン。1988年にはフェラーリがコースオーナーとなり、以降はテストやイベントの会場として、また二輪の最高峰レースであるMotoGPの、イタリアGPの舞台として使われてきたが、正式にF1の開催地となるのは今回が初めて。ベルギーGP、イタリアGPと続いた高速コース3連戦の最後は、誰にとっても新たなチャレンジとなった。
コロナ禍のスケジュール調整で期せずして誕生したトスカーナGPは、フェラーリにとっての1000戦目。最古参チームがお膝元で前人未到の記念を祝うというまたとない機会となったものの、今季のスクーデリアのパフォーマンスでは華々しさも半減してしまったと言わざるを得ない。過去8戦の戦績は、61点でコンストラクターズランキング6位。昨季までの“3強の一角”もすっかり中位のチームに成り下がってしまっている。シャルル・ルクレールの健闘で開幕戦オーストリアGPと第4戦イギリスGPで奇跡的な表彰台を記録しているものの、過去2戦では1点も取れていなかった。
1000戦目にちなみ名付けられた今季型マシン「SF1000」は、1年前とは打って変わってとにかく直線で遅い。本家チームのみならず、カスタマーのハースやアルファ・ロメオもスピードを持ち合わせていないことから、元凶はパワーユニットにあるというのが大方の見方である。コロナ禍の影響で今季は開発に制限があり、さらに来季からルール上の予算制限(パワーユニットは除く)も始まるのだから、マシンを含めるとリカバリーには相当な時間が必要とみられる。マッティア・ビノット代表も「特効薬はない。忍耐とじっくりと腰を据え改善に取り組むことが肝要」とコメントし、もはやレギュレーションが大きく変わる2022年まで待つしかないのでは、とさえ言われているほどである。
そんな絶不調のスクーデリアを今季限りで追い出されることが決まっているセバスチャン・ベッテルは、うわさ通り、レーシングポイント改め、2021年からアストンマーティンと名を変えるチームへの移籍が確定した。2018年にフォースインディアが破産、カナダの富豪ローレンス・ストロールを中心とした新オーナーのもとレーシングポイントとして再出発していたこのチーム。ストロールがアストンの大株主となったことから、英国伝統のメーカーの名で来季F1に打って出ることになった。その看板として、4度王者となったベッテルは名実ともにふさわしいと考えるのは自然なこと。これまでチーム内で中心的な役割を果たしてきたセルジオ・ペレスは、契約期間半ばでの離脱を余儀なくされたが、熾烈(しれつ)なF1の世界、是非はともかく、このような非情な決断も珍しくはない。
ミレニアムを迎えたフェラーリも、新天地で心機一転を図るベッテルも、長くレースを続けていれば当然のようにある浮き沈みの真っただ中にいる。いずれも再起を期待できる実力を備えているのだから、その時を待つのも、またF1の楽しみのひとつといえるだろう。
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ムジェッロでの初ポールはハミルトン
高低差43m、起伏に富んだ風光明媚(めいび)な丘陵地に横たわる一周5.2kmのムジェッロは、1kmを超えるメインストレートや中高速の15のコーナーを持つハイスピードコースで、シケインのような低速コーナーはない。特に下って右、上って右と続くダイナミックな複合コーナー「アラビアータ」を含む高速区間は、その名前から想起されるイメージに反し、タフでトリッキー。ドライバーは5Gもの加速度と格闘しながら、幅の狭いコースでベストなラインをトレースしなければならない。
かようにチャレンジングなコースで初ポールを取ったのはメルセデスのルイス・ハミルトン。4戦連続、今季7度目、通算では95回目の予選P1となった。2番手には0.059秒というわずかの差でバルテリ・ボッタスがつき、メルセデスは7戦連続でフロントローを独占した。予選3位はレッドブルのマックス・フェルスタッペン。過去4戦中3度目となるおなじみの顔ぶれだが、いつもと違うのは、レッドブルのアレクサンダー・アルボンが4位と好位置につけたことだろう。
1000戦目の面目躍如、ルクレールが5位と健闘するも、ベッテルはQ2落ちの14位に沈んだ。続いてレーシングポイントの2人、ペレス6位、ランス・ストロールは7位となったが、ペレスはプラクティス中に他車をクラッシュに追い込んだとして1グリッド降格、ストロールが6番グリッドに繰り上がった。8位はルノーのダニエル・リカルド、9位にはマクラーレンのカルロス・サインツJr.、そして10位にはルノーのエステバン・オコンが並び決勝を待つこととなった。
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フェルスタッペン早々に離脱 セーフティーカーと最初の赤旗
コースが高速かつツイスティーで狭いとなれば、オーバーテイクは非常に困難になるに違いない。そんな予想と不安に突き動かされたか、レース中は無理なポジション取りによる接触やクラッシュが多発し、混迷を極めることになる。
その予兆は、スタート前にあった。グリッドにつく前、フェルスタッペンのマシンはアイドリングの問題を訴えており、レッドブルのメカニックはその対応に追われていたのだ。59周レースのスタートが切られると、ボッタスがトップを取りターン1へ進入。ハミルトンは2位に落ち、ルクレールが3位に上昇。その後ろでは、最初こそ蹴り出しのよかったフェルスタッペンがパワーとスピードを失い中団のトラフィックに埋没、われ先にと争っていたライバルと接触し、前戦ウィナーのピエール・ガスリーとともに0周リタイアとなってしまった。
これでセーフティーカーが出動。7周目にレースが再開するも、今度はメインストレート上の後続グループでまたもや多重クラッシュが発生し、アルファ・ロメオのアントニオ・ジョビナッツィとハースのケビン・マグヌッセン、ウィリアムズのニコラス・ラティフィとマクラーレンのサインツJr.の4台がマシンを止めた。2度目のセーフティーカーの後、赤旗が出されレースは中断した。
25分後、1位ボッタス、2位ハミルトン、3位ルクレール、4位アルボン、5位ストロールといった順位で13台がフォーメーションラップに出て、9周目からスタンディングスタートが切られた。中断中にミディアムタイヤに履き替えたメルセデス勢は、ハミルトンが首位を奪還、2位ボッタスとなり、3位ルクレール、4位ストロール、5位ペレス、6位リカルド、アルボンは7位に落ちた。
メモリアルレースで3位、絶好の位置を得たフェラーリのルクレールだったが、残念ながら表彰台圏内にとどまる力はなかった。18周目にストロールに抜かれて4位、さらに瞬く間にリカルド、アルボン、ペレスにもオーバーテイクを許し7位に脱落してしまった。
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アルボン初表彰台 ハミルトン最多勝記録にあと1勝
トップのハミルトンは、「タイヤの状態が思わしくない」と無線で伝えるもタイムは好調、30周を過ぎる頃には2位ボッタスとのギャップは4秒を超えていた。ボッタスも「タイヤが終わっている、バイブレーションが出ている」と訴えていたが、こちらはペースを著しく悪化させており、32周目に先んじてハードタイヤに履き替えざるを得なかった。翌周にハミルトンもピットに入り、1位のままコースに復帰。2位ボッタスは7秒後方だった。
タイヤ交換が一巡すると、アンダーカットを成功させたリカルドが3位に上がり、ストロール4位、アルボン5位、ペレス6位というオーダー。44周目になると、4位のストロールが高速コーナーのアラビアータでパンクし大クラッシュ、セーフティーカーが出て各車がピットに飛び込んだ。だがマシン撤去とウォール修復に時間が必要と判断され、2度目の赤旗でレースは中断となった。
ここまでの上位の顔ぶれは、1位ハミルトン、2位ボッタス、3位リカルド、4位アルボン、5位ペレス。約20分のインターバルをおき、日の傾きかけたトスカーナの地でこの日3度目のスタートが切られると、ハミルトンに次いでリカルドが2位に上がり、ボッタスは3位に下がるも翌48周目に2位を奪い返した。3位リカルドは、真後ろのアルボンに気を配らなければならなかった。
51周目、そのアルボンが牙をむきリカルドに襲いかかった。レッドブルがルノーの前を取り、今度は1秒前にいる2位ボッタスに照準を合わせたのだが、ボッタスもファステストラップで応戦。この勝負はメルセデスの方が上手だった。
それでも、3位アルボンにとってはうれしい初表彰台である。昨季中盤にトロロッソからレッドブルに昇格するも、フェルスタッペンとの差をなかなか詰められず、前戦イタリアGPではアルファタウリのガスリーが初優勝。トップチームでの重圧を受けながら、ようやくつかんだポディウムに、「ここまで来るのにだいぶかかった。最高の気分だね」と安堵(あんど)と喜びを隠さなかった。
「1日で3レースしたようなもの。ちょっとぼうぜんとしているよ」とは、今季6勝目を飾ったハミルトン。最初のスタートで2位に落ちた以外は完璧にレースをコントロールし、最後にはファステストラップで1点を追加する余裕も見せた。2位に終わったボッタスとのポイント差は55点にまで拡大。さらに通算勝利数は90となり、ミハエル・シューマッハーの最多勝利記録にあと1勝と迫るまでになった。
フェラーリの1000レース目は、ルクレール8位、ベッテル10位とダブル入賞。高速3連戦すべてで無得点という最悪の結果は避けることができたようだ。
全17戦の2020年シーズンはこのレースを境に後半戦に突入。第10戦ロシアGPの決勝は、9月27日に行われる。
(文=bg)