【F1 2020】シューマッハーに並ぶ最多勝利記録 ハミルトンが次に狙うのは……
2020.10.12 自動車ニュース![]() |
2020年10月11日、ドイツのニュルブルクリンクで行われたF1世界選手権第11戦アイフェルGP。7年ぶりにカムバックした伝統のコースで、ルイス・ハミルトンがミハエル・シューマッハーの最多勝利記録に並んだ。
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ホンダ撤退に見るF1のサステナビリティー
10月2日に発表された2021年シーズンをもってのホンダ撤退の報を受け、当然ながらF1界にもショックが広がっていた。ファン目線では賛否両論、一部では非難囂々(ごうごう)となっているが、ライバルを含めた現場のF1関係者からすれば、ある種の“危機感”を禁じ得ない状況だった。
声を上げたのは、ルノーを率いるシリル・アビテブール代表。来季末にホンダが抜け、メルセデス、フェラーリ、ルノーの3メーカー体制に縮小することは「ポジティブではない」とし、2025年まで続く現行のパワーユニット規定を前倒しで見直し、新規メーカーの参入を促すようにすべきだと主張した。
2014年以来、1.6リッターにダウンサイジングされた内燃機関と2つのエネルギー回生システムを組み合わせたパワーユニットで戦ってきたF1だが、技術的な複雑さや開発コストの高さなどリスクが多く、F1に新たに打って出るような自動車メーカーはホンダ以外現れていない。F1のモータースポーツ担当マネージングディレクターであるロス・ブラウンも、現行規定化での新規参入の可能性がほぼないことを認めているぐらいだ。ホンダの撤退表明は、ホンダだけの問題ではなく、F1が抱える問題でもあるのだ。
2050年までのカーボンニュートラルへの道を示したホンダ。そこにF1が入り込む余地は残されていなかったことがはっきりした。今年70周年を迎えたF1は、100周年に向けてどんな道を歩むべきなのか。ホンダの撤退にF1のサステナビリティー(持続可能性)が問われている。
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前戦からの勢いそのまま ボッタスがポール獲得
コロナ禍のスケジュール調整で2013年以来となるカレンダー復帰を果たしたニュルブルクリンク。7年前にレッドブルのセバスチャン・ベッテルが母国初優勝を飾ったのも今は昔、ターボハイブリッド規定化では初レースとなる。当初はホッケンハイムでのドイツGPが検討されていたが、結果的に実現しなかったため、一国一GP開催の原則からサーキットがある地名をその名に頂いた。
秋深まるドイツ西部の山地は気温も10度前後と低く、金曜日は雨と霧により2つのフリー走行すべてがキャンセル。天候が回復した土曜日に1時間のフリー走行が実施されたのみで予選を迎えることになった。誰もが十分な準備ができないままでいたが、なかでもレーシングポイントは多忙極まる状況に。ランス・ストロールが体調不良で走行できず、イギリスGP、70周年記念GP以来となるニコ・ヒュルケンベルグがぶっつけ本番で予選に出走。最後尾20位でなんとかセッションを終えたのだった。
今季全戦でポールポジションを獲得しているメルセデス勢が通算72回目のフロントロー独占に成功。前戦ロシアGPで起死回生の今シーズン2勝目を挙げたバルテリ・ボッタスが、その勢いをキープして今年3回目、通算14回目の予選P1を奪った。0.256秒遅れてルイス・ハミルトンが2位。ポールを狙える速さを見せながら、最後のアタックでアンダーステアに苦しんだレッドブルのマックス・フェルスタッペンが3位につけた。
4番手タイムはシャルル・ルクレールが記録し、フロアやバージボードなどエアロパーツを改良したフェラーリで善戦。しかし僚友セバスチャン・ベッテルは母国で7戦連続Q2敗退、11位と明暗が分かれた。レッドブルのアレクサンダー・アルボン5位、その後ろにはルノー勢が並び、ダニエル・リカルド6位、エステバン・オコン7位。マクラーレン勢は旧型パーツを付けたランド・ノリス8位、新型を装着するも芳しくなかったカルロス・サインツJr.は10位。レーシングポイントのセルジオ・ペレスが9位からレースに臨むこととなった。
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ボッタスの脱落でハミルトンが首位へ
メルセデスは、当初スタートタイヤにソフトではなくミディアムを考えていたが、スタート時の蹴り出しの良さを選び、ライバルと同じソフトで出走することにした。雲間から時折日が差すも、気温9度、路面温度18度という、通常のF1では想定されていない寒さ。さらに走行時間の少なさもあり、タイヤマネジメントほか手探りなまま、60周のレースは幕を開けた。
ハミルトンが好スタートでボッタスに並びかけるも、ボッタスが意地を見せトップを守った。2位ハミルトン、3位フェルスタッペン、4位ルクレール、5位リカルド、6位アルボンでオープニングラップは終了。4位ルクレールのペースは思わしくなく、9周目にリカルドが4位に上がった時には、トップ3は既に17秒も先を行っていた。
10周を過ぎ、首位のボッタスは2位ハミルトンに1.2秒リードを築いていたが、13周目のターン1でタイヤをロックアップさせてしまう。オーバーランしたチームメイトの隙をハミルトンがすかさず突きトップ交代。タイヤを痛めたボッタスは14周目にピットに入り、ミディアムタイヤでコースに戻った。
16周目、リタイアしたウィリアムズのマシンを片付けるためバーチャルセーフティーカーが出た。先頭2台にとっては絶好のタイミングとなり、ハミルトン、フェルスタッペンともミディアムに交換、順位を落とすことなく走行を続けることができた。
一方のボッタスは不運が続き、ノンストップで走り続けるノリスとペレスに前をふさがれてしまう。さらに18周目になると「パワーがない」と訴えるようになり再びピットへ。メルセデスにしては珍しい、「MGU-H」が原因と思われるトラブルでリタイアを喫した。
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最多勝利記録に並んだハミルトンへのプレゼント
ボッタスがいなくなったことで、優勝争いはハミルトンとフェルスタッペンに絞られたが、レッドブルはメルセデスに対し0.3秒程度遅くギャップは徐々に広がり、残り20周の時点で9.8秒にまで拡大。その後方の3位リカルドとは60秒の差ができていた。
その間隔が一気に詰まる出来事が起きた。44周目、パワーロスを訴えながら走行していたマクラーレンのノリスがコース脇にマシンを止めたことでセーフティーカーが出たのだ。この機会に各車続々とピットイン。1位ハミルトン、2位フェルスタッペン、3位リカルド、4位ペレス、5位サインツJr.、6位ルクレールといったオーダーで50周目にレースは再開した。
冷えたタイヤでの再スタートに賭けた3位リカルドだったが、フェルスタッペンに迫るも抜けず。トップのハミルトンは、ファステストラップを連発して逃げにかかり、フェルスタッペンを寄せ付けなかった。
結局、ハミルトンはフェルスタッペンに4.4秒の差をつけ真っ先にチェッカードフラッグを受けた。彼にとっての通算91勝目は、ミハエル・シューマッハーの歴代最多勝記録と肩を並べる大記録。シューマッハーの母国ドイツ、1927年にオープンした歴史あるニュルブルクリンクで達成された偉業である。
レース後、F2選手権を戦うシューマッハーの息子ミックから、彼の父親がメルセデス時代にかぶっていたヘルメットがハミルトンに手渡された。2人合わせて、F1の過去1029戦の約18%で勝利をおさめてきたことになるハミルトンとシューマッハー。ハミルトンが次に狙うのは、最多勝で単独トップとなること、そしてシューマッハーが持つ最多7度目のタイトルに並び、追い越すこと。11戦して7勝目、チャンピオンシップでは69点ものリードを築いていることからも、今季だけで2つの目標は十分クリアできそうである。
2位に終わったフェルスタッペンは、メルセデスとの力量の差を認めつつ、最終ラップにファステストラップをたたき出せたことにポジティブな手応えを感じていた。そして3位のリカルドは、2018年モナコGP以来、ルノー移籍後では初となる表彰台に喜びをかみしめていた。
次戦は、F1にとって新しいコースであるアルガルベ・サーキットで、24年ぶりに行われるポルトガルGP。決勝日は10月25日だ。
(文=bg)