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“ハイブリッドのトヨタ”初の量産EV 「レクサスUX300e」が少数限定販売となった理由

2020.11.25 デイリーコラム 佐野 弘宗

たった135台の抽選販売

先日受注が始まった「レクサスUX300e」は、トヨタが国内販売する史上初の量産電気自動車(EV)だ。電気で走るクルマという意味なら、トヨタには量産燃料電池車の「ミライ」があるが、トヨタの量産バッテリー式EVが日本で発売されるのは今回が初である。そんな記念すべき一台が、トヨタブランドではなくレクサスで、しかも発売初年度がたった135台限定の抽選式となったことに、落胆の声があるとかないとか……。

いや、これが10年前だったなら、とやかくいわれる問題でもなかっただろう。しかし、2010年末に販売開始された日産の「リーフ」はすでに世界累計50万台に達しているし、量産EVの国内発売という意味では、トヨタはすでに三菱、日産、ホンダの後塵を拝している。それなのに、トヨタより明らかに購入のハードルが高いレクサスを名乗るうえに、台数も超限定。聞けば、レクサスの国内販売拠点は日本全国で約170店舗あるというから、初年度のUX300eは1店舗に1台も渡らない計算である。しょせんトヨタはEVに本気でないということか……とツッコミを入れられてもしかたない。

というわけで、トヨタ初の国内向け量産EVがこんなことになった理由を、その開発責任者とレクサス広報担当は次のように説明する。

「レクサスUX300eはレクサスの電動化ビジョン“Lexus Electrified”のドアオープナーとなるモデルです。EVをはじめとする先進技術や環境への関心が高いお客さまのエントリーゲートとなるモデルだと考えています。

また、現時点で生産可能なリチウムイオンバッテリーの台数を踏まえ、本年度は135台の限定販売とさせていただきました。通常の受注開始については現時点では具体的な日程をお答えできませんが、来年度の開始を予定しております」

2020年10月22日に国内導入が発表された「レクサスUX300e」。
2020年10月22日に国内導入が発表された「レクサスUX300e」。拡大
レクサスの電動化ビジョン“Lexus Electrified”のドアオープナーとして導入される「UX300e」。電動化技術でリードしてきたレクサスならではの走りが楽しめるという。
レクサスの電動化ビジョン“Lexus Electrified”のドアオープナーとして導入される「UX300e」。電動化技術でリードしてきたレクサスならではの走りが楽しめるという。拡大

必要な市場に必要な分だけ

もっとも、UX300eは日本でこそたった初年度135台だが、世界的にはそんな小規模なプロジェクトではない。その世界初公開が2019年11月の広州モーターショーだったことからも分かるように、UX300eは、なんだかんだいっても世界最大のEV市場である中国で売ることが第一義である。中国ではさらに、UX300eと基本設計を共用する「トヨタC-HR EV」や「トヨタ・イゾアEV」も販売されている。

中国市場の次が欧州市場である。苛烈なメーカー平均CO2排出規制が導入されている欧州市場では、どのメーカーも一定以上のEVを販売しないと立ち行かない状況になっている。欧州はある意味で中国以上に「EV待ったなし」ともいえるが、現地でのトヨタのCO2排出目標達成度はトップクラス。トヨタが欧州で販売するEVは現時点でUX300eだけで、日本と同じくトヨタブランドのEVの用意はない。これは「トヨタブランドのEVは欧州でもまだ不要」ということでもあろう。

UX300eにとっての日本は、中国と欧州に次ぐ3番目の市場でしかないのだから台数が限られるのも当然かもしれない。ただし、同じくバッテリー供給を理由に国内受注が停止中の「RAV4 PHV」の例を見るに、トヨタのバッテリー調達計画が大いに甘かったのも否めない。

レクサス広報担当はさらに「商品ポートフォリオの面では、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車など、世界各地のニーズやインフラ環境に応じて適材適所で商品開発を進めラインアップを拡大してまいります」と続けた。この言葉にあるように、EVについては「世界各地のニーズやインフラ環境に応じて」がトヨタの一貫した姿勢である。トヨタが「一部のEV急進派が思っている以上に、ハイブリッドの時代が長く続く」と考えているフシがあるのは間違いないが、かといってEVを否定しているわけではない。「必要な市場に必要な分だけ供給する」ことに、ためらいは皆無である。

「UX300e」の価格は“バージョンC”が580万円で“バージョンL”が635万円。ハイブリッド車「UX250h」の同名グレードよりも120万円ほど高価だ。
「UX300e」の価格は“バージョンC”が580万円で“バージョンL”が635万円。ハイブリッド車「UX250h」の同名グレードよりも120万円ほど高価だ。拡大
駆動用バッテリーの容量は54.4kWhで、満充電からの航続可能距離は367km(WLTCモード)。レクサスの担当者によれば速さや航続距離を競うのではなく、普通に乗れる・使えるのが「UX300e」の強みだという。
駆動用バッテリーの容量は54.4kWhで、満充電からの航続可能距離は367km(WLTCモード)。レクサスの担当者によれば速さや航続距離を競うのではなく、普通に乗れる・使えるのが「UX300e」の強みだという。拡大

本命は別にいる!

また、トヨタが初の本格量産EVにあえてレクサスを選んだのも、彼らがEVに本気でないから……ではもちろんないだろう。EVはすこぶる速くて静かに走るが、車両価格と航続距離に課題を抱えている。そんなEVでも、富裕層のセカンドカー需要には即戦力で食い込める可能性があるのはテスラの成功を見れば明らか。それゆえのレクサスなのだろう。付け加えると、あの「ホンダe」が航続距離を割り切るいっぽうで、クルマ本体があれほどまでにコストをかけた専用設計になっているのも、メインターゲットが欧州の富裕層だからである。

このように、“初年度135台限定”という数字から想像されるよりは、トヨタはUX300eに対してそれなりに本気だが、これがトヨタの本命EVではないことも事実だ。

UX300eはガソリン車/ハイブリッド車の「UX」と同様に、既存の「GA-C」プラットフォームを骨格とする。GA-Cが最初からEV化も想定した設計になっていることは事実だが、同時にEVに最適化された設計でもない。……と、そこで思い出されるのが2019年6月に発表された「トヨタとスバル、EV専用プラットフォームおよびSUVモデルのEVを共同開発合意」である。

当時の発表によると、トヨタとスバルは中・大型乗用車向けのEV専用四輪駆動プラットフォームと、それを使ったCセグメントSUVを共同開発して、両ブランドで販売する予定となっている。実際、その発表から約半年後の2020年1月の“スバル技術ミーティング”ではその(スバル版の)試作と思われるモックアップも公開された。

レクサス広報担当も「2020年代前半にはプラグインハイブリッド専用車やEV専用モデルを投入する計画」と語っており、ここでいうEV専用モデルが、スバルと共同開発中のEV専用プラットフォーム車と見て間違いない。UX300eはトヨタにとってはほんの序章にすぎない。トヨタの本命EVが見られるのは、あと数年だけ先のことである。

(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

電動駆動モジュールはアイシングループが開発した「eAxle」。最高出力203PSと最大トルク300N・mを発生する。
電動駆動モジュールはアイシングループが開発した「eAxle」。最高出力203PSと最大トルク300N・mを発生する。拡大
スバルとトヨタが共同開発を進めるSUVタイプの電気自動車は、2020年代前半に投入される見込み。写真は2020年1月にスバルが公開したそのデザインスタディーモデル。
スバルとトヨタが共同開発を進めるSUVタイプの電気自動車は、2020年代前半に投入される見込み。写真は2020年1月にスバルが公開したそのデザインスタディーモデル。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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