「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか
2025.11.19 デイリーコラム6輪には夢がある
6輪と聞くとすぐ1976年と1977年にF1を走った「ティレルP34」を連想してしまう筆者なので、ジャパンモビリティショー(以下JMS)2025で展示された「レクサスLSコンセプト」を見て興奮を覚えたのは言うまでもない。前4輪+後ろ2輪のP34と違ってLSコンセプトは前2輪+後ろ4輪だけれども、大きなタイヤと小さなタイヤの組み合わせである点は共通している。このアンバランスさがいい。ティレルP34は空気抵抗を減らすためにフロントを小さなタイヤにしたが、それでは接地面積が減ってしまうのでフロントを4輪とした。ではLSコンセプトは?
余談を続けると1980年代初頭にはウィリアムズF1が前2輪+後ろ4輪のテストカーを走らせた。リアを小径として空気抵抗を減らしつつ、4輪でトラクションを稼ぐ考えである。アンバランスなゆえに目を引くせいか、6輪には夢がある(と、勝手にそう感じている)。
現行レクサスLSはレクサスのフラッグシップセダンだ。車名のLSは「Luxury Sedan(ラグジュアリー・セダン)」に由来する。一方、同じLSでもJMS出展車のLSは「Luxury Space(ラグジュアリー・スペース)」だそう。将来のレクサスのフラッグシップはセダンではなくなるということを示唆しているのだろうか。
サードシートを重視したがゆえの6輪化
LSコンセプトのシルエットは現行「LM」風だ。いわゆるミニバンのシルエットである。だが、リアに小さなタイヤが片側2つ、合計4つ付いている。奇をてらったわけではなく、これには合理的な理由がある。
LSコンセプトはショーファーカーとして仕立てられており、セカンドシートがVIPのための特等席という設定。だから、サードシートの乗降性を重視した。その結果、リアに小さなタイヤを4つ付けた6輪になったというわけだ。ん? どういうこと? と疑問に思うに違いない。
現行のミニバンスタイルのショーファーカーの場合、サードシートに人が乗り込むには、セカンドシートを前にスライドさせたり、シートバックを倒したりする必要がある。するとその間、セカンドシートに座るはずのVIPは外で立って待っていなければならない。雨が降っていればその間、VIPはずぶぬれになる。
セカンドシートが左右で独立したキャプテンシートなら、左右シート間に通路があるので、その間を通ってサードシートに移動することはできる。だが、この場合でもセカンドシートに座る人はサードシートに座る人の移動を待って乗り込むことになる。
レクサスLSコンセプトは、セカンドシートにキャプテンシートではなくベンチシートを選択した。キャプテンシートは一見豪華だが、ジャケットを脱いでくつろごうとしたり、着替えたりするときに窮屈で不便との考えからである。ベンチシートなら手荷物をポンと気軽に置くこともできる。となると、左右シート間を通って後ろに移動するわけにはいかない。
LSコンセプトはまず、フロントシートをぐっと前に出した。左右前輪の間に足を入れ込むようなレイアウトである。セカンドシートの足元空間を広く確保するためだ。前輪駆動だとすると、ドライブシャフトが干渉しないギリギリまでフットスペースを攻めた格好となる。あるいはインホイールモーター?
必要は発明の母である
駆動方式はこの際置いておくことにして、セカンドシートとサードシートへは同時にアクセスできるようにした。そのカラクリが6輪である。リアタイヤを小さく、かつ細幅にすればタイヤハウスの高さ方向、幅方向の張り出しを小さくすることができ、セカンドシートを動かさなくてもサードシートに乗り込むことができるようになる。そのための6輪というわけだ。リアを4輪としたのは、小さなタイヤ2輪では荷重を受け止めることができないからだ。
サードシートは2人掛けが一般的だが、LSコンセプトはタイヤハウスの張り出しが小さいおかげで3人掛けを可能としている(車幅が広いおかげもあるかもしれない)。小径タイヤのおかげでタイヤハウスの張り出しが低い位置にとどまっているので、アームレストは腕を休ませるのに適正な位置となっている(既存モデルのサードシートのように高い位置にない)。
というのが、レクサスLSコンセプトが6輪になった理由である。決して意表を突いたわけではなく、開発に携わった関係者によれば6輪化は「必要は発明の母」なのだという。セカンドシートを重要視した結果として必然的に導き出されたというわけだ。
真面目に考えると、エアボリュームの小さなタイヤでリアの乗り心地はきちんと担保されるのか、といった点が気になるが、素人がパッと思いつくようなことは百も承知なのだろう。コンセプトカーで終わることなく、現実になることを期待したい。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=webCG/編集=藤沢 勝)

世良 耕太
-
長く継続販売されてきたクルマは“買いの車種”だといえるのか? 2025.11.17 日本車でも欧州車並みにモデルライフが長いクルマは存在する。それらは、熟成を重ねた完成度の高いプロダクトといえるのか? それとも、ただの延命商品なのか? ずばり“買い”か否か――クルマのプロはこう考える。
-
ホンダが電動バイク用の新エンブレムを発表! 新たなブランド戦略が示す“世界5割”の野望 2025.11.14 ホンダが次世代の電動バイクやフラッグシップモデルに用いる、新しいエンブレムを発表! マークの“使い分け”にみる彼らのブランド戦略とは? モーターサイクルショー「EICMA」での発表を通し、さらなる成長へ向けたホンダ二輪事業の変革を探る。
-
キーワードは“愛”! 新型「マツダCX-5」はどのようなクルマに仕上がっているのか? 2025.11.14 「ジャパンモビリティショー2025」でも大いに注目を集めていた3代目「マツダCX-5」。メーカーの世界戦略を担うミドルサイズSUVの新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 開発責任者がこだわりを語った。
-
新型「シトロエンC3」が上陸 革新と独創をまとう「シトロエンらしさ」はこうして進化する 2025.11.13 コンセプトカー「Oli(オリ)」の流れをくむ、新たなデザイン言語を採用したシトロエンの新型「C3」が上陸。その個性とシトロエンらしさはいかにして生まれるのか。カラー&マテリアルを担当した日本人デザイナーに話を聞いた。
-
“Baby G”の開発状況は? 来日したメルセデスAMGの開発トップにインタビュー 2025.11.12 ジャパンモビリティショー2025の開催に合わせて、メルセデスAMGのCEOであるミヒャエル・シーベ氏が来日。自動車メディアとのグループインタビューに応じた。「コンセプトAMG GT XX」に込めた思いや電動化時代のAMGの在り方などを聞いてみた。
-
NEW
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。




































