【F1 2020】シーズン最後の中東3連戦 危機との遭遇で知るF1のレジリエンス
2020.11.30 自動車ニュース![]() |
2020年11月29日、バーレーン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第15戦バーレーンGP。シーズン最後の中東3連戦の初戦は、マシンの大破、炎上というショッキングなアクシデントに見舞われた。
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接戦・混戦・激戦のラスト3連戦
第13戦エミリア・ロマーニャGPでメルセデスが前人未到の7連覇を達成。続く前戦トルコGPではルイス・ハミルトンがミハエル・シューマッハーの最多記録7冠に並んだ。両タイトルが確定したことで、残る3戦が消化レースとなるかといえばそんなことはなく、各所で繰り広げられる接戦から目が離せない状況である。
まずは年間順位が分配金など稼ぎに影響するコンストラクターズ選手権。チャンピオンのメルセデス(504点)、2位レッドブル(240点)までは確定だが、3位レーシングポイント(154点)、4位マクラーレン(149点)、5位ルノー(136点)、6位フェラーリ(130点)と中団勢は混戦模様。フェラーリは、今季型「SF1000」とパワーユニットの失敗で3強の座から転げ落ちるも、トルコGPではセバスチャン・ベッテルが今季初となる3位表彰台を獲得するなどし、シーズン終盤に来てようやくトップ5の尻尾が見えてきた。
一方のドライバーズチャンピオンシップも、たった1人でレッドブルの2人より67点も多い307点を手にしていた孤高の王者ハミルトンを除けば、まだ先行きは分からない。2位バルテリ・ボッタス(197点)と3位マックス・フェルスタッペン(170点)は27点差で逆転可能。トルコで2位表彰台を記録しランキング4位に浮上したセルジオ・ペレス(100点)以下も、5位シャルル・ルクレール(97点)、6位ダニエル・リカルド(96点)と僅差での激戦が続いている。特に今季限りでレーシングポイントからの放出が決まっているペレスは、F1残留を狙うためにも好成績で一年を締めくくりたいところだ。
2020年シーズンも、バーレーンで2戦、アブダビで最終戦という中東シリーズ3連戦でフィナーレを迎える。次週はバーレーンのコースの外周路を使った“なんちゃってオーバル”での戦いとなるなど、見どころが尽きることはない。
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ハミルトンが今季10回目のポール 通算100回まであと2回
予選ではハミルトンが文句なしの一発を決めて、15戦目にして10回目のポールポジションを獲得。タイトル数や勝利数など数々の「最多記録」を更新し続けている彼だが、そのうちのひとつである最多ポールポジション記録はこれで98回目となり、今シーズン中の100回目到達も夢ではなくなった。
0.289秒差で予選2位につけたのはボッタスで、メルセデスにとっては通算75回目のフロントロー独占。2列目にはレッドブル勢が並び、フェルスタッペンは3位、アレクサンダー・アルボンは4位からのスタートとなった。
中団勢トップとなる5位はレーシングポイントのペレスで、6位ダニエル・リカルド、7位エステバン・オコンのルノーを抑えて好位置を獲得。アルファタウリは、ピエール・ガスリー8位、ダニール・クビアト10位とトップ10グリッドに2台とも食い込み、マクラーレンのランド・ノリスが9位からレースに臨むこととなった。
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スタート直後にグロジャンのハースが炎上
天災は忘れたころにやってくるというが、F1においても大きな事故は予期せぬタイミングで起こるものである。57周レースのスタート直後、ロメ・グロジャンのドライブするハースが炎上する大事故に見舞われたのだ。
19番手と後方スタートのグロジャンは、ターン3でダニール・クビアトのアルファタウリにあたるとコース外にはじき出され、ガードレールに突っ込んだ。マシンは前後で真っ二つに折れ、ぶちまけられたガソリンに引火しあっという間に炎が上がった。燃え盛るコックピットにはまだグロジャンが残っていたが、意識を失っておらず自力で脱出。駆けつけていたメディカルスタッフらに付き添われて病院へと運ばれた。奇跡的にやけど程度で済んだものの、堅牢(けんろう)な現代のF1マシンでは珍しいショッキングな大事故に、ドライバーをはじめ多くの関係者に動揺が広がった。
ガードレール修復に時間を要し、約1時間25分後にレース再開。最初のスタート直後の順位、1位ハミルトン、2位フェルスタッペン、3位ペレス、4位ボッタス、5位アルボンという並びで仕切り直しとなった。だが今回も後方でアクシデント発生。ランス・ストロールのレーシングポイントがクビアトのマシンに乗り上げ横転したことで、セーフティーカーが出ることとなった。
この間、4位ボッタスのタイヤがスローパンクチャーを起こし緊急ピットイン。ボッタスはまたしても不運に足を引っ張られ、この日は3ストップで8位完走というさえない結果に終わることとなる。
9周目のリスタートでは大きな混乱はなく、1位ハミルトン、2位フェルスタッペン、3位ペレス、4位アルボンという顔ぶれは、レース終盤までほぼ変わらなかった。
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久々のレッドブル2台そろっての表彰台
4本のストレートを持つバーレーンのコースは、トラクションをかける際にタイヤへ大きな負荷がかかるため、特にリアタイヤのオーバーヒートに注意しなければならず、2ストップは必至と言われていた。
最初のタイヤ交換は20周前から増えだし、首位ハミルトンは20周目にミディアムからミディアム、アルボンもこの動きにならい、21周目にはフェルスタッペンとペレスがハードへスイッチした。
先頭を走るハミルトンと2位フェルスタッペンのギャップは4~5秒台、3位ペレスはさらに16秒遅れ、その4秒後方には4位アルボンという間隔。上位陣は膠着(こうちゃく)ポジションのまま、次のタイヤ交換フェーズに入る。35周目にフェルスタッペンがハードからハード、アルボンはミディアムからハードに換装。これに応じてハミルトンもハードに交換、37周目にはペレスもハードに履き替えた。
2ストップ後も、1位ハミルトンと2位フェルスタッペンの差は3秒台後半から縮まらず。レッドブルは、3位ペレスとの間隔が大きかったため、47周目に三たびフェルスタッペンを呼んでミディアムを与え、2位の座と、ファステストラップポイント1点を持ち帰ることとした。
レッドブルにはもう1つプレゼントが用意されていた。残り4周、3位走行中のペレスのマシンから白煙と火が上がりストップ、セーフティーカーが出た。レースは再開することなく、2年連続でセーフティーカー先導のままチェッカードフラッグとなったが、これで労せずしてアルボンが3位に上がり、レッドブルにとっては2017年日本GP以来となる久々の2台そろっての表彰台となったのだ。
一方、レーシングポイントは無得点に終わったばかりか、ノリス4位、サインツJr.5位とマクラーレンが上位でダブル入賞を果たしたことで、コンストラクターズランキング3位の座を奪われるという最悪の結果となってしまった。
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事故から受けた衝撃と原因究明
レース後、ポール・トゥ・ウィンで今季11勝目を飾ったハミルトンも、2戦連続の表彰台をふいにしたペレスも、誰もが例外なく、グロジャンが無事だったことに胸をなでおろすとともに、事故から受けた衝撃を語っていた。
ハミルトンは「F1は危険なスポーツなんだということをわれわれに思い出させた」としつつ、「あのような事故でもドライバーが無事であることに、F1やFIA(国際自動車連盟)の素晴らしい仕事ぶりを見る思いだ。もちろん、事故原因を究明し再発を防ぐことに尽力することになるだろう」と、安全性の重要さをあらためて説いていた。
過去の教訓から学び、未来へ生かす。モータースポーツの歴史はその繰り返しだった。危機との遭遇で思い知る、F1のレジリエンス(回復力)を、われわれは知っている。
次の第16戦はバーレーンのショートコースを使ったサキールGP。決勝は12月6日に行われる。
(文=bg)
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