あれもこれも販売トップ! ルノーが欧州で売れまくるのはなぜなのか?
2021.02.12 デイリーコラム支持率に違いがありすぎる!
先ごろ日本上陸した「ルノー・キャプチャー」は「欧州コンパクトSUVのリーダー」を自称して、すでに欧州で発売済みの新型も「2020年の欧州すべてのSUVモデル中で販売台数1位」だったと誇らしげにうたっている。また、昨2020年10月に新型が国内で発売された「ルーテシア」も、先代となる4代目は欧州Bセグメント販売1位、乗用車全体でも2位という販売成績を最後まで維持した。さらには、新しい5代目も発売直後から現在まで、日本以上のコロナ禍にある欧州市場で4代目からの定位置を基本的に守り続けている。
つまり、どちらも欧州では押しも押されもせぬベストセラー商品なのだ……といった事実を、今回あらためて知らされた編集部S君は「そもそも、欧州ではなぜルノーが売れているんですか?」という素直な疑問を私に投げかけてきた。というのも、私が約15年前に「メガーヌ」を新車購入して以来、ルノーの新車だけを4台続けて購入して、今も2台を所有しているルノー中毒人間だからだ。
もっとも、私がルノーを好む理由は、乗り味が単純に私の肌に合っていて、しかもルノー・ジャポンが私の大好きなMT車を継続的に用意してくれているから……という2点に集約される。もちろん自動車評論家的にルノーの美点を論理的に説明できなくもないが、かといって、無差別・無条件にルノーをオススメするつもりはない。日本におけるルノーはしょせん少数派のニッチ商品であり、ちょっとした部品調達やリセール面を考えるだけでも、日本で普及しているドイツ車などより面倒くさい部分が多いからだ。
Bセグメントは大得意
しつこいようだが、日本でのルノーはニッチである。たとえば昨2020年に日本に正規輸入された海外ブランド車で、ルノーの販売台数は10位。ちなみに9位はポルシェ。ルノーはあの高級スポーツカーよりマイナー(!)なのだから、S君のような疑問を持つのは、日本に住む者としては当然だろう。
しかし、欧州でのルノーブランドは“ド”の字をつけたくなるほどメジャーである。ルノー自身のリポートによると、2020年の欧州市場におけるルノーブランドのシェアは7.7%だったという。その2020年の欧州ブランド別ランキングはまだ確定していないようだが、2019年実績でいうと、ルノーの欧州シェアはフォルクスワーゲンに次ぐ2位。2020年も月間販売台数の推移を見るかぎり、ルノーの2位か3位は堅そうだ。
そんな欧州のドメジャーブランドの稼ぎ頭が、ルーテシアでありキャプチャーなのだ。そもそも欧州の乗用車市場は日本以上にBセグメントのコンパクトカー比率が高い。たとえば、その典型的な顔ぶれとなった2020年10月の乗用車販売トップ10では、5台がBセグのハッチバック、BセグSUVとCセグが2台ずつ、そしてAセグが1台だった。
ブランドの国籍でいうと、ドイツブランド車は2台で、1位の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」と3位の「オペル・コルサ」のみ。残るはフランスが5台で、イタリア、日本、チェコが各1台ずつだった。ルノーを含めたフランス車がなぜこんなに多いかというと、欧州での圧倒的な売れ筋であるBセグでは、ルノーに加えてプジョーやシトロエンも伝統的に強いからである。日本で欧州Bセグというと、ドイツ系の「フォルクスワーゲン・ポロ」と「MINI」が売れ筋だが、国別はともかく欧州全体の販売ランキングではどちらもトップ10に顔を出すことはほとんどない。
日本における輸入車はいまだに贅沢品とも捉えられがちなのは否めない。よって、日本での輸入車の売れ筋商品も、コンパクトカーよりCセグやDセグ、あるいはそれ以上のクラスに多い。Cセグ以上の商品になると、フランス車がドイツ車にまるで歯が立たないのは、欧州市場も日本市場も大きく変わらない。Cセグ以上が売れ筋となる日本の輸入車市場で、フランス車が欧州市場とは正反対のニッチにならざるを得ないのは必然というほかない。
“見た目のよさ”が決め手
そんな中でも、ルーテシアやキャプチャーが、同じく欧州トップ10の常連である「208」や「C3」、あるいは「2008」より多く売れるのは、デザインが評価されているからだ……とルノー自身は分析する。実際、先代ルーテシアやキャプチャーでは購入動機の約半分が「エクステリアデザインが気に入ったから」だった。
今でこそ、自動車メーカーがデザイン担当役員を置くのは当たり前だが、その経営スタイルを自動車業界に初めて持ち込んだのはルノーだ。知る人ぞ知るパトリック・ル・ケモンが同社のデザイン担当副社長に就任したのは1995年のことで、当時は画期的な出来事だった。以来、準国営企業のルノーは「デザインがイケてるブランド」とのイメージを確立した。現在のルノーデザインを取り仕切るのは、ル・ケモンの後任として2009年に迎えられたローレンス・ヴァン・デン・アッカーである。彼の下でつくられた最初の商品が先代ルーテシアとキャプチャーであり、それは見事にヒットした。ルノーはこうして、ル・ケモン商法の継承に成功した。
先代ルーテシアとキャプチャーが欧州でウケた理由は、デザインだけではない。どちらも車体サイズは当時のクラス最大級で、コンパクトカーなのに大人4人でしっかり使えて、荷物も積めることが特徴だった。
先代ルーテシアが発売された2012年当時、世のBセグにはサイズを再縮小する機運も見られたのだが、ルーテシアはあえて、より大きく立派になって登場した。また黎明期のBセグSUVで各社が試行錯誤する中、初代キャプチャーはハッチバックより実用的な王道レジャーカーとして世に出た。結果として、ルーテシアとキャプチャーは上級クラスからのダウンサイジング層を取り込むことに成功した。最近の欧州Bセグ各車を見ても、ルノーのコンセプトを後追いしている例が多い。
ルノーはもともと技術的にはオーソドックスで、スポーツ性や独自の乗り味をことさら主張するタイプではない。「ごく普通によくできたクルマを、ちょっとイケてるデザインで包んで売る」のがルノーである。これはメジャーゆえの強力な販売力があればこそ成り立つビジネスモデルでもあり、ニッチ商法でいくしかない日本市場では、だからルノーの魅力は伝わりづらく、売りづらい。いや、ルノーはホント、いいクルマなんですけどね。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー・ジャポン、webCG/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。